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2023年02月28日

日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状に関する実態調査(1)-月経不順や無月経は全体の3割近く、月経前はイライラが2割強、月経中は下腹部痛が7割も出現、対処行動は「我慢」が4割近く-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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5――10歳代の月経前随伴症候群(PMS)の症状

続いて、月経の3日前から10日前に引き起こされるPMSの症状について調査した(図表4)。PMSも月経随伴症状と同様、下腹部痛などの身体症状や、情緒不安定などの精神症状が認められるとされている。
図表4.10歳代の月経前症候群(PMS)
調査の結果、イライラするが105名(ケースの割合:23.9%)が最も多くの割合を占め、次に下腹部痛が81名(ケースの割合:18.4%)、続いて乳房通が80名(18.2%)であった。

月経前の症状であるPMSについては、月経中の身体的症状を抑えて、イライラするという精神的症状を呈する割合が最も高くなることが明らかとなった。

月経前にイライラするなどの精神症状を呈する要因として、ホルモン分泌の減少が影響している。月経前は、排卵日から月経までの期間は黄体期と呼ばれ、生殖器官を発育させるエストロゲンや子宮内膜を厚くさせるプロゲステロンなどの女性ホルモンが分泌されるが、月経日に近づくと徐々に減少する。この女性ホルモンは一般的に幸せホルモンと呼ばれるものであり、月経前に満たされていた幸せホルモンが月経に向けて減少することで、脳内の神経伝達物質に影響を与えイライラすることが分かっている。

これらのことより、10歳代の女性においては、月経前の10日間はイライラするなどの精神症状を呈し、月経期間中(3日から7日程度)は、下腹部痛などの身体的苦痛を生じていることが明らかとなった。

6――10歳代の月経随伴症状に対する対処行動

6――10歳代の月経随伴症状に対する対処行動

1| 対処行動の実態
最後に、月経随伴症状への対処行動の実態について調査した(図表5)。

月経に伴う身体症状に対しては、鎮痛剤の内服が一般的であるが、10歳代ではどのような対処行動をとっているのかを明らかにする。

調査の結果、鎮痛剤の内服が219名(ケースの割合:49.8%)と最も多くの割合を占め、次に、横になる211名(ケースの割合:48.0%)、続いて、我慢するが167名(ケースの割合:38.0%)を占める結果となった。
図表5.10歳代の月経随伴症状への対処行動
| 適切な対処行動とは?
月経に伴う症状への対処行動に関する先行研究では8,9、鎮痛剤の使用が約3割から5割を占めることが認められている。本調査における10歳代女性においても、鎮痛剤の内服が5割近くを占めており、先行研究と概ね一致する結果が得られている。

しかし、鎮痛剤の使用といっても、産婦人科を受診して処方された鎮痛剤の内服か、薬局などで市販されている鎮痛剤の内服なのかは本調査の設問では不明であり、場合によっては適切な対処行動とならない可能性があることに留意する必要がある。

例えば、子宮の収縮に伴う下腹部痛を軽減したい場合には、成分が子宮へ移動しやすいイブプロフェンが主成分である鎮痛剤の内服が適切である。同様に、月経痛に伴う吐き気などを抑制したい場合にはプロスタグランジンの分泌を抑えるロキソプロフェンの内服を、15歳以下であれば、腎臓に負担がかかりにくいアセトアミノフェンが成分の鎮痛剤の内服が適切であるなど、対処すべき症状と個体差を考慮した上で鎮痛薬の選択が必要となる10

可能であれば、産婦人科への受診をした上で処方してもらいたいが、10歳代となると健康保険証を保護者が管理している場合もあり、保護者に月経に伴う症状について相談しにくいことも考えられる。市販薬で対応する場合には薬局の薬剤師へ相談した上で、鎮痛剤の種類を選択することを心にとめていただきたい。(症状が続く場合には、必ず受診が必要である。)

また、5割近くが選択した「横になる」という対応方法にも留意すべき点がある。月経による子宮の収縮に伴う下腹部の痛みなどには、横向き寝をすることにより、下腹部の筋緊張をやわらげ、腰に負担がかからないようにする必要がある。また、血流循環が悪い場合にも、神経が過敏になり痛みを感じやすくなると言われているため、冷えや体内循環が悪い方は、温めながらうつ伏せ寝をすることで、背部の神経・血管圧迫を緩和するのが有効となる。月経に伴う身体的な負担の軽減は、目的に応じて効果的に実施していただきたい11

さらに、4割近くが「我慢する」という対処行動を選択しているが、絶対に我慢しないでいただきたい。月経に伴う諸症状は、卵巣がんや子宮内膜症の悪化、不妊症を招くなどの疾患リスクが上がるため、月経に伴う諸症状が継続する場合には、必ず産婦人科を受診して欲しい。

高学歴化、社会進出が促され、女性のライフスタイルが変容の時期を迎えている現代では、月経随伴症状による集中力の低下や精神衛生の悪化など、日常生活への影響が大きいことを考慮し、症状への対処を適切に実施して欲しいと筆者は考える。
 
8 松本可愛ら(2004)「女子大学生の月経痛とライフスタイル・対処能力に関する調査」慶應保健研究第22巻
第1号,p99-104.
9 横田あゆみら(2016)「月経痛のある女性中学生の対処行動とコントロール感」日本教育保健学会年報第23
号,p33-43.
10 くすりと健康の情報局「子宮を収縮させるプロスタグランジンを抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」
 中西真理(薬剤師)【2022年】生理痛に効くおすすめの市販薬と選び方を解説https://www.kusurinomadoguchi.com/column/menstrual-pain-medicine-13050/
11 痛みの知覚には個人差があり、楽になる体勢も個人により大きく異なるため、自身が楽だと感じる体勢を探ることが重要である。

7――まとめ

7――まとめ

本調査は、日本の10歳代女性における月経随伴症候群の実態を明らかにすることを目的に、インターネット調査を実施し、440名より回答を得られた。

その結果、月経不順が全体の2割近く、無月経が全体の1割近く、日本の10歳代女性における全体の約3割は、医療機関への受診が必要な状態であることが明らかとなった。

また、月経期には下腹部痛などの身体症状が7割、月経前にはイライラするなどの精神症状が2割強出現し、対処行動において4割近くは「我慢」していることが明らかとなった。

さらに、対処行動では、「鎮痛剤の内服」、「横になる」という行動が5割近く認められたが、症状に応じた薬剤成分の適切な選択や、横になる姿勢には横向き寝やうつ伏せ寝など症状に応じた緩和姿勢があることなど、適切な対処行動を講じる必要があることが示唆された。

「我慢する」という対処行動についても、QOLの低下を招くため昨今の女性のライフスタイルには添わず、内服や受診をするなどの行動をとる必要があることが示唆された。

本稿では、日本の10歳代における月経随伴症状に関する実態を調査した結果を示した。次回の第2稿では、月経随伴症及びPMS症状についての日常生活への影響度を明らかにし、第3稿では月経随伴症状及びPMS症状へ影響する要因を統計学的に解析した結果を示す予定である。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年02月28日「基礎研レポート」)

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