2022年12月07日

EだけではないESG-気候変動は重要なテーマであるが

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.309]

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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1―ESGへの取り組みと本来の業務

ESGに取り組むのに際して、その理由を考えることは重要である。ブームだからとか、横並びで求められるからなど曖昧に取り組むべきではない。忘れてならないのは、取り組むことが自分たちのためであり、次に、所属する社会や経済、地球全体のためになるという順序である。自分のためであることを忘れると、組織本来の目的から逸脱してしまうことも考えられる。営利企業には株主やステークホルダーから付託された使命があるし、他の団体にも基本方針や理念・目的が存在するのである。

ESGに取り組むことが、ゆとりのある企業や団体の余技と見られることは好ましくない。ESGは、経営方針や理念の根幹に基づいた活動の一環として、取り組まれるべきものである。

社会のため、地球環境のため、とだけ主張していると、ESG経営もESG投資も、取り組むこと自体が良いことであると過剰に意識される。過剰なESGへの取り組みは抑制される必要がある。本来の組織目的を忘れないように努めることで、過剰な取り組みを抑制することができる可能性は高い。

2―ESGの各要素は等価値ではない

ESGへの取り組みを進める際に、EとSとGとに等しく取り組むことは現実的でなく、三つが等価値なものであるとも思えない。Eについては、気候変動や温室ガス排出抑制など、もっとも影響が大きく、対応する取り組みも目に付き易い。裏返せば、取り組んでいることを、組織内部にも外部に対しても、アピールし易い。

時には一歩退くことで、より大きな課題を忘れていないか見直すことも必要である。レジ袋が散乱し自然を汚染する被害が生じたため、店舗での無料レジ袋配布は見合わせられた。プラスチックに依存した現代社会に問題はあるが、利便性を放棄することによって得られるものが、単なる取り組みへの満足感だけでは寂しい。効果の検証が必要である。

太陽光パネルを設置し発電を行うことで、二酸化炭素の排出が不可避な火力発電への依存を抑えることは、明らかに良いことであるように見える。しかし、太陽光パネルが耐久年数を越えた際に、どのように廃棄処理されるのだろうか。原子力発電において放射性廃棄物の処理が問題視されるが、太陽光パネルも同じような道を辿っていまいか。

結局のところ、手段と目的をはき違えるという典型的なパターンに陥ってしまう懸念がある。目的を意識して取り組むことが重要だと指摘するのは、ESGやSDGs(Sustainable Development Goals)のにらむ未来を考えて取り組むからである。そのためには、ESGの三要素の中で、もっとも見え易いEへの取り組みを少し抑え、SやGといった他の要素を真剣に考え、取り組むよう意識したい。

Sは決して労働環境やジェンダーなどの問題に限られず、社会の在り方全般を意識した幅広い課題を含む概念である。サステナビリティというSDGsの思想に繋げて取り組むことが考えられる。広く考えるならば、EですらSの一部として考えることすら可能である。

また、Gについては、実際はEやSに取り組む際の前提条件のような存在であり、時に、EやSに関する法令遵守やガバナンスといった局面で表に出て来ることがあるものの、一般的には少し後ろに下がった取り組みになるだろう。

3―SDGsとESGを統合的に考えよう

ESG概念はSDGsに包含され、サステナビリティの方向へ収斂することが予想される。国連の設定したSDGsは17の目標からなり、その中には、民間の営利法人が取り組むのに、必ずしも即していないものが含まれている。すべての企業や組織が、すべての目標に同じように取り組むことを求めるものではない。

ESGはSDGsの数多い目標に取り組むための、一つのステップと考えられる。今後、ESGとして取り組まれる内容も、取り組みのウェイトも、時代に合わせて変化して行くであろう。SDGsとESGを統合的に考えて行くことが必要である。
[図表]持続可能な開発目標
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2021年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

(2022年12月07日「基礎研マンスリー」)

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