2023年02月27日

EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2022年10月19日、EUの規則であるDigital Services Act(以下、DSA)がEUジャーナルに掲載され、同年11月16日に施行された。事業者への具体的適用は施行より15か月後とされている。なお、本文で述べる通り、特に大きなオンラインプラットフォーム等の提供者に関する特別な規定があるところ、特に大きなオンラインプラットフォーム等の指定および該当規則の適用には別途の施行日程が定められている1

DSAは2020年12月にDigital Market Act(以下 DMA)と合わせて欧州委員会より提案され、いずれも欧州議会、欧州理事会との折衝を経て2022年4月に立法が合意されたものである。なお、DMAは欧州の競争法違反行為にかかる事前規制である一方、DSAはネット上のillegal contents(違法コンテンツ)にかかる規律である。

ここで違法コンテンツの概念には、オフライン環境における既存の規則を広く反映すべきとされており、特に、その形式にかかわらず、適用される法律の下で、違法なヘイトスピーチやテロリストのコンテンツ、違法な差別的コンテンツなど、それ自体が違法であるか、または適用される法律によって当該違法行為の関連事実を考慮して違法となるものを指す。具体的な例としては、児童性的虐待を描いた画像の共有、違法な同意のない私的な画像の共有、オンラインストーキング、非合法または偽造商品の販売、消費者保護法に違反した商品またはサービスの販売、著作権で保護された素材の許可のない使用、宿泊施設の違法な提供、生きた動物の違法な販売が含まれる(前文(12))。

DSAは規則として立法された。そのため、各国の立法を要するDirectiveとは異なり、直接に各国において法的な効力が生ずる。なお、以下、引用で単に条文だけを示すものはDSAの条文である。
 
1 2023年2月17日までにデジタルプラットフォーム提供者から月間アクティブユーザー数を報告させ、その後、特に大きなオンラインプラットフォームとしての指定を行う。そして指定から4カ月で規則が適用される。

2――DSAの立法目的・概要

2――DSAの立法目的・概要

1|DSAの立法目的
DSAの目的は、前文および1条1項に記載されている。すなわち、DSAの目的はオンライン仲介サービスが域内市場において適切に機能するように貢献することにあるとする。そしてこのことは、イノベーションが促進されるとともに、表現と情報の自由、ビジネスを行う自由、差別されない権利、高度な消費者保護を含む、欧州憲章に掲げられた基本的権利が効果的に保護される、安全で予測可能かつ信頼できるオンライン環境のための調和された規則を定めることで行われるとする(1条1項、前文(3))。

2|DSAの概要
DSAは、国内市場における仲介サービスの提供に関する調和された規則を定めるものである。特に以下を確立する(1条2項)。

(a)仲介サービス提供者の責任を条件付きで免除する枠組み(第2章:4条~10条)

(b)仲介サービス提供者の特定のカテゴリに合わせた特定のデューディリジェンス義務(誠実義務)に関する規則(第3章:11条~48条)

(c)所管官庁間の協力および調整に関するものを含め、本規則の実施および執行に関する規則(第4章:49条~88条)。なお、この部分には特に大きなオンラインプラットフォーム等の提供者に対する監督が含まれている。

3――DSAの規制対象

3――DSAの規制対象

1|DSAの適用サービス
DSAは、域内に事務所(place of establishment)が所在するか、あるいは域内に所在するサービスの受け手(recipient of the service)に対して、仲介サービス(intermediary service)を提供する提供者(providers)に適用される。域内の受け手にサービスを提供する者については、その者の所在地がどこにあるのかは関係がない(2条1項)。

サービスの受け手とは、自然人または法人であって、情報を求め、あるいは情報を提供する(make it accessible)目的で仲介サービスを利用する者のことをいう(3条(b))。つまり情報の受け手と投稿者(あるいは発信者)の両方を含む。

また、サービスとは情報社会サービス(Information Society service)、つまり通常は報酬を得て、遠隔地間で(at a distance)、電子的手段で(by electric means)、かつサービスの受け手からの個別の要求によって提供されるサービスのことを指す(3条(a)、Directive(EU)2015/1535 1条1項(b))。

