2023年03月07日

データヘルス改革による健康・医療データ利活用推進の状況

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.312]

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1―はじめに~健康・医療情報プラットフォーム構築と利活用の概要

高齢化や医療技術の進歩による医療費高騰を背景に、医療や介護の質を向上しつつ、医療費や介護費の適正化を図ることが喫緊の課題となっている。実現に向けて、ICT(情報通信技術)を活用し、効率的・効果的な健康管理・診療サービスを提供したり、治療や予防の成果を評価するために健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築する「データヘルス改革」が進められてきた*1。2022年度には、この改革で予定されていたサービスのうち、「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」「電子処方箋の仕組みの構築」「自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大」が行われた*2

さらに、新型コロナウイルス感染症流行を踏まえて、平時からのデータ収集の迅速化や収集範囲の拡充、医療等のデジタル化による業務効率化やデータ共有を加速することを「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」に掲げ、9月には厚労省内に「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームが発足された。「全国医療情報プラットフォーム」の構築のほか、「電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討」「診療報酬改定DX」の3つの分野で議論が進められている。
 
*1 村松容子「10月からオンライン資格確認本格運用」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2021年7月27日)
*2 村松容子「データヘルス改革 集中改革プラン~いよいよPHRシステムが稼働」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2021年1月26日)

2―マイナンバーカードの利用と、オンライン資格確認

こういったサービスで活用されているのが、マイナンバーとマイナンバーカードである。マイナンバーによって、各人の生涯にわたる保健医療情報の一元化が可能となった。さらに、今後受ける保健医療サービスの情報を一元化するのにマイナンバーカードが活用される。2024年の秋を目処に、現行の保険証が原則として廃止され、マイナンバーカードを利用する予定であることが発表されている。

マイナンバーカードを保険証として利用する場合、医療機関や薬局では、まず、カードリーダを使ってオンライン資格確認システムを通じて受付を行う。このシステムでは、受診者の健康保険資格情報等がリアルタイムで確認できるため、患者のこれまでの保健医療情報と紐づけることができる他、患者が加入する健康保険や、その加入資格が変わった場合にも、保険者への請求がスムーズに進む*3既に、オンライン資格確認を導入している医療機関では、事務負担や人件費の削減を実現していることや、患者の健康保険の資格過誤による事務コストが減少していることが報告されている*4
 
*3 厚生労働省医療保険部会資料「オンライン資格確認の導入によるメリット(平成30年5月)」によると、資格過誤に起因する保険者の事務負担は年間約30億円程度、医療機関等の事務負担は年間約50億円程度と試算されている。
*4 社会保険研究所「社会保障旬報 No. 2865(8月21日)」

3―データヘルス改革・集中改革プランの進捗

1|全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大
前述のオンライン資格確認システムを使って、患者のこれまでの保健医療情報を共有し、全国の医療機関等で閲覧する仕組みが、2022年9月に運用を開始した。医療機関等では、過去の情報を閲覧することで、検査の重複を避けることができる等、迅速な診断や治療等が可能となる。患者にとっては、同じような検査を繰り返すことがなくなったり、薬の重複や飲み合わせの悪い薬を避けることで身体の負担が軽減される可能性がある。これは医療費負担の軽減にもつながる。

現在、閲覧できる保健医療情報は、40歳以上が受けている特定健診情報とレセプト(患者が受けた保険診療の報酬明細書)に記載されている診療情報や薬剤情報である。今後、手術等情報*5や、2024年度以降には電子カルテ情報の登載もはじまり、アレルギー情報や告知済み傷病名、画像情報等も登載する予定だ。

将来的には、通常の受診時だけでなく救急搬送時にも利用できるようになる。
 
*5 手術情報は、手術名に病名が入っていることもあることから、他の診療情報と同様に登載してよいか慎重に議論が行われた。
2|電子処方箋の仕組みの構築
2023年1月に、電子処方箋管理サービスの運用が始まった。前述のオンライン資格確認等システムを利用した電子処方箋管理サービスは、医療機関と薬局が処方内容を共有するための仕組みで、医療機関は処方箋を同サービスに登録し、薬局ではその処方箋を閲覧して調剤する。薬局は、調剤内容等を同サービスに登録し、医療機関からも閲覧が可能となっている。このサービスによって、他医療機関で処方されている薬との重複や、飲み合わせのチェックがシステム上で可能となる。また、これまでと違い、薬局で紙の処方箋を入力する負担がなくなる。

