2023年02月07日

なぜ、炎上は繰り返されるのか-迷惑動画投稿がされてしまう構造を考える

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――バイトテロ

アルバイト従業員が職場で迷惑行為を行い、SNSにその様子を投稿し炎上させることで職場や雇い主に大きな損害を与える通称「バイトテロ」という言葉が使われ始めたのが2013年。あれから10年経過した現在、バイトテロに限らず、消費者が小売店や飲食店での迷惑行為や非常識な行動を撮影し、SNS上で炎上してしまうと言う事象が後を絶たない。炎上により、迷惑行為を行った者は巨額な賠償金を請求されたり、デジタルタトゥーとしてその行為がネット上に漂い続け、社会的制裁を受けることになるのは、今や周知の事実である。なぜ、このような炎上はなくならないのだろうか。

2――従来の炎上の構造

2――従来の炎上の構造

総務省の「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」1によると、2022年のTwitterの全年代における利用率は46.2%、10代、20代の利用率はそれぞれ67.4%、78.6%であった(図1)。
図1 Twitterの利用率の推移(全年代・10代・20代)
またTwitterに限らず、Instagramは10代、20代のそれぞれ7割以上、TikTokは10代で62.4%、20代で46.5%と、若年層になるほどSNSは広く利用されている。SNSが若い世代を中心にある種の情報インフラとして成立しているからこそ、情報拡散力は大きく、冒頭で述べた通り「炎上」が怖いことであるという事を認識できている。

今でこそほとんどの者が何かしらのSNSを利用しているわけだが、バイトテロなる従業員による迷惑行為の動画が投稿され始めた2012年では、Twitterの全年代での利用率はわずか15.7%であった。年代別の内訳を見ても10代、20代それぞれの利用率は26.6%、37.3%と3割程度であった(図1)。そのため、2012年当時はSNSにおける諸問題が今よりは表層化してはおらず、自分のちっぽけな独り言が拡散され社会問題につながるというような意識もなく、後先を考えずに軽率な迷惑行為の投稿がされていたように思われる。だからこそ、それがたまたま大衆の目に留まってしまい、「炎上」という本人も思ってもいない結果が生まれてしまっていたのである。SNSがなかった時代には「SNSにおける炎上」も存在していないわけで、SNS黎明期において、SNS利用者は迷惑行為や犯罪まがいの行為によって炎上が起こるとどうなってしまうのかを他人の失敗から学び、SNSリテラシーを高めていたのだ2

SNSが存在する以前は、2ちゃんねるのような匿名掲示板において、ユーザーが特定の迷惑行為を題材にスレッドを立て、その場で迷惑行為を行った人の個人情報を特定するなど、今でいうSNSにおける炎上のような行為が散見されたが、その炎上は匿名掲示板の中で行われたため、話題が掲示板の外に出ていくと言う事はよほどの事柄でない限り少なかったと思われる3

SNS普及以前では、例えば若者の迷惑行為を目撃した市民は学生の制服から学校を推測して通報し、学校側に学生への指導を仰ぐといったように、地域社会の目が迷惑行為を表ざたにし、且つその目が抑止力になっていた。昨今ではSNSの利用者の増加に伴い、SNSを通じて、バイトテロのような迷惑行為を自ら投稿する者がいる一方で、かつては匿名掲示板で行われていたような特定行為や、その迷惑行為をわざと拡散し、世間に注目させるために迷惑行為を表ざたにさせようとする者もいる。これは、正義感や迷惑行為を告発(リーク)することで得られる承認欲求がモチベーションとなり、SNSが今やマスメディアのように報道の機能として定着している側面もある。この側面によって迷惑行為が投稿されると言う事に対する抑止力にも繋がっているのである。このようなリスクや抑止力があるにもかかわらず、なぜ迷惑投稿による炎上は繰り返されるのだろうか。もちろん、前述したように十分にSNSに対するリスクを考えずに、迷惑行為を投稿してしまい、炎上してしまうケースもあるとは思うが、筆者は昨今の迷惑行為による炎上は、従来の炎上とは異なる性質も擁していると考える。
 