2|仲介サービス提供者の種類
仲介サービス提供者であるが、提供する仲介サービスには三つのものが含まれる(第2条(g))。一つ目は「単なる導管」(mere conduit)サービスである。通信ネットワークの中で、サービスの受け手から提供された情報の送信あるいは通信ネットワークへのアクセスの提供を行う(図表1)2
【図表1】単なる導管(情報Aの伝達)
二つ目が「一時保管(キャッシュ)」(caching)サービスである。これは通信ネットワークの中で、サービスの受け手から提供された情報を、他の受け手からの要請に基づいて送信を行うにあたって、情報の送信をより効果的に行うことだけを目的として自動的、中間的、一時的に情報を保管するものを指す(図表2)3
【図表2】キャッシュサービス(情報Aの伝達(一時保存含む))
三つめが、「ホスティング」(hosting)サービスである。これはサービスの受け手から提供され、または受け手から要求された情報の格納(storage)を行うものである(図表3)4
【図表3】ホスティングサービス(情報Aの格納)
 
2 単なる導管には、インターネット交換ポイント、無線アクセスポイント、仮想プライベートネットワーク、DNSサービスおよびリゾルバ、トップレベルドメイン名レジストリ、レジストラ、デジタル証明書を発行する認証局、ボイスオーバーIPおよびその他の個人間通信サービスなどの一般的なカテゴリのサービスが含まれる(前文(29))。
3 キャッシュサービスにはコンテンツ配信ネットワーク、リバースプロキシまたはコンテンツ適応プロキシの単独提供が含まれる(前文(29))。
4 ホスティングサービスには、クラウドコンピューティング、ウェブホスティング、有料参照サービス、またはファイルストレージや共有を含むオンラインでの情報やコンテンツの共有を可能にするサービスなどがある(前文(29))。
3|ホスティングサービスの種類
DSAは主にホスティングサービスに対する規律が中心となっているが、さらに二つの類型のサービスが特別な規律の対象となっている。それらは(1)オンラインプラットフォームと、(2)オンライン検索エンジンである。

(1)オンラインプラットフォームは、サービスの受け手からの要求により、情報を保存し、公衆に配布するホスティングサービスを意味する(3条(i))。たとえばFacebookなどのソーシャルネットワーク(SNS)や、Amazonなど物販サイトなどが該当する(前文(13)参照)。ただし、付随的にのみこの機能を有する者は除かれることとされ、たとえばコメント欄のある新聞のサイトなどは除外される(同前文)。

(2)オンライン検索エンジンは、キーワードなどの入力により、任意のテーマについての照会に基づいて、原則としてすべてのウェブサイトの検索を行い、要求された内容に関連する情報を見つけて任意の形式で結果を返す仲介サービスを意味する(3条(j))。例えばGoogle検索サービスが該当する。

なお、オンラインプラットフォームとオンライン検索エンジンのうち、特に大きなものについては追加的な義務が課されている。
【図表4】対象となる仲介サービスの分類

4――仲介サービス提供者の責任の免除と義務

4――仲介サービス提供者の責任の免除と義務

1|仲介サービス提供者の責任の免除
DSAの主要な目的の一つが仲介サービス提供者の責任免除である。上記で述べた3種のサービスの相違により、免責とされる条件が異なる。なお、免責ということは仲介サービス提供者に責任が生じうるということを意味するが、この点については「7-検討 1|仲介サービス提供者の免責の規定の仕方」で詳述する。

(1)単なる導管
一つ目の単なる導管サービスの提供者については、提供者が1)送信を開始しない、2)送信先を選択しない、および3)送信に含まれる情報について選択あるいは修正しないときには責任を負わない(4条第1項)。
 
(2)一時保管サービス
二つ目の一時保管(キャッシュ)サービスの提供者については、提供者が1)情報を修正しない、2)情報のアクセス条件を遵守している、3)業界で広く理解されている方法により情報更新のルールを遵守している、4)業界で広く理解されている方法により、情報の利用についてデータを得るための技術の合法的な利用を阻害するものでない、および5)送信されたソースとなった情報がネットワークから削除されたか、アクセスが遮断されたという事実、または裁判所や行政が削除やアクセスを遮断するように命じたという事実を実際に提供者が知ったときに、迅速に情報を削除するか、アクセスを遮断するように行動したという条件の下で、責任を負わない(5条第1項)。
 
