2022年12月22日

男性の育児休業取得に向けた「企業」に必要な視点-企業は就業規則における制度設計や職場内理解の醸成を、男性も育児知識の必要性、育児時間は労働時間の抑制がカギ-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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4――男性の育休取得の必要性が分かる育児の視点

1|新生児の生活リズム 
今回新設された産後パパ育休では、女性の産後休業期間中である産後8週間以内に、男性が産後パパ育休の取得が認められている。そのため、その期間に該当する生後0か月の新生児の生活リズムを事前に知識として知ることは、育児内容の具体化や事前の準備において非常に役立つと考える。

以下の通り、図表2に新生児の生活リズムを示した。この表は、筆者が行政保健師時代に両親学級やプレママ・プレパパ教室で使用していた教材を基に作成したものであり、助産院や医療機関の両親学級でも良く用いられているものである。
図表2.新生児の生活リズム(睡眠・授乳・排泄)
生後0か月までの新生児は、一般的に2~3時間ごとの睡眠を繰り返し、一日では合計12~16時間ほどの睡眠をとるが、眠りは浅く、ちょっとした音(足音やドアの開閉音)でも敏感に反応し覚醒することもある。

また、授乳は睡眠の合間に1日8回~10回程度することとなるが、授乳には、母乳のみの完全母乳、人工乳いわゆるミルクのみの完全人工乳、母乳と人工乳の混合授乳の3つの方法があり、完全母乳を保つための乳房マッサージや、哺乳瓶の洗浄や消毒など、新生児が入眠している間に、手間のかかる準備や事後対応が必要となる。また、授乳後には、毎回、排気(ゲップ)をさせる必要があるが、胃の噴門部の締りが弱い新生児では、授乳後にゲップができず、寝かせた後に吐乳をする可能性があり、着替えや時には飲みなおしが必要となる場合もある。排泄は、少量の排尿を15回~20回程度、排便は少量を授乳後に毎回、もしくは1日に2~3回程度が目安となり、便は水様性で皮膚がかぶれやすいため、少量でも排泄があればすぐに取り換えることが基本となる。

このように、新生児時期の育児は、睡眠・授乳・排泄の繰り返しが基本となるが、他にもぐずり対応や、衣類の取り換え等、様々な育児が必要となる。この新生児の生活リズムは個人差が大きく、子どもの個性に合わせて、不快を排除していくことが新生児育児の基本となる。

これらの新生児の生活リズムを考慮すると、例えば、完全母乳の際には、授乳以外の家事・育児を男性側が担い、混合授乳や人工乳の場合には男性が積極的に授乳に参加することで、その間に母体の回復を促すことができる。また、沐浴等は新生児をお湯の中で支えながら洗うという力仕事になるため、産後の母体回復を優先したい女性ではなく男性が担うなどの役割分担ができれば、男女ともに育児がしやすくなる。
2|母体の回復過程 
次に、男性が育児をする上で必要な視点として、産後の母体の回復過程についても触れておきたい。産後の母体は、分娩時のいきみなどで骨盤底筋群が伸びて断裂し、割けた会陰や産道からの出血と痛みが続き、胎児を通しやすくするために骨盤が開くため歩行が困難になるなど、「全治2か月の事故」と例えられるほど身体にダメージを負っている7
図表3.産後の母体の回復過程(子宮低と悪露経過)
しかし、これらのダメージからの回復は、分娩回数や分娩方法によっても産後の母体回復スケジュールは大きく異なるが、あまり知識として得られる機会がないのが実状である。

この母体の回復過程は、男性側の育児参加の仕方にも大きく影響するため、事前に知識として知ることができれば、非常に参考となるであろう。

一般的に、産後の母体が妊娠前の状態に戻るまでの期間を「産褥期(さんじょくき)」と呼び、この期間は通常、6~8週間ほどを要する。この産褥期には、妊娠により約11倍程度拡大した子宮が、分娩後に元(妊娠前)のサイズに戻ろうと収縮し、悪露(おろ)(出血様の子宮内膜や分泌物)の排出などの「子宮復古(しきゅうふっこ)」が促される。この子宮復古に伴い、子宮収縮による痛みや、悪露によるマイナートラブル(陰部のかぶれ等)が生じることが認められている。

