2023年01月24日

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1. はじめに

昨今、大学が不動産売買市場および賃貸市場の担い手として存在感が増している状況を踏まえ、弊社は、野村不動産ソリューションズ株式会社と共同で、全国の国公立大学および私立大学を対象に「大学の不動産戦略に関するアンケート調査」(以下、「本調査」)を実施した1

前回のレポート2は、本調査結果の一部を紹介し、大学の保有施設とキャンパスの整備方針について概観した。

大学では、少子化の進行に伴い、授業料収入に偏らない財源の多様化が喫緊の課題となっており、資産運用収入の拡大に大きな期待が寄せられている。そこで、本稿では、大学の資産運用や、不動産投資(保有不動産の賃貸経営等)の現況を概観した上で、大学が不動産市場に与える影響について考察する。
 
1 ・アンケート送付数;日本国内の国公立大学および私立大学 817校 [国公立大学194校・私立大学623校]
・回答数;107校(回収率:13%)[国公立大学30校・私立大学77校]
野村不動産ソリューションズ 法人営業本部 CRE 情報部 ニッセイ基礎研究所と共同で大学の不動産戦略におけるアンケートを実施
2 吉田資『大学の不動産戦略(1) ~保有施設とキャンパスの整備方針について~』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年1月18日

2. 大学の収益構成

2. 大学の収益構成

まず、本章では、大学の収益構成を確認したい。日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政」によれば、私立大学(医科系法人を除く大学)の収益構成は、「授業料等」の割合(73%)が最も大きく、次いで「補助金」(14%)、「事業収入」(4%)となっている(図表-1)。私立大学は授業料等の収入に大きく依存していることが確認できる。

また、文部科学省「国立大学法人等の決算について」によれば、国立大学の経常収益構成は、「付属病院収益」(37%)が最も大きく、次いで「運営費交付金収益」(31%)、「学生納付金収益」(11%)となっている(図表-2)。医学部がある大学に限られる「付属病院収益」を除くと、国からの補助金である「運営費交付金」と授業料(学生納付金)が大きな割合を占めている。

文部科学省「大学への進学者数の将来推計について」によれば、大学進学者は2017年の63万人から2040年には51万人(対2017年比▲19%)へと減少する見通しであり、今後、授業料等の収入が減少し大学運営における財政課題が顕在化する可能性がある。

また、国立大学における2020年度の「運営費交付金」は10,807億円となり2010年度対比▲7%減少した。この背景として、国は「運営費交付金」を削減する一方で、研究者が応募・審査を経て獲得する競争的資金(科研費や補助金)を手厚く支給する「選択と集中」と呼ばれる政策が指摘されており3、今後、「運営費交付金」が大幅に増加する可能性は低いと考えられる。

こうした状況を鑑みると、大学では、新たな財源の確保が喫緊の課題であり、現状では小さな割合4に留まる「資産運用収入」の拡大に期待が寄せられている。
図表-1 私立大学の収入構成/図表-2 国立大学の経常収益構成
 
3 竹内 健太「国立大学法人運営費交付金の行方-「評価に基づく配分」をめぐって-」参議院常任委員会調査室・特別調査室「立法と調査」 2019.6 No.413
4 大学経営協会「第7回全国大学の資産運用調査」(2018年9月調査)によれば、「収入に占める資産運用収益の割合」に関して、国立大学の90%が「0~1%」と回答。私立大学における資産運用収益の割合は2%(図表-1参照)

3. 大学の資産運用の現状

3. 大学の資産運用の現状

次に、大学の資産運用の現状を確認する。大学経営協会「第8回全国大学の資産運用調査」(2020年9月調査)によれば、有価証券運用を行っている大学法人は、国立大学で81%、私立大学で78%となっている。5校のうち4校は有価証券運用を実施しており、大学にとって資産運用は既に身近なものだと言える。