(3)ホスティングサービス
三つ目のホスティングサービスについては、提供者が1)違法活動や違法コンテンツについて実際に知らなかったとき、また損害賠償請求に関して、行為やコンテンツの事実や状況からこれらの違法性が明らかであるとは認識できなかったとき、あるいは2)実際にそのことを知ったか気が付いたときに、迅速に違法コンテンツを削除するか、アクセスを遮断したときには、提供者は責任を負わない(6条第1項)。
2|仲介サービス提供者の基本的な義務
(1)仲介サービス提供者の一般義務
仲介サービスの提供者は、違法なコンテンツの検出、特定および削除、またはアクセスの無効化を目的とした自主的な調査またはその他の措置を実施したことにより、必要な措置を講じたという理由のみで、4条、5条、および6条に規定された責任の免除を受ける資格がないとはみなされない(7条)。すなわち、提供者が誠実に行動していることによってかえって責任を負うということがないとする条文である。

仲介サービス提供者は、送信・蓄積する情報を監視(monitor)し、あるいは違法行為を示す状況や事実を積極的に探査する(seek)する一般的な義務を負わない(8条)。このように仲介サービス提供者に何も端緒となる情報がないときに、積極的に調査する義務を負わないことが明記されている。
 
(2)措置命令・情報提供命令への対応
仲介サービス提供者は、管轄権を有する司法、行政当局から特定の違法コンテンツへの措置命令を受領したときは、当該管轄当局に、不合理な遅滞なく、どのような行動をいつとったかについて報告をしなければならない(9条)。ここでいう具体的な措置命令とは各国の法制度に基づく措置命令であり、DSAに根拠を持つものではない。またDSAは各国法令の効果を制限するものではない(前文(31))。

また、仲介サービス提供者は、管轄権を有する司法、行政当局から特定のサービスの受け手についての情報提供命令を受領したときは、不合理な遅滞なく、管轄当局へ命令を受領したことと、命令が有効になったか及びいつ有効になったかについて情報提供を行う(10条)。ここでの命令もDSAに根拠があるのではなく、他のEU法または各国法令に基づく(前文(34))。

5――透明で安全なオンライン環境のための誠実義務

5――透明で安全なオンライン環境のための誠実義務(第3章)

1|すべての仲介サービス提供者に関する規定
全ての仲介サービス提供者に適用される規定は以下の通りである。適用対象の内、ホスティングサービスの適用対象は図表5の通りである。
【図表5】誠実義務の対象となる範囲(色付き部分が適用範囲)
(1)連絡窓口等の設置
仲介サービス提供者は、加盟国の管轄当局、欧州委員会、デジタルサービス欧州ボード(European Board of Digital Services、61条で規定。後述)が電子的手段を通じて直接連絡が取れる単一の窓口を設置すべきものとされる(11条)。

また提供者は、サービスの受け手が、自動化されたツール以外の通信手段を選択できるようにすることを含め、電子的手段及び使いやすい方法により、サービスの受け手が直接かつ迅速に通信できるような単一の連絡先を指定しなければならない(12条)。

仲介サービス提供者が域内にサービスを提供するが、域内に施設(establishment)を有さないときには、サービスを提供している加盟国のひとつに、法人又は個人である法的代理人を指名するものとする(13条)。11条、12条で定めるものは連絡窓口である一方、13条は加盟国管轄当局、欧州委員会、理事会等との手続きを進めるときの送達先となるものである(前文(44))。
 
(2)利用条項の明示
仲介サービス提供者は、サービス利用条項の中に、サービスの受け手により提供されるコンテンツについて、仲介サービスの利用にあたって利用者に課す条件についての情報を含めるものとする(14条)。この条件についての情報には、アルゴリズムや人の判定によるコンテンツの修正(moderation)のために利用される、方針、手続、手段およびツールについての情報を含み、また苦情処理システムにおける処理方法に関する情報を含む。ここでコンテンツの修正とは、仲介サービス提供者により実施される行為で、サービスの受け手から提供された違法コンテンツや利用条件違反のコンテンツを調査、特定、対処することをいう。対処には、違法コンテンツ等の利用、視認性、アクセス可能に影響を及ぼすこと(=コンテンツの表示順位の引き下げ、コンテンツ削除やアクセス遮断など)である(3条((t))。
 
(3)年次報告書の発行
仲介サービス提供者は、少なくとも年一回、明確かつ簡潔で包括的であって詳細な、該当期間中に実施したコンテンツの修正に関する報告書を発行するものとする(15条)。この報告書には、(a)9条および10条に則って受領した加盟国管轄当局からの命令の件数、(b)ホスティングサービス提供者にあっては、16条(後述)に則って受領した通知の件数、(c)有意で包括的なコンテンツ修正に係る情報、(d)内部苦情処理システムで受領した苦情の件数、(e)コンテンツの修正に利用された自動的手段などに関する情報を含むものとする(同条)。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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