コラム
2022年12月26日

ファーストリテイリングの株式分割は指数のウエイトに影響する?

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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2022年12月15日に、ファーストリテイリングが2002年4月以来の株式分割(1対3分割)を発表した。12月15日の終値を参考にした場合、株価は8万4,570円(最低投資単位845万7,000円)から1/3の2万8,190円(同281万9,000円)に低下する。
 
今回の株式分割でテクニカルに株価が低下すると、日本株式の代表的な指数であるTOPIXや日経平均株価に占めるウエイトが変わるなどの影響はあるのだろうか?TOPIXは指数の算出方法に時価総額加重方式を、日経平均株価は株価平均方式を採用している。特に、日経平均株価は株価平均のため、分割によりファーストリテイリングの株価が低下すると、指数に占めるウエイトも減ると思う人もいるかもしれない。
 
さきに結論から言うと、株式分割は指数にとって中立要因であり、株価水準が低下することで指数に占めるウェイトが減ることは基本的にない。指数の連続性を維持するために、ほとんどの場合が採用株価が株式分割の前後で変わらないよう調整されるからだ。
 
では具体的にどのように調整されるのか。TOPIXと日経平均株価について、ファーストリテイリングの株式分割を例に指数算出方法を確認してみよう。

【TOPIX】

TOPIXは東京証券取引所に上場している企業を広範に網羅するとともに、流動性なども考慮しインデックス運用で用いられることも前提に考えられている株式指数である。構成銘柄数は2,163銘柄(2022年12月15日時点)と多い。時価総額加重方式により算出されており、1968年1月4日の時価総額を100として指数化されている。
 
具体的にTOPIXの算出式は、以下のとおり算出時の指数用時価総額を基準時価総額で割って計算される。指数用時価総額は、市場で流通し売買される可能性の高い浮動株ベースの時価総額を用いている。
TOPIXの算出式
例として2022年12月15日時点のTOPIXを計算した。2,163銘柄の時価総額(浮動株ベース)の合計381兆1,688億3,280万1,469円を、基準時価総額19兆3,104億5,594万5,353円で割り、基準値100をかけるとTOPIXは1973.90ポイントと算出された。
TOPIX計算例
TOPIXのような時価総額加重方式の場合、株式分割は指数算出にどう影響するのか。
 
まず株式分割の仕組みを確認しよう。株式分割とは、1株をいくつかに分割し、発行済み株式数を増やすことを指す。図表1は、1対3分割の株式分割をした場合の例である。株価9万円のA企業の株式を100株保有していた場合の例である。A企業が1対3分割の株式分割を実施すると、保有株数は3倍の300株となり、それに伴って株価は1/3の3万円になる。そのため、分割前後で保有株数全体の価値は900万円と変わらない。
図表1 1対3分割の株式分割を実施した場合
上記の保有株数全体の価値をTOPIX算出時の時価総額に置き換えてもらえば分かると思うが、TOPIX計算式の分子に使用するファーストリテイリングの指数用時価総額も分母の基準時価総額も分割前後で変化せず、TOPIXの指数には影響しない。当然、指数に占めるウエイトも株式分割で減ることはない。

【日経平均株価】

その一方で日経平均株価は、東証プライム市場に上場する銘柄から225銘柄を選定し、その株価を使って算出する株価平均指数である。日経平均株価の算出式は、以下のとおり、構成銘柄の株価を「株価換算係数」で調整したうえで合計したものを、「除数」で割って算出する。
日経平均株価の算出式
株価換算係数は、指数の算出に用いる採用株価の水準を調整する数である。除数は、当初は採用銘柄数の225であったが、その後、銘柄入れ替えなどに合わせて数値を変更している。株価換算係数や除数は、日経の指数公式サイトである日経平均プロフィル(https://indexes.nikkei.co.jp/nkave)で確認できる。
 
例として2022年12月15日時点の日経平均株価を計算した。分割前のファーストリテイリングの採用株価は、8万4,570円(8万4,570円×1)だった。全採用銘柄の採用株価を計算した合計81万9,195円を、除数29.20304637で割ると日経平均株価は2万8,051.70円となる。
日経平均株価計算例
では、ファーストリテイリングが2022年12月15日時点で1対3分割の株式分割を実施したと仮定した場合、計算式はどのように調整されるのだろうか。最終的には指数の算出・公表を行っている日本経済新聞社の発表を待つ必要があるものの、通常行われる調整は図表2のとおりである。
図表2 株価換算係数で調整されるため、寄与度とウエイトは影響なし
1対3分割の株式分割が実施されると、株価は14日2万8,413.3円、15日2万8,190円と分割前の1/3に低下する。ただし、分割比率に合わせて株価換算係数が1から3に調整されるため、採用株価自体は分割前と変わらない14日8万5,240円(2万8,413.3円×3)、15日8万4,570円(2万8,190円×3)になるため、寄与度やウエイトにも影響はない。ちなみに、ファーストリテイリングの株式分割後に株価換算係数を1のまま変更しなかった場合、日経平均株価は2万6,121.08円と14日の日経平均株価2万8,156.21円から約2,000円も下落することになる。これでは指数の連続性・継続性が保たれないため、単純な株価平均ではなく、株価換算係数や除数を用いて算出しているのだ。
 
このように、今回の株式分割によってファーストリテイリングの各指数に占めるウエイトが減ることは基本的にないように対応される。では、ファーストリテイリングのウエイトが減る可能性はあるだろうか。
 
TOPIX、日経平均株価ともに個別銘柄が指数に占めるウエイトに上限を設定している。TOPIXは「10%」、日経平均株価は2022年10月の定期見直しから「12%」、2023年10月の定期見直しから「11%」、2024年10月以降の定期見直しでは「10%」としている。ウエイトの上限を超えた場合は、ウエイトを一時的に引き下げるために調整がはいる。

図表3は2022年12月15日時点のTOPIXと日経平均株価のウエイト上位5銘柄である。
図表3 構成比率上位5銘柄 
ファーストリテイリングは、2022年12月15日時点では日経平均株価のウエイト上限を超えてはいないものの、今後超えてくる可能性がある。ウエイト上限を超えた場合は採用株価を計算する際に株価換算係数ではなく、キャップ調整済み株価換算係数(株価換算係数×キャップ調整比率)が適用されるため、ウエイトが減ることになる。毎年10月の定期見直し時点のウエイトが対象となるため、その点は注目しておく必要があるだろう。
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2022年12月26日「研究員の眼」)

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