1 総務省「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書https://www.soumu.go.jp/main_content/000831289.pdf (2023年2月2日閲覧)
2 併せて、ある事柄が炎上するとマスメディアにも取り上げられ、SNSを利用するリスクそのものも他人の失敗から学ぶことができたわけだ。
3 まとめサイトによって知る人もいたはずだが、彼らの大半は匿名掲示板そのものを利用するわけではなく、まとめサイト管理人が面白いとおもったり、話題性のあるトピックとしてまとめられた情報から、そのような迷惑行為を知る事が一般的だったと思われる。

3――「悪ノリ」と「親密圏」

3――「悪ノリ」と「親密圏」

筆者はコミュニティにおける親密圏が昨今の迷惑行為動画の投稿に繋がっていると考える。学生時代を思い出してほしい。休み時間に教室内で悪ふざけをしていたクラスメイトが、何人かいただろう。その悪ふざけは先生のいない教室内で完結し、他のクラスメイトが先生や大人に報告しない限り、そこで行われたバカ騒ぎ、悪ふざけ、少々度を超えたいたずらであっても公(問題)になるコトはなかった3。構造としてはこれに近い。特に若者においては、現実社会におけるコミュニティは、SNS上でも繋がっている事が一般的であり、誰か知らない人と繋がるという側面のみならず、日常の延長、社会の地続きとして用いられることが普通である。また、同じSNSでもアカウントを複数擁し、同じ学校の仲間でも、より仲がいい仲間と繋がるための専用のアカウントを持っていたり、Instagramで言えば、自分が選別した仲間内しか見ることができないように投稿するなど、コミュニケーション方法や投稿する内容を使い分けている。信頼や依存度が高く仲のいいグループほど、親密圏は狭くなり、その仲間内でしか盛り上がることができないようなトピックで盛り上がったり、そのグループにいない他人を誹謗中傷したり、秘密を話したり、本レポートで言う迷惑行為を含む悪ノリなども投稿されがちだ。所謂これは、現実社会における内輪ネタ・内輪ノリの延長なのである。学校の休み時間に悪ふざけをしているノリが、下校後もSNS上で続いており、悪ノリや悪ふざけで行われる行為のレベルが非常識なモノや迷惑行為になっていくのである。内輪ネタや悪ふざけは、ある種のコミュニティにおける笑いや円滑なコミュニケーションをとるためのエンターテインメントであるため、仲間のバカげた行為で盛り上がれば、自分も何か面白いことをしようという気持ちが駆り立てられ、次第にその行為はエスカレートしていくことになる。インスタントで技巧を凝らしていない動画であっても、面白ければ(それが万人にとって面白いかは別の話)バズってしまう現在の消費文化において、「迷惑行為=行き過ぎた普通ではない行為=普通ではないから面白い」という単純な思考の中で、内輪ネタとしての迷惑行為が投稿もしくはグループラインなどでシェアされていくのである4。ただ、それが他のSNSユーザーの目に留まれば「その投稿=迷惑行為」 は炎上という形で、その問題が表ざたになるのだが、そのような投稿や動画が外に漏れなければ、前述した教室内での悪ふざけ同様に、世間の目に留まることはないのである。言うなれば、不特定多数のために動画を投稿(撮影)しているのではなく、コミュニティでの自分の居場所や仲間から面白いやつと思われたいという特定の見せたい誰かがいるケースの方が多いのではないかと考える。そのため、問題になっている動画は迷惑行為を撮影した動画の1つに過ぎず、そのような常識を逸脱した非常識な行為を日頃からエンターテインメントとして消費している者にとっては、投稿されていない迷惑行為も存在するわけで、炎上のきっかけを生む迷惑行為は氷山の一角にしか過ぎないと筆者は考える5,6。また自身が、そのような非常識なことを内輪ネタにしているコミュニティに身を置いた場合は、誰もその非常識な行為を指摘することはないし、自身が選んだ仲間たちだけという親密圏の範囲を自ら決定できるからこそ、自分の仲間がチクるわけない、という信頼感がそのような動画(証拠)として軽率に投稿される背景にあるのだろう。言うなれば、「炎上」の存在は知っているが自分には関係のない事、自分に限って炎上はしないという自信を持っているなど、炎上は他人事であると考えている可能性も十分にあるのだ。
 
