コラム
2023年01月30日

小数について(その2)-循環小数を巡る話題-

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循環節の求め方

ある小数が与えられた時、その小数の循環節を求めるためには、もちろん充分な桁数の小数表記を算出することで、その周期を見つけ出すことができる。ただし、疑似的な循環節が現れることも考えられることから、循環節の長さの上限を事前に知っておくことが重要で、それだけの桁数まで求めて初めて、循環節が求められることになる。

先に述べたように、整数mに対して、mの素因数分解がm2a5b pp25を素因数として含まない自然数)と表されるならば、小数以下の循環しない有限桁数はabの大きい数となる。その後pの素因数に応じた循環節が現れてくることになる。さらに、mnが互いに素ならば、1mnの循環節の長さLは、1mの循環節の長さと1nの循環節の長さの最小公倍数(least common multipleLCM)になる

例えば、2376=23・33・11 となることから、循環しない有限桁数は最初の3桁となり、その後、1/33の循環節が「037」の3桁、1/11の循環節が「09」の2桁であることから、1/2376は、6桁の循環節「420875」を有することになる。即ち、以下の通りとなる。

1/2376=0.0004287542875…

アルティン予想

アルティン予想とは
アルティン予想(Artin's conjecture」(ここでは、「アルティンの原始根予想」について述べている)とは、「整数aに対して、aが −1や平方数でなければ a が素数 pに対する原始根となるような素数pが無限に存在する。」という予想である。ここで、「aが素数pに対する原始根である」とは、「a―1、a2-1、・・・、ap2-1のどれもpで割り切れなくて,ap1-1がpで割り切れる」ことを指している。

また、1/pをa進法で小数展開したときの循環節の長さが(p-1)となる場合の素数を「aを原始根とする素数」と呼んでいる。

πa(x) を1からxの間にある素数の中でaを原始根とする素数の個数、とした場合に

πa(x)~Cx/log x 

ここで、全ての素数pについての以下の算式の総乗法(積)Πの結果として、

C=Π(1-1/p(p-1))=0.37395・・・

となる。また、素数の分布に関する定理から、x/log x がx以下の素数の個数を近似していることが分かっている。

オーストリア出身の数学者であるエミール・アルティン(Emil Artin)(1898-1962)は、素数pに対して、自分自身の逆数1/pを小数展開した場合に、循環節の長さが自分自身より1少ない桁数(p-1)となる循環小数になるような素数はどのくらいあるのかを予想している。「アルティン予想」は、素数の数を増やしていくと、その割合が0.37395・・・ という数字に収束していく、としている(0.37395・・・は「アルティンの定数」と呼ばれている)。

この予想については、リーマン予想(リーマンゼータ関数ζ(s)の全ての非自明な零点は複素数平面上の直線1/2+ti(tは実数、iは虚数単位)上にある)が正しいと仮定すると成り立つことが証明されている。ただし、リーマン予想が証明されていないので、アルティン予想もまだ証明されていないということになる。

アルティン予想が正しいと証明されれば、aを原始根とする素数は無限個存在する、ということになる。即ち、1pa進法で小数展開したときの循環節の長さが(p1)となる場合の素数が無数個存在することになる。
実際の例
実際の例を見てみると、例えば、100以下のケースを考えた場合、素数pは以下の25個存在している。

2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97

このうち、1/pの循環節の長さが(p – 1)になるケースが、以下の9個存在している。

7,17,19,23,29,47,59,61,97

これにより、100以下のケースで考えた場合、該当するケースは36%(=9/25)存在していることになり、ほぼ「アルティンの定数」に近い値になっている。
「博士の愛した数式」において
なお、「アルティン予想」については、小川洋子氏の小説「博士の愛した数式」(小泉堯史監督により映画化されている)4においても、博士の学位論文のテーマとして「アルティン予想」が現れている。
(参考)フェルマーの小定理
アルティン予想に関連して、「フェルマーの小定理」について触れておく。

「フェルマーの小定理」は、素数の性質についての定理であり、実用としてもRSA暗号に応用されている定理である。

これは、p を素数とし、 a を整数とすると、
フェルマーの小定理」
が成立すると言う定理である。また、 p を素数とし、a をp の倍数でない整数(aと p は互いに素)とするときに、
p を素数とし、a をp の倍数でない整数(aと p は互いに素)とするとき
が成立する。即ち、a の(p-1)乗をp で割った余りは 1 となる。

最後に

今回は、小数を巡る話題のうち、「循環小数」を巡る話題について報告した。

日常社会において何気なく見かけることもあり、使用する機会も時々あると思われる「小数」だが、実はこんなに面白い性質を有しているということを知っていただいて、少しは興味深いものだなと感じていただけたのではないかと思っている。

次回は、「非循環小数」を巡る話題について、述べることとする。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年01月30日「研究員の眼」)

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