コラム
2019年05月27日

友愛数や婚約数や社交数って知っていますか-数学の世界にも洒落た名称の概念があるんです-

中村 亮一

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はじめに

以前の研究員の眼「完全数とその魅力について-「博士の愛した数式」を観て、改めて数字の持つ奥深さに魅せられました-」(2017.2.13)において、「博士の愛した数式」(小泉堯史監督)に出てきた「完全数」について紹介した。

今回は、同じくこの映画の中で出てくる「友愛数」について、及びそれに関連しての「婚約数」、「社交数」という概念について紹介する。一見すると結構洒落た名前が付与されている数学用語であるので、興味を持っていただければと思っている。

友愛数とは

友愛数(amicable number)」と言われると、一体どんな数字なんだろうと思われるかもしれないが、その定義は「異なる2つの自然数の組で、自分自身を除いた約数の和が、互いに他方と等しくなるような数」のことを言う。「親和数」とも呼ばれる。

一番小さな友愛数は「220と284」で、以下の通りに確認できる。

220の(自分自身以外の)約数 : 1, 2, 4, 5, 10, 11, 20, 22, 44, 55, 110 その和は284
284の(自分自身以外の)約数 : 1, 2, 4, 71, 142 その和は220

「博士の愛した数式」の中では、「私」(深津絵里)の誕生日2月20日と「博士」(寺尾聰)の時計に書いてある番号284という形で、友愛数が紹介されている。

友愛数はどれだけ存在しているのか

以前の研究員の眼において、「完全数」については、現時点で確認されているものは限られているが、「完全数が無数に存在するのか、有限なのか」、「奇数の完全数は存在するのか」、「1の位が6か8以外の完全数は存在するのか」といった問題が未解決のままである、ことを報告した。

「友愛数」についてはどうだろうか。

実は、友愛数については、完全数のように確認されている数が少ないわけではない。1000万以下の数値の組に限った場合でも、108個の友愛数が存在することが確認されている。小さいほうから10組ほど挙げると以下の通りになっている。

(220、284)、(1184、1210)、(2620、2924)、(5020、5564)、(6232、6368)、(10744、10856)
(12285、14595)、(17296、18416)、(63020、76084)、(66928、66992)

これらの例は、いずれも、偶数同士又は奇数同士の組み合わせである。

友愛数の歴史

古代ギリシャのピタゴラス学派1は、(220、284)からなる友愛数の存在を認識していたとされるが、次に発見された友愛数は、9世紀のアラビアの数学者で天文学者であるサービト・イブン・クーラによる(17296、18416)(現在で言えば8番目に小さい友愛数)であった、と言われている。

ただし、これはあまり知られておらず、その後、1636年に「数論の父」と呼ばれる著名な数学者であるピエール・ド・フェルマーによって、友愛数(17296、18416)が再発見された。さらにその2年後の1638年に、有名な哲学者で数学者でもあるルネ・デカルトによって、3番目の友愛数(9363584、9437056)(現在で言えば、104番目に小さい友愛数)が発見された。

このように、友愛数については、有名な数学者によって発見されてきていたが、大変興味深いのは(現在でみれば)必ずしも小さいものから順番に見過ごされずに発見されてきたわけではないということである(以前の研究員の眼で述べたように、同様のことは、完全数の発見についても起こっていた)。

2番目に小さい友愛数(1184、1210)が発見されたのは、1866年にニコロ・パガニーニという16歳の少年2によるものだった。

18世紀の偉大な数学者であるレオンハルト・オイラーは、友愛数を探し出すための法則を考え出すことによって、60余りの友愛数を発見したが、このオイラーをもってしても、2番目に小さい友愛数を発見することができなかったということになる。

現在は、こうしたオイラーの法則やコンピューターを用いることによって、多数の友愛数の組が確認されており、2018年1月1日現在においては、12億以上の友愛数の組が発見されているようである3

これを聞いてしまうと、コンピューターの発達が多くの事実を明らかにしてくれることは確かで有用なことだが、この概念が発見され、研究が進められていた当時の興味深さが失せて、何となく空しさを感じてしまうのは、私だけではないだろう。
 
1 ピタゴラスにより創設された宗教的学問的教団で、ピタゴラスの説を受け継ぐ学徒・教徒
2 1867年と言う説もある。なお、ニコロ・パガニーニは、ヴァイオリンの超絶技巧奏者として名高い同姓同名の音楽家とは別人である。
3 https://sech.me/ap/

友愛数の未解決問題

友愛数についても、未解決問題が存在する、それは、例えば「友愛数は無数に存在するのか、有限なのか」、「偶数と奇数からなる友愛数の組は存在するのか」という問題である。

これらの問題も、内容自体は誰でも理解できる極めてシンプルなものであるが、未解決なままである。

婚約数または準友愛数とは

婚約数(betrothed numbers)」とは、「異なる 2 つの自然数の組で、1 と自分自身を除いた約数の和が、互いに他方と等しくなるような数」のことをいう。「準友愛数(quasi-amicable numbers)」とも呼ばれる。

一番小さな婚約数は「48と75」で、以下の通りに確認できる。

48の(1と自分自身以外の)約数 :  2, 3,4, 6,8, 12, 16, 24 その和は75
75の(1と自分自身以外の)約数 :   3, 5, 15, 25 その和は48

婚約数も多数存在しているが、小さいほうから10組ほど挙げると以下の通りになっている。

(48、75)、(140、195)、(1050、1925)、(1575、1648)、(2024、2295)、(5775、6128)
(8892、16587)、(9504、20735)、(62744、75495)、(186615、206504)