また、出産経験のない者を初産婦(しょさんぷ)と呼び、出産経験のある者を経産婦(けいさんぷ)8と呼ぶが、実はこの出産経験(回数)の有無により、分娩時間が大きく異なる。初産婦は平均12~15時間、経産婦は4~8時間程度とされ、この分娩に伴う陣痛についても初産婦の方が長く、経産婦の方が短いため、初産婦の方が産後6か月までの疲労に関する主訴が経産婦の約2倍以上あると報告されている。つまり、初産婦の方が身体的な疲労に関する訴え、母体に関するケアを多く必要とされているのである。

さらに、分娩方法では、経腟分娩(けいちつぶんべん)と帝王切開(ていおうせっかい)に分類される。経腟分娩では通常、分娩に伴う膣壁や外陰部の裂傷を回避するために、あらかじめ会陰切開(えいんせっかい)を実施するが、産後にはその切開部の痛みなどが日常生活動作に影響を及ぼすことが指摘されている。

一方で、帝王切開は下腹部を切開するため、その傷が完治するまでに約6週間を要するとされており、産後の経過をみるために帝王切開で分娩した者の方が入院期間も長くなり、身体活動制限が段階的に課されるのが一般的である。

産後パパ育休を取得する男性は、パートナーの分娩が初めての場合は、産後の母体疲労へのケアを家事・育児の合間に取組み、出産経験があっても分娩方法によっては、創部の完治までは沐浴などの創部への負担がかかる身体活動は控えてもらい、男性が代わりに取り組むことをお勧めしたい。
 
7 分娩による身体への影響は、分娩に伴う各部位の出血と痛み、骨盤底筋群の開きによる便漏れや尿漏れ、いきみによる高血圧や痔、乳腺発達に伴う緊満感と痛み、ホルモン値の変動による抜け毛や肌の黒ずみ等が生じる。
8 経産婦(けいさんぷ)とは、正確には、妊娠22週以降の胎児を1回でも出産した者と定義されている。

5――男性の長時間労働是正

5――男性の長時間労働是正にもつながるワークライフバランス改善の視点

さきほどまでは新生児の生活リズムと母体の回復過程から、男性が産後パパ育休を取得する必要性が分かる具体的な育児内容について触れてきた。

続いて、厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得期間は5日から2週間以内が最多と報告されており、大半は就労しながら育児に参加することが想定される。これを踏まえて、【長時間労働】の是正にもつながるであろう、就業中の男性が育児参加する際のワークライフバランスについて検証した。

2021年に国立成育医療研究センターが実施した未就学児を持つ父親の1日の生活時間を分析した手法を参考に9、有業の父親が確保すべき1日の生活時間(睡眠等の1次活動、就労や育児の2次活動、移動や余暇等の3次活動)のバランスを2021年の最新基幹統計である総務省「令和3年社会生活基本統計」10を用いて算出した。

尚、今回は産後パパ育休を取得する期間のワークライフバランスの参考となるように、1)夫婦と子ども世帯、2)有業の父親(共働きと専業主婦世帯)、3)子どもが0歳児、の3つの条件を満たす1,492名を分析対象とした。
図表4.0歳児を持つ有業男性の生活時間配分
その結果、0歳児のこどもを持つ有業(共働き)の父親の生活時間の現状は、睡眠や食事などの1次活動時間が10.30時間、2次活動は2つに分類し、仕事関連時間が8.1時間、家事・育児が2.3時間、移動や余暇などの3次活動は3.3時間であることが明らかとなった。

政府は、男性が育児時間を確保するために、2025年までに6歳未満の子どもをもつ男性の1日あたりの家事・育児時間を150分(2.5時間)となるように目標を掲げている。また、ワークライフバランスを検討する上で、食事や睡眠などの人間が生理的に必要な1次活動時間は調整することができないものとして取り扱う必要がある。