日本私立学校振興・共済事業団「令和3年度学校法人の資産運用状況」によれば、私立大学の運用資産構成は「現金預金」が45%、「債券」が42%となっている(図表-3)。国立大学の運用資産構成についても、「現貯金」が56%、「国内公共債」が26%、「国内民間債」が9%を占める(図表-4)。
図表-3 私立大学の運用資産構成/図表-4 国立大学の運用資産構成
また、資産運用利回り(私立大学、令和2年度決算)を確認すると、約6割の大学が「1%以下」で、中央値は「0.5%」と低い水準に留まる(図表-5)。低金利環境が継続するなか、運用利回りの向上を目指すには、「現金預金」・「債券」が大部分を占める現在の資産構成を見直して、リスク性資産の比率を引き上げるなど、運用資産の分散や効率化が求められることになりそうだ。
図表-5 私立大学の資産運用利回り
その際、不動産は有力な投資先の1つに挙げられる。大学の資産運用では、教育研究費等を補う目的として、長期にわたり安定的な運用収益(インカム収入)の確保が求められる。運用資産としての不動産は、一定の価格変動リスクを前提に、賃料収入を原資として比較的高いインカム利回りの獲得のほか、債券や株式との相関が低いため分散効果によるポートフォリオのリスク低減が期待できる。

不動産証券化協会「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査」によれば、「長期的な観点からの安全かつ効率的な運用5」が求められている年金基金の資産配分において、不動産の投資比率は増加傾向にあり、2021年度は4.7%となっている(図表-6)。

また、海外の大学では不動産投資を通じて高い運用利回りを実現している事例もみられる6。日本においても、資産構成の分散を図るうえで不動産投資を検討する大学は増える可能性がある。
図表-6 年金基金の運用資産構成
 
5 年金積立金管理運用独立行政法HP「年金積立金の運用とは」
6 吉田資『不動産投資への気運が高まる大学の資産運用』ニッセイ基礎研究所、年金ストラテジー (Vol.279) September 2019

4. 大学の不動産投資の状況

4. 大学の不動産投資の状況

続いて、本章では、大学の不動産投資について、本調査の結果をもとに、「(1)保有不動産の賃貸・貸付の状況」、「(2)賃貸・貸付を行う目的」、「(3)資産運用目的での賃貸不動産の保有状況」の3点を確認する。
(1) 保有不動産の賃貸・貸付の状況
本調査で「保有不動産の賃貸・貸付の有無」について質問したところ、「行っている」との回答が6割弱を占めた(図表-7)。国公立大学と私立大学に分けてみると、「行っている」との回答は、国公立大学が7割、私立大学が約5割であった。三井住友トラスト基礎研究所「大学におけるサテライトキャンパス、サテライトオフィス等に関するアンケート調査(2011年8月調査)」(以下、「2011年時点調査」)によれば、「保有不動産の賃貸を行っている」との回答は30%であった。保有不動産の賃貸経営(賃貸・貸付)を行う大学は以前と比べて増加していると考えられる。
図表-7  保有不動産の賃貸・貸付の有無
「国立大学法人法」の一部改正に伴い、2017年4月以降、文部科学大臣の許可を受けた国立大学は、土地等を大学の業務に関わらない使途で第3者に貸し付けることが可能となり7、土地等の貸付に取り組む国立大学が増加している(図表-8)。国立大学の土地貸与事例は2022年3月時点で28件に達し、その用途は、駐車場やマンション、老人ホームなど、多岐にわたる8

例えば、東京工業大学は、東京・田町の同大付属高校の跡地を2026年から75年間の定期借地権を設定し、NTT都市開発、鹿島建設、JR東日本、東急不動産の4社に貸付を行うとのことである9。このように、今後も保有不動産の貸付を通じて長期安定的な収入を確保する大学が現れると予想される。
図表-8 土地の第三者貸付の認可を受けた国立大学
 
7 文部科学省「国立大学法人法第三十四条の二における土地等の貸付けにかかる文部科学大臣の認可基準について」
8 日本経済新聞 「東京学芸大、遊休地貸与で安定資金 敷地に専門学校誘致」(2022 年4 月26 日)
9 4社は、オフィスやホテル、商業施設等が入る地上36階、地下2階のビルと、地上7階のビルの開発を計画。また、「週刊東洋経済 臨時増刊 本当に強い大学 2021」によれば、貸付による賃料収入は年間45億円(総額3,375億円)とのことである。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【大学の不動産戦略(2)~資産運用と不動産投資の現状について~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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