3 いじめが公にならないのも、同じ構造だと筆者は考える。
4 多くの場合、店員や他の客の目を気にしながら動画が撮ったり、「バレたら社員に怒られる」「鍵垢(閲覧者を制限できるアカウント)じゃなきゃ投稿できない」などのコメントを添えて投稿されており、迷惑行為動画を投稿している者の多くは、その行為を迷惑行為であると認識していることの方が多いと思う。極論を言えば、回転寿司で割り箸を割るという行為は普通の事であり、面白いことでも、珍しいことでもないが、醬油をボトルから直に飲むなどの迷惑行為は、誰が見ても普通の行為ではなく、普通ではないから内輪で笑いが生まれることを本人も自覚しているのである。普通じゃないことを敢えてやるから笑いがとれるという価値観が定着しているからこそ、普通ではない事として迷惑行為を確信犯的に行っていると筆者は考える。
5 自身が身を置くコミュニティの質によっては、そもそも迷惑行為であるという意識がない者もいる
6 表に出ないだけで撮影すらされていない迷惑行為が日常的に行われている可能性もないとは言い切れないのである。一回の過ちで日ごろから迷惑行為を行っていたと疑うのはあまりにも厳しいように思われるが、一度してしまうと普段からしていたと思われても致し方ないし、それを否定するすべもないのである。加害者が普段からしていないと発言しても、その発言が本当であると証明することは難しい。

4――なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか

4――なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか

では、なぜ日常における内輪ネタの延長を気の置けない仲間にだけ共有しているのに、親密圏外(世間)に迷惑行為の投稿がリークされてしてしまうのだろうか。これは筆者の推測ではあるが、考えられる理由として、二つあげられる。

一つ目は、内輪ネタを他のコミュニティに顕示したいと思うメンバーがコミュニティの中にいる可能性だ。自分の友達にはこんなに面白いやつがいるんだぞ、とコミュニティ外の人に見せたいという欲求によって、投稿者の親密圏外の人にまでシェアされることがある。その場合、その内輪ノリを不快に思った親密圏外の他人は、その人(投稿者)を擁護する必要なく世間へ拡散し、その結果、その内輪ネタが問題視され炎上に繋がるのである。

二つ目は、コミュニティの中に、内輪ノリに対して不快感や疑問を抱き、その行為を問題視するために敢えてコミュニティの外に情報を拡散させようとする場合だ。笑いやエンターテインメント性を追求すればするほど内輪ノリはエスカレートする傾向があるが、エスカレートしていく過程で一線を越えて疑問や不快に思うこともあるだろう。また、同じ仲間内の中でも、自分はその人のことを信頼していても、相手は深層のところでは自分のことを嫌っている事もある。その場合、陥れるために敢えてその迷惑行為の投稿をコミュニティ外へ拡散させ、社会的制裁を加えようと考える者がいてもおかしくない。また、そもそも公開範囲を間違えて親密圏の仲間以外が見ることができる状態にしてしまうと、そのネタは内輪ネタとして扱われず、自動的に問題行為として拡散されていくことになる。特に、親密圏外の仲間が学校内や顔見知りならば、投稿を消したり根回しすることで対応できるかもしれないが、そもそもSNSは顔見知りよりも社会的な人となりを知らない人と繋がるケースの方が多いわけで、そのような投稿が顔見知り以外の人にリーチしてしまえば、その投稿は逆に前述したように正義感や迷惑行為を告発(リーク)することで得られる承認欲求を満たす対象へと変化してしまうのである。