さらに、先行研究より3次活動時間を約2時間として算出していることから、1次活動は現状維持、育児時間を目標の2.5時間へ拡大した上で、①3次活動時間を2時間へ縮小が可能な場合と、②3次活動の縮小が不可能である場合に就労時間を縮小する必要がある2つのパターンを以下に検証した。
図表5.育児時間2.5時間を確保するためのワークライフバランス
その結果、政府が掲げる男性の目標育児時間を確保するためには、余暇時間などの3次活動時間を調整できる①の場合には、共働き世帯における仕事関連時間は最大9.2時間まで、専業主婦世帯における仕事関連時間は8.7時間以内に抑制する必要があることが明らかとなった。

さらに、余暇などの3次活動時間が調整できないと仮定した②の場合には、政府が掲げる男性の目標育児時間を確保するには、共働き世帯における仕事関連時間は7.9時間以内へ、専業主婦世帯における仕事関連時間は7.4時間以内へ抑制させる必要があることが明らかとなった。

特に、余暇時間を調整できない②の場合には、0歳児の育児時間を確保するためには、仕事を8時間未満に抑制しなければならない。さらに、今回の算出方法では、健康上の理由から抑制して欲しくない1次活動を現状維持のまま算出しているが、筆者の臨床経験から、実際に父親はこの食事や睡眠などの1次活動時間を削って仕事と育児を両立しようと試みる傾向が認められていた。

図表2に示したように0歳児、特に新生児期には、授乳対応などが2~3時間ごとに必要となるため、そもそも連続した睡眠時間は確保できない。子どもが生後3か月を過ぎるあたりからは、授乳や睡眠リズムが一定のパターンを示すようになるため、育児の見通しがつくようになる。

可能であれば、生後3か月ごろまでは、男性も産後パパ育休や育児休業を取得し、育児に専念する環境を作って欲しいが、難しいようであれば、上記の算出時間を参考に育児時間を確保して欲しい。
 
9 大塚美耶子ら(2021)国立成育医療研究センター「未子が未就学児の子供を持つ父親の労働日における生活時間」厚生の指標第68巻15号 P24~30.2021.
https://www.ncchd.go.jp/press/2022/220112.pdf
10 総務省統計局(2022)「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果」https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/youyakua.pdf

6――まとめ

6――まとめ

本稿では、育児・介護休業法の改正に伴い、新設された産後パパ育休と男性の育児休業制度について概説し、現状と課題を整理し、企業に求められる視点について整理した。

今回の育児・休業法の改正では、産後パパ育休の新設により、子の出生後8週間以内に分割して休業が取得できるようになったこと、育児休業制度においても分割取得が可能となり、男女のワークライフバランスを考慮した柔軟な取得方法が可能となったことがポイントとなる。

しかし、男性の育児休業の取得率をみると、13.97%と目標値との大きな乖離が認められ、取得タイミングもばらつきがあり、取得期間も短い実態が明らかとなっている。

男性の育休取得率が低い要因を探ると、企業の就業規則上の制度設計や業務繁忙・人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが判明した。

企業がこれらの要因に対し取り組むことは、男性の育休取得率の向上はもとより、男女のワークライフバランスが是正され、エンゲージメントの向上や性的役割分業の是正に貢献できる。企業の働き方改革が進み、健康経営視点を考慮した企業成長が見込めるようになれば、企業側の価値向上に寄与することが期待できるであろう。

また、企業側の情報提供に必要な視点として、新生児の生活リズムや母体の回復過程を把握し、育児に関わるための具体的な方法をイメージすること、さらに、有業男性が育児時間を確保するには、労働関連時間の抑制が必要であり、企業が男性の育休取得率を向上させるには、大前提として男性のワークライフバランスを考慮した柔軟な働き方の見直しが重要であることが示唆された。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2022年12月22日「基礎研レポート」)

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