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韓国の出生率0.78で、7年連続過去最低を更新-少子化の主な原因と今後の対策について-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1――韓国の出生率が7年連続過去最低を更新
また、2000年代に平均5%であった経済成長率が2012年に2%台に低下してから回復されず、それ以降も2%前後という今まで韓国経済が経験していなかった低成長が続いたことも若者の失業率や非正規労働者の割合を引き上げたことにもつながり、出生率にマイナスの影響を与えただろう。韓国の国会立法調査処は、2014年8月に2013年の出生率が1.19のままで少子化が改善されない場合、「韓国は2750年には消滅する」という推計結果を発表した。しかし、状況はより深刻になった。このままだと韓国が地球上から消滅する日はより早まるだろう。
さらに、韓国国内においてもソウルの出生率は0.59で前年の0.63を下回り、全国で最も低かった。特に、ソウルの中でも冠岳区(クァナクく、0.42)、広津区(クァンジンく、0.46)、鍾路区(チョンノく、0.47)、江南区(カンナムく、0.49)の出生率は0.5を下回った。韓国の2022年の出生児数は24万9,000人となり、2012年の48万5,000人と比べて約半分にまで減少している。一方、2022年の死亡者数は37万2,800人で前年の31万7,700人より17.4%増加した。出生数と死亡数の差である人口の自然減は、12万3,800人(2020年3万3,000人、2021年5万7,300人)となり、3年連続の人口減少となった。
2――韓国における少子化の原因
(1)若者がおかれている経済的状況が良くない
韓国ではまだ儒教的な考えが根強く残っており、結婚してから出産するケースが多い。しかしながら、多くの若者は安定的な仕事を得ておらず、結婚という「贅沢」を選択できない立場に置かれている。韓国における 20~29歳の若者の失業率は 2020 年の 9.0%から 2022 年には6.4%に改善した。しかし、これは新型コロナウイルスのパンデミックによる落ち込みからの反動増の側面が強く、政府の財政支出が雇用を押し上げていること、人口構造的に若者人口が減少していること等が失業率改善の主な理由である。
しかしながら、2022 年の若者の失業率は全体失業率2.9%より 2.2倍以上も高く、同時点の日本の 20~24 歳と 25~29 歳の失業率である 4.8%と 3.8%を大きく上回っている。さらに、15~29歳の若者の「拡張失業率」は2022年時点で19.0%(15~29歳の失業率は6.4%)に達している(図表2)。「拡張失業率」とは、国が発表する失業者に、潜在失業者(就労を希望しつつも、様々な事情から求職活動をしていないので失業者としてカウントされない失業者)や不完全就業者(週18時間未満働いている者)を加えて失業率を再計算したものである。
一次労働市場に入れなかった若者の多くは「公務員」になるために公務員試験の準備をしている(志願者の平均年齢は29.4歳で、全志願者に占める20代の割合は60.9%)。しかしながら、公務員になることは簡単ではない。志願倍率は年々下がっているものの、2022年には5,672人を採用する9級国家公務員採用試験に165,524人が志願し、志願倍率は34.3倍2に達した。
また、高い不動産価格も未婚化・晩婚化の一因になっている。韓国では結婚前に男性側が家を用意する慣習があるものの、近年の不動産価格の高騰は男性にとって結婚のハードルを高め、婚姻件数の減少にもつながっている。最近は、韓国銀行(中央銀行)の急速な利上げに伴う金利の上昇等で全国のマンション価格は下落しているものの、住宅ローンの金利は上がっており、若者にとってマイホームの夢は実現が難しいままである。
1 韓国における労働市場は、一次労働市場と二次労働市場に区分することができる。一次労働市場は、相対的に高い賃金、良い労働環境、高い雇用の安定性、労働組合による保護、制度化された労使関係、長期的な雇用契約、内部労働市場による労働力の補充などが特徴づけられることに比べて、第二次労働市場は、相対的に低い賃金、劣悪な労働環境、不安定な雇用、制度化されていない労使関係、外部労働市場による労働力の補充などが特徴づけられる。
2 筆記試験を受けた人に対する倍率は29.2倍
若者の結婚及び出産に関する意識も変化している。昔は「ある程度の年齢までには結婚する」、「結婚しないことは親不孝である」と考える人が多かった。何より韓国では「家を継ぐ」という意識が強く、従来の夫婦は男の子が一人でも産まれるまで出産の努力を続けた。しかし、最近の若者は「家を継ぐ」という意識は弱まり、結婚しないことが親不孝だと考える若者も多くない。安定した仕事に就くまで、あるいは家を用意するためのお金がある程度貯まるまでは結婚をしようとしない。また、子どもよりも、自分の仕事や生活を重視する傾向が強くなった。
韓国統計庁が2022年に実施した「2022社会意識調査結果」3によると、結婚すべきだと思う(「必ずすべきだ」と「した方が良い」の合計)人の割合は50.1%で、1998年の73.5%より23.4ポイントも低下した(図表3)。男女別には男性が55.8%で女性の44.3%を上回った4。
3 調査対象:満13歳以上の世帯員36,000人
4 韓国開発研究院(KDI)のチェスルギ教授が2022年6月に24~49歳の未婚男女を対象に実施した調査結果でも、結婚意向は男性が65.7%で女性の47.3%を大きく上回った。
韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。韓国の30代の未婚率は2015年の36.3%から2020年には42.5%に6.2ポイントも増加した。特に30代男性の未婚率は50.8%で初めて50%を超えた(30代女性は33.6%、図表5)。5また、男性と女性の平均初婚年齢は、それぞれ1990年の27.8歳と24.8歳から2021年には33.4歳と31.1歳まで上昇した。これは同時期の日本の男性31.0歳、女性29.5歳よりも高い。
このように未婚化や晩婚化が進んでいるにも関わらず、韓国政府の今までの少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、児童手当の導入や教育インフラの構築など主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っていた。2020年12月に確定された「第4次少子(低出産)・高齢社会基本計画」6も子育て世帯に対する支援策が大部分を占めている。
5 統計庁(2021)「2020年人口住宅総調査」
6 韓国では2005 年に「少子(低出産)・高齢社会基本法」が成立・制定され、大統領直属の「少子(低出産)・高齢社会委員会」が設置された。5 年ごとに基本計画を策定することが法律で定められ、2006~2010 年に第1次計画、2011~2015年に第2次計画、2016~2020 年に第3次計画が実施された。
(2023年03月09日「基礎研レポート」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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