患者は、紙の処方箋と電子処方箋から処方箋の形式を選べ、紙を選んだ場合は、これまでと同様に、処方箋を薬局に持参し薬を受け取る。電子処方箋を選んだ場合は、薬局でマイナンバーカードを提示すると、薬局が電子処方箋管理サービス上にある処方箋を閲覧することができる。今後、オンライン服薬指導が普及すれば、薬の受け取りがすべてオンラインでできるようになる。
3|自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大
マイナンバーカードを取得すると、PCやスマートフォンでマイナポータルを通じて、自分自身の保健医療情報や予防接種歴(PHR)を閲覧することができる。自分の健康に関心を持ち、健康状態を正確に把握することで、健康増進や予防行動をとることが期待されている。現在、閲覧可能な情報は、40歳以上が実施する特定健診情報や乳幼児健診、予防接種(定期接種)歴、レセプトに記載されている診療情報や薬剤情報である。当初予定されていなかったものとして新型コロナウイルスワクチンの接種歴も特例的に登載されている。

マイナポータルには、自分の保健医療情報を共有するための仕組みがあり、自分の保健医療情報を提供することでより自分にあった助言等を受けられる民間の健康医療支援サービス(スマホアプリ等)もある。

4―その他のデータ連結・共有に関する進捗

1|各種データベース連結の状況
データヘルス改革では、治療等の効果を分析するために、国内の健康・医療に関連する各種データベースの連結が進めている。既に、NDB(特定健診の結果とレセプトを登載するデータベース)と介護DB、DPCデータは連結されており、今後、障害福祉、予防接種、感染症、指定難病、小児慢性特定疾患等のデータベース等の連結が検討されている。また、次世代医療基盤法では、医療分野の研究開発で活用できるように、認定された業者が医療機関の電子カルテ、健診情報やレセプトを患者ごとに紐付け、匿名化したうえでデータベース化することができる。

骨太方針2022で構築を目指している「全国医療情報プラットフォーム」では、オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、こういった保健医療情報をクラウド間で連携し、自治体や介護事業者間等を含め、必要なときに必要な情報を共有することを目指している。
2|電子カルテの標準化と普及
医療機関同士でスムーズにデータ共有を行うために、電子カルテについて、共有すべきデータの項目を定めて標準規格化し、各医療機関で利用する予定である。これまで電子カルテを利用していない医療機関向けには、標準の規格に準拠したクラウドベースの電子カルテの開発を行い、2030年を目処に全医療機関で電子カルテを利用することを目指している。

5―情報の取り扱い

人々の保健医療情報は、センシティブな情報である。医療機関等での患者の情報閲覧には、個人情報保護法にもとづき、本人の同意が必要となる。通常時は、医療機関等の受付で、本人認証を行った後、「過去の診療・お薬情報を当機関に提供することに同意しますか」「過去の健診情報を当機関に提供することに同意しますか」といったメッセージが表示される。救急搬送時や災害時も、原則として本人の同意が必要となるが、緊急性が高く同意が取れる状況ではない場合は、ルールに基づいて閲覧することもある(後日、誰がどこで閲覧したかを確認することができる)。現在のところ、同意しても、閲覧できる診療・薬等の情報は過去3年に限られるほか、受療する度に同意/非同意を選ぶことができる。

また、自身の保健医療情報を活用できる仕組みにおいても、民間や自治体のアプリ等にマイナポータルを介してデータを連携する場合は、サービス提供元の利用に同意する必要がある。さらに、国が策定した「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針(2021年)」により、サービス提供者はデータの取り扱いを厳重に行っている。

6―おわりに

以上のとおり、保健医療情報の電子化や共有によって、事務コストの軽減と医療費を削減するシステムが整ってきた。このシステムを、より効果的に使うためには、患者がマイナンバーカードを使い、医療機関に自分の保健医療情報を提供したり、人々がマイナポータルを活用して自分の健康に関心を持つことが欠かせない。

2024年秋以降、原則として保険証を廃止するという方針*6や、従来の保険証と比べてマイナンバーカードを利用する方が初診料等が安くなる等、マイナンバーカードの取得・利用を促進している。

しかし、その一方で、マイナンバーカードや、マイナンバーカードの保険証としての利用登録は国が期待するスピードでは普及していない。引き続き、マイナンバーカード普及状況や保険証としての利用意向、および保健医療情報の共有等による効果を注視していきたい。
 
*6 村松容子「マイナンバーカード取得状況と使途・今後利用したいサービス」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2022年11月16日)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2023年03月07日「基礎研マンスリー」)

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