昨今のように、なんでも動画で残したり、配信をしてしまう消費文化が定着しているからこそ、その場で完結させる予定だった悪ノリ(迷惑行為)が勝手に友達に撮影され、それが投稿されたりシェアされてしまうケースもある。撮影者本人は顔を晒されるわけではないので、ある意味ノーリスクで悪気なく投稿できてしまうのだ。また、本人が当初迷惑行為をする気がなくとも、撮影する側が囃し立てれば囃し立てるほど動画内の悪ノリはエスカレートし、周りの雰囲気が迷惑行為に及ばせてしまうこともある。もちろん断ればいいのだろうが、場の空気を悪くしたり、ノリの悪いやつだと思われてしまうというリスクを考えた場合、そのコミュニティ(仲間)に依存していれば、その場の雰囲気に流されてしまう者もいるだろう。

5――まとめ

5――まとめ

さて、ここまで論じてきた通り、筆者は昨今の迷惑行為の動画による炎上は、非常識な悪ノリや内輪ネタからエンターテインメント性を見出している場合、親密圏のコミュニティが現実社会のみならずSNS上でも地続きであるが故に、そのノリがSNS上でも行われてしまう事が大きな要因であると考える。

また、炎上した迷惑行為は氷山の一角であり、投稿されなかったり、撮影されていない迷惑行為も多々あり、普段からそのようなノリで楽しんでいるからこそ、何かの拍子でそれ等が外にリークして炎上につながってしまうと考える8。このような炎上により有名になるコトや悪いことをすることがかっこいいという価値観を擁している者もおり、自分ならばもっと面白い(迷惑)行為ができると投稿し、立て続けに模倣犯が現れるのもお決まりとなっている。併せてSNS上では話題となるテーマが次々と移り変わるため、1週間もすれば忘れられる事例がほとんどだ。それが「炎上」が教訓になりにくく、同様の事例が繰り返し起きてしまう要因とも言えるだろう。

確かに2012~2013年のバイトテロという言葉が生まれたころに比べて、SNSやインターネットリテラシーはより重要なモノであると認識されているし、SNSネイティブの若者も多く存在し、SNSに慣れ親しむ世代であるのは間違いない。しかし、利用歴が長い事やネイティブであるという事だけではリテラシーは身につかない。筆者が初めてインターネットに触れた頃は個人情報はもちろんのこと、ネット上に顔を晒してはいけないと言われたものだが、SNSの普及に伴いむしろ顔を出すこと自体が普通となり、自身が映った写真や動画がネットに漂い続けるリスクに対する認識も大きく変化している。友達と残す思い出も、その思い出が迷惑行為ならば、残した思い出自体が自身が迷惑行為をしたということの証拠そのものになるわけであり、そのような認識を含めてネットリテラシーについて他人事ではないという意識を持つことが大事だろう。また、自分が仲がいいと意識して引いた境界線でSNSを使用していても、教室のように機密が守られているわけではなく、インターネットは常にオープンな場所であるという認識を持つことも大事だろう。

なお今回は若者を想定して執筆しているが、これは若者に限ったことではなく、どの世代においても言えることであると言う事を留意し筆をおきたい。また、このレポートを読んで迷惑行為はばれないように行えば問題にはならない、というように誤って解釈した者がいても困るので、本レポートの目的は「なぜ迷惑行為が表ざたになるのか」その構造を考察しているにすぎない、という事を念のため付け加えたい。
 
8 普段は迷惑行為をしていなくて、魔が差してしまいたまたまそれが炎上するケースもあるので、全てがこの文の限りではない。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年02月07日「基礎研レポート」)

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