2022年12月22日

男性の育児休業取得に向けた「企業」に必要な視点-企業は就業規則における制度設計や職場内理解の醸成を、男性も育児知識の必要性、育児時間は労働時間の抑制がカギ-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

日本では、育児・介護休業法の改正に基づき、産後パパ育休(出生児育児休業)が新設され、2022年10月1日から施行された1

この産後パパ育休では、子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能で、分割して2回取得することが可能となっている。また、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲内で、休業中にも就業が可能となった。

さらに、この産後パパ育休とは別に、育児休業制度に基づき、原則、子が1歳までに分割して2回の育児休業が取得可能で、育休開始日を柔軟に設定できるようになっている。

しかし、令和3年度雇用均等基本調査2によると、男性の育児休業取得率は13.97%と年々上昇傾向にあるものの、2025年男性の育休取得率の目標値30%と比べるといまだ大きな乖離があり、女性の育児休業取得率85.1%とも大きな差が認められる。

では、男性の育児休業取得率はなぜこんなにも低いのか?本稿では、男性の育児休暇取得の現状と課題を分析し、男性が育児に関わるために重要な視点を示したい。

また、保健師の知見を活かし、育児休業の本来の目的である「子どもの育児」に焦点を当てて、これから育児休業を取得する男性に向けて必要な視点を示す。
 
1 厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/000977789.pdf
2 厚生労働省 令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要「事業所調査」より、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの間に配偶者が出生した男性のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者の割合であることに留意。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf 

2――産後パパ育休制度と男性の育休取得率の現状

2――産後パパ育休制度と男性の育休取得率の現状

1|新設「産後パパ育休制度」のポイントとは?
まず、2022年10月から施行された「産後パパ育休(出生児育児休業)」制度について、概説する。

この制度は、改正育児・介護休業法により、男女とも仕事と育児を両立することを目的に、1)雇用環境の整備、個別周知・意向確認の措置の義務化、2)有期雇用労働者の育児。介護休業取得要件の緩和、3)産後パパ育休の新設及び育児休業の分割取得、の3段階で施行された3段階目にあたる。

図表1の通り、産後パパ育休制度では、原則休業の2週間前までに申出ると、子の出生後8週間以内に4週間まで、分割して2回取得することが可能となる制度である。

また、この産後パパ育休制度とは別に、育児休業制度が存在し、原則休業の1ヶ月前までに申し出ると、子が1歳(最長2歳)になるまでに、分割して2回の育児休業が取得可能となった。

これらの制度改正により、産院から自宅へ戻るタイミングや、女性の産後休業制度が終了するタイミング、女性が復職するタイミングなどに休業を取得でき、男女とも柔軟に育児休業制度を設定することが可能となった。

つまり、男性の育児休暇を取得するタイミングが業務都合等を考慮して、より柔軟化し、男性の育児休業取得率の向上を狙った対策であることが見て取れる。

男性の育児休業の取得率が向上すれば、男性の育児参加を促し、女性の社会参加を促すことで、育児に関する性的役割分業の是正につながり、男女ともにワークライフバランスの向上が期待できる。

また、男性の育休取得を契機に、働き方改革や休業取得がしやすい企業風土を醸成することにつながり、自身の通院や家族の介護など、多様な事情を抱える者たちに対しても就労しやすい環境を提供できる。男性育休取得の促進は多様なメリットを生み出す可能性があると言えよう。
図表1.産後パパ育休と育児休業制度の概要
2|男性の育児休業取得率の現状は?
では、なぜこれらの育児休業制度を柔軟化する必要があったのか。この主な背景として、男性の育児休業取得率が非常に低いことが挙げられる。

厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 」3によると、男性の育児休業取得率は13.97%と年々上昇傾向にあるものの、2025年男性の育休取得率の目標値30%と比べるといまだ大きな乖離があり、女性の育児休業取得率85.1%とも大きな差が認められている。

また、平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」4では、男性が育児に関する休業を取得した際に活用した制度として、「年次有給休暇制度のみ」が28.8%と最も高く、年次有給休暇で対応した層では、妻が退院したタイミングで取得していた傾向が高い。さらに、取得期間では、年次有給休暇で対応した層では平均7日未満であり、育児休業制度を活用した層では平均1か月から2か月取得していると報告されている。

男性の育児休業取得の実態をまとめると、そもそも育児休業制度は活用せず、年次有給休暇制度を活用しており、女性の産後回復期間である産後数か月には取得しておらず、さらに取得期間も育児に関わるには十分な期間を取得していない実態が明らかとなっている。
 
3 厚生労働省 令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要「事業所調査」より、令和元年10月1日から令和2年9月30日までの間に配偶者が出生した男性のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者の割合であることに留意。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf  
4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000174277_3.pdf

3――仕事と育児の両立

3――仕事と育児の両立に関する実態調査結果から見える要因

1|就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、理解の醸成不足の改善などがポイント
次に、なぜ日本において男性の育児休業取得率が低く、育児休業制度を活用して有効に育児に関わることができていないのか。その要因を探るために、平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」の結果を用いて、要因を分析した。

「男性の育児を目的とした休暇・休業取得の要因」の職場要因において、男性が育児休業を取得しなかった理由をみると、「いずれの休暇・休業も取得していない層」では、「会社で育児休業制度が整備されていなかった」の割合がもっとも高く、38.3%となっていた。