これらの例は、全て偶数と奇数の組み合わせによるものである。

婚約数の未解決問題

婚約数についても、未解決問題が存在する、それは、「婚約数は無数に存在するのか、有限なのか」、「偶数同士又は奇数同士の婚約数の組は存在するのか」という問題である。

社交数とは

社交数(sociable numbers)」とは、「異なる 3つ以上の自然数の組で、ある数Aの自分自身を除いた約数の和が他の数Bになり、Bの自分自身を除いた約数の和が他の数Cになるということを続けていった場合に、元の数Aに戻るような数の組」のことをいう。

ある意味で、「完全数」は「1個組の社交数」で、「友愛数」は「2個組の社交数」であるといえる。

一番小さな社交数の組は(12496、14288、15472、14536、14264)で、以下の通りに確認できる。

12496の(自分自身以外の)約数 :1, 2, 4, 8, 11, 16, 22, 44, 71, 88, 142, 176, 284, 568, 781, 1136, 1562, 3124, 6248 で、和は 14288
14288 の(自分自身以外の)約数 : 1, 2, 4, 8, 16, 19, 38, 47, 76, 94, 152, 188, 304, 376, 752, 893, 1786,3572, 7144 で、和は 15472
15472 の(自分自身以外の)約数 :1, 2, 4, 8, 16, 967, 1934, 3868, 7736 で、和は 14536
14536 の(自分自身以外の)約数 : 1, 2, 4, 8, 23, 46, 79, 92, 158, 184, 316, 632, 1817, 3634, 7268 で、和は 14264
14264 の(自分自身以外の)約数 : 1, 2, 4, 8, 1783, 3566, 7132 で、和は 12496

2018年7月現在において、5,410組の社交数が発見されている。その殆ど(5,398組)が4個組で、残りは6個組が5つ、8個組が 4 つ、5個組・9個組・28個組が 1 つずつとなっている。これら以外の個数の組の社交数は発見されていない。

社交数の未解決問題

社交数についても、「社交数は無数に存在するのか」、「何個組までの社交数が存在するのか」等の未解決問題がある。

友愛数や婚約数や社交数という名前の意味するところは

さて、それではなぜ「友愛数」や「婚約数」や「社交数」という名称が付与されているのだろうか(以下の説明は、同性同士の結婚も認めるようになってきている現在の世界の風潮とは相容れない昔ながらの考え方に基づいているものであるといえるが、あくまでも語源の説明として行っている)。

昔の数学の世界においては、偶数が女性を奇数が男性を表すものと考えられていた。これによると、偶数同士又は奇数同士からなる友愛数は、まさに同性同士の関係によるものなので、「友愛」という用語が用いられた。

一方で、偶数と奇数からなる婚約数は、まさに異性同士の関係である。ただし、友愛数のように「自分自身を除いた約数の和が他方に等しい」というわけではなく、「1」も除かれていることから、「結婚」ではなく、その前の段階ということで、「婚約」という名称が用いられた。

また、複数の連鎖を通じて、友愛関係が示されることになることから、社交数については「社交」という用語が用いられた。

仮に、「偶数と奇数の友愛数が存在する」ことになれば、これは異性同士の友愛ということになり、これは結婚を意味するということで、「結婚数」と呼ばれることになる。ただし、この意味での「結婚数」が存在するのか否かは既に述べたように未解決のままである。従って、数学の世界において「結婚」を表現する数字の組み合わせの条件は極めて厳しく、いまだ存在すら確認されていないということになる。

一方で、「婚約数は、偶数と奇数の組み合わせしか存在しない」ということになれば、これは「同性同士の婚約数が存在しない」ことを意味することになる。

友愛数や婚約数や社交数は、社会でどのように役立っているのか

それでは、これまで紹介してきた「友愛数」や「婚約数」や「社交数」という概念は、一般社会において、どのように役立っているのだろうか。これについては、私が今回調べた限りにおいては、現段階においては特段に利用されているわけでもないようである。

その意味では、現時点では純粋に興味・関心の世界から、研究が行われてきているようである。将来的に、これらの概念に関する未解決問題が解決して、その構造等がさらに明らかになっていけば、何らかの形で社会でも利用されていく形に発展していくことになるのかもしれない。それは、今後の楽しみということと思っていたい。

まとめ

数字は、いろいろと面白い性格を有しており、奥深いものだと改めて感じさせられる。数学者も結構洒落た考え方に基づいたネーミングを行っているということもわかる。

今回は紹介していないが、友愛数の概念については、さらに一般化された概念が存在している。例えば、「友愛三数(amicable triple)」というのは、「三つの数字のうちのどれかひとつの自分自身を除いた約数の和が、残り二つを足したものに等しくなるという関係にある数字の組」のことをいう。具体的には、(103340640、123228768、124015008)がその例となっている。

即ち、以下の関係が成り立っている。

103340640の(自分自身以外の)約数の和=123228768+124015008
123228768の(自分自身以外の)約数の和=103340640+124015008
124015008の(自分自身以外の)約数の和=103340640+123228768

このような概念は、さらに一般的にn個の数字の組に一般化されていくことになる。

数字を巡る世界は、興味・関心の幅を広げていくと尽きないものになっていく。

暇な時には、数字遊びをしてみるのも、頭の体操にはよいかもしれない。
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(2019年05月27日「研究員の眼」)

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