コラム
2023年02月07日

米国株式に集中?それとも分散投資?

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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大人気のインデックス型の米国株式投信

2019年の「老後2,000万円問題」をきっかけに資産運用に関心を持つ人が増え、実際に つみたてNISAなどを活用して積立投資を始める人が増えている。それに伴って2020年あたりからインデックス型の外国株式投信の資金流入が増加してきた【図表1】。2022年こそ資金流入の増加はやや一服したが、それでも安定して概ね毎月2,000億円以上の資金流入があった。
 
インデックス型の外国株式投信の中で特に人気で売れているのが、S&P500種株価指数などに連動する米国株式投信(青棒)である。毎月のインデックス型の外国株式投信の資金流入の半分以上が米国株式投信となっている。

その一方でインデックス型の日本株式投信(灰棒)の資金動向は相変わらず資金流出している月もあるなど、不安定である。2021年以降、資金流出している月は減っているようにみえるが、これは日本株式自体がほぼボックス圏で推移する中、利益確定に伴う売却がでにくかっただけだと思われる。インデックス型の日本株式投信は、純資産残高が2020年あたりから緩やかに増加基調であるため、積立投資などによる買付が若干増えている可能性もある。それでも多くの人が日本株式ではなく外国株式、特に米国株式に投資している状況であるといえる。
【図表1】 インデックス型の外国株式投信の資金流出入

過去10年だと米国株式一択でほぼ正解

このように米国株式が大人気になっているのは、米国株式が2022年こそ大きく下落したがそれまで好調だったことが大きいと思われる。米国株式(青線)と日本株式(灰線)、さらには全世界の平均値として全世界株式(橙線)の主要株価指数の過去30年間の推移をみると、米国株式は、長らく低迷していた日本株式はおろか全世界株式も上回って上昇してきたことが一目瞭然である【図表2】。
 
詳しくみると、2012年以降の米国株式の上昇が突出しており、その期間で全世界株式と差が付いたことが分かる。つまり過去10年くらいは米国株式にさえ投資していれば、かなり良いリターンが得られる状況であったといえる。その印象が強いため、今後の米国株式にも期待する人が多いのではないかと考えられる。逆に過去30年の推移をみて日本株式に期待しろという方が難しく、そのため日本株式が敬遠されていると思われる。
【図表2】 過去30年の株価指数の推移
では、なぜ米国株式が長きにわたって好調だったのだろうか。主な要因として、米国企業の業績が急成長したことがあげられる。各指数の12カ月先予想EPSをみると、米国株式(青線)の予想EPSは2012年あたりから全世界株式を上回って上昇、つまり米国企業の業績が急成長し、収益が大幅に拡大していたことが確認できる【図表3】。この業績拡大が米国株式の株価を押し上げたと考えられる。
【図表3】 過去30年の12カ月先予想EPSの推移

考え方次第で、どちらでも正解だが

これからも本当に米国株式に期待していいのだろうか。その鍵は、米国企業業績の今後の動向次第になると考えている。もし米国企業の業績の急成長が続くならば、今後も中長期的に米国株式は全世界株式を上回って上昇し続ける可能性が高いと思われる。つまり、米国企業の業績急拡大が今後も続くことを期待したり予想したりするならば、過去10年と同様に米国株式に集中投資するのが今後も最適な投資行動であるといえる。
 
ただ、2022年後半から米国企業の業績拡大に陰りがみえている。あくまでも一時的な鈍化かもしれないが、これまでの急成長が終わりに差し掛かっている可能性もある。そのため少しでも米国企業の業績に疑念をもつ、もしくは先のことはどうなるか分からないと考えるのであれば、米国株式だけでなく米国株式以外にも分散投資した方が無難である。
 
特に、これまで米国株式は株高も許容されてきた。12カ月先予想PERをみると、米国株式の予想PERは全世界株式と比べて相対的に緩やかながら上昇してきている【図表4】。このように株高が許容されている背景にも米国企業の業績の持続的拡大があったと思われる。もし、米国企業の業績拡大が鈍化し全世界株式並みに落ち着くと、これまでほど米国株式は株高が許容されなくなる可能性もある。

しかし、現在の米国株式が1990年代の日本株式のようなことになっていないのは確かである。仮に米国株式が全世界株式並みの株価水準まで価格調整が起こったとしても、過去10年の全世界株式以上に上昇した分すべてを吐き出すようなことにはならないだろう。
 
それでも今後の米国企業の業績や株価には注意が必要といえる。米国株式は2012年以降、好調過ぎただけに、今後はこれまでのようにならない可能性も十分ある。つまり米国株式に対して、過去のパフォーマンスはあくまでも参考値として、過度に期待しない方がよいと筆者は考えている。
【図表4】 過去30年の12カ月先予想PERの推移

過去のパフォーマンスは過去問と同じ

最後に余談になるが、大学入試や資格試験などを受験する際に過去出題された問題、いわゆる過去問を参考に対策する方がほとんどだろう。毎年、似たような問題が出題される場合が多いため、過去問から大体の出題傾向や問題の難易度などが分かりとても参考になる。ただ、過去問を参考にし過ぎて痛い目を見た方も多いのではないだろうか。例えば、ご自身で実際に受験した際に問題が過去問からガラッと変わって焦ったことは一度や二度はあると思われる。
 
資産運用における過去のパフォーマンスはけっして将来を保証するものではない。まさに試験勉強における過去問程度に捉えて参考にしていただくことを筆者はおすすめする。
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2023年02月07日「研究員の眼」)

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