一方で、「育児休業を取得せず、年次有給休暇等で対応した層」では、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」が28.4%でもっとも高く、次いで「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が25.8%、続いて「会社で育児休業制度が整備されていなかった」が24.2%となっていた。

また、末子の妊娠判明時の男性の週当たりの労働時間別でみると、「週60時間以上」の層において取得していない傾向が認められており、育児への関り度合いについても、1週間あたりの実労働時間別で週60時間以上の層では、「育児に十分関われている」に対し「あまりそう思わない・そう思わない」が56.8%となっていた。

さらに、「ほとんど19時までに帰宅していない」層や、「残業のため、深夜勤務をすることがある」層では、「育児に十分関われていない」とする割合が高くなる傾向が認められている。

これらのことから、男性の育児休業取得を阻む要因として、企業の就業規則における制度設計、業務繁忙や人手不足、職場内での理解の醸成不足、長時間労働などが影響していることが明らかになった。企業側は、これらの要因に対し取り組むことで、男性の育児休業取得の促進に効果を与えることができると考える。

これらの要因に対する企業の対策に触れると、「就業規則上の制度設計」については、企業経営者の方針に依存することが大きい。そもそも、企業が育児に関する独自の制度を就業規則に定めるには、企業経営者の判断によるところが大きいため、厚生労働省が示すように5、仕事とのワークライフバランスを整えている企業であるというイメージアップ、社員の意識向上、生産性向上、優秀人材の確保、人材定着につなげる「健康経営」の意識を企業経営者が持つ必要がある。

企業が育児との両立に関する制度導入や取り組みを実施すると、くるみん認定マークの取得による優遇措置や、イクメン企業宣言により6、イクメン推進企業として認知されることにより、人材の確保につながるなど、企業側のメリットも存在する。

「業務繁忙・人手不足」も、ICTなどを活用した業務効率化に取り組む必要があり、業務フロー自体を見直すには、これらについて企業経営者は方針を示す必要がある。また、企業内での柔軟な人材配置や、企業の追加コストは発生するが育休取得期間中の派遣社員の採用などに取り組む工夫も重要である。

「職場内での理解の醸成不足」については、先ずは企業の人事や経営企画部部門などが役職ごとに応じた制度説明による理解の醸成や、研修機会を設けて役職ごとに応じた業務の調整方法や分担方法などを具体的に検討する機会を設ける必要がある。管理職や上司など立場が上の者が積極的に休業を取得した事例をイントラネットで共有すると、取得しやすい雰囲気を醸成することができた企業事例もあり、ひとつの手かもしれない。

これらの要因に対する企業の取組みは、制度が活用されやすい働き方改革につながり、各企業の従業員のエンゲージメントの向上が、社会全体での理解の醸成や処遇改善につながる。企業の経営者層をはじめ、管理職や従業員に対し、これらの考え方やつながりを浸透させることに意義があると考える。

尚、長時間労働に対する要因については、男性のワークライフバランスを具体的にどのように調整すれば良いかを明確に把握する必要があるため、男性の生活時間を用いて分析した結果を後述する。
 
5 厚生労働省「就業規則への記載はもうお済みですか‐育児・介護休業等に関する規則の規定例」
 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000685055.pdf
6 イクメンプロジェクトとは、「育てる男が、家族を変える・社会が動く。」をビジョンに掲げたプロジェクトである。https://ikumen-project.mhlw.go.jp/project/about/
2|企業が育児休業制度を情報提供する重要性
次に、男性の育休取得の取得率に影響する要因として、育児休業制度に関する情報提供の重要性があげられる。

先の調査において、男性が育児休業を取得したキッカケをみると、「職場の同僚や上司などから取得を勧められた」が22.9%、「会社から取得を勧められた」が17.1%となっている。逆にいうと、企業側からの情報がなければ、取得していなかった可能性が非常に高いことが伺える。

また、配偶者との関係において、妊娠期間中に妻とよく話し合った層では、男性の育児休暇の取得率が高い一方で、妻とあまり話し合っていない層では取得率が低下する傾向が認められている。

さらに、育児休業を取得しなかった理由について、「制度を知らなった」と回答している層も一定数認められる。

そもそも、女性は妊娠届け出や妊婦健診のタイミングで、育児や休業制度に関する情報に触れる機会を得ることができるが、男性は自治体や産院の両親学級に参加したり、自分から企業へ問い合わせない限り情報を得る機会そのものが少ない。

企業側は、人事部などが雇用時や人事面談時に制度概要について説明する機会を設けるとともに、制度や働き方改革と絡めた研修の実施、社内向けの広報誌などで復職計画と合わせてロールモデルを示すなど、継続的に制度に関する情報を提供する努力が必要である。

ただ、従業員個々の家庭の事情は男性側からの申告がないと企業側は把握できないため、男性当人も配偶者の妊娠期から積極的に情報を取得し、休業時期の相談や復職計画などを事前に準備しておくことも重要である。育児に関する情報に触れる機会の多い配偶者と、普段から良く話し合う機会を妊娠期から設けることも必要であろう。

こうした情報提供は人員の確保や組織の見直しなどと比べると、企業として比較的手を付けやすい施策と考えられるので、企業は是非参考にされたい。

以降は、保健師の臨床経験を基に、男性の育休取得の必要性が分かる育児の視点と、男性が育児時間を確保するために長時間労働を是正する必要があるワークライフバランスの視点について考察する。

(2022年12月22日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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