2022年12月07日

消費者物価上昇率は約30年ぶりの3%-当時と大きく異なる物価上昇の中身

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.309]

経済研究部  経済調査部長   斎藤 太郎

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1―消費者物価は約30年ぶりの3%

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、エネルギーや食料の価格上昇を主因として、2022年9月に前年比3.0%となり、消費税率引き上げの影響を除くと1991年8月以来、31年1ヵ月ぶりの3%となった。

消費者物価上昇率が3%となるのは約30年ぶりだが、その中身は30年前と現在で大きく異なる。ここでは、30年前と現在の経済環境を比較し、消費者物価の中身を様々な角度から見ることにより、今後の動向を占う。

2―30年前と現在の経済環境の比較

まず、コアCPIが最後に3%台の伸びを記録した1991年の経済環境を振り返ると、1991年2月に景気はピークアウトしたものの、バブル景気の余熱が残っている時期で、経済活動の水準は引き続き高かった。潜在GDPと現実のGDPの乖離を示す「需給ギャップ」(ニッセイ基礎研究所推計)は、景気が後退局面入りする中でも、プラス圏を維持していた。一方、現在は、景気は拡張局面にあるものの、コロナ禍からの回復ペースが鈍いことから、経済活動の水準は低く、需給ギャップはマイナス圏にある。

労働市場については、30年前も現在も企業の人手不足感が強く、需給が引き締まった状態となっている。失業率は1991年( 平均)が2.1%、2022年(1~9月の平均)が2.6%といずれも低水準となっている。有効求人倍率は、1991年(平均)が1.40倍、2022年(1~9月の平均)が1.26倍と、ともに1倍を大きく上回っている。

消費者物価の動向に大きな影響を及ぼす原油、為替動向を比較すると、1991年は原油安、円高傾向となっていたのに対し、2022年は大幅な原油高、円安が進行している。この結果、1991年の輸入物価は前年比▲8.2%の下落、国内企業物価は同1.0%の低い伸びにとどまっていたのに対し、2022年(1~9月の平均)は輸入物価が前年比41.9%、国内企業物価が同9.4%といずれも高い伸びとなっている。

賃金上昇率は、1991年当時はベースアップが3~4%程度となっていたこともあり、名目で前年比4.4%の高い伸びとなっていた。このため、消費者物価上昇率が3%となっても、実質で同1.1%とプラスの伸びを確保していた。これに対し、2022年の名目賃金はコロナ禍からの回復を受けて、2021年に比べれば伸びは高まっているものの、1~9月の平均で前年比1.5%にとどまり、消費者物価の伸びを下回っている。この結果、実質賃金上昇率は2022年4月から6ヵ月連続でマイナスとなっている[図表1]。
[図表1]1991年と現在の経済環境の比較

3―30年前と現在の消費者物価の比較

次に、消費者物価の中身について約30年前と現在を比較する。1991年平均のコアCPI上昇率は2.9%と直近の上昇率(2022年9月の3.0%)とほぼ等しい。足もとの物価上昇の主因は、資源・穀物価格の上昇や円安の進展を受けたエネルギー、食料(生鮮食品を除く)の大幅上昇である。2022年9月のコアCPI上昇率3.0%のうち、エネルギーと食料の寄与が8割以上を占める。これに対し、1991年はエネルギーと食料の寄与は約4割であった。

財、サービス別には、2022年9月は物価上昇のほとんど全てが財によるもので、サービスの寄与はほぼゼロとなっている。家事関連サービス、医療・福祉サービスが下落していることに加え、家賃の伸びが低いことが、サービス価格低迷の要因となっている。これに対し、1991年は財の寄与が約6割、サービスの寄与が約4割となっていた[図表2]。
[図表2]消費者物価(除く生鮮食品)のうち内訳の比較(1991年vs2022年9月)
現在、消費者物価指数の対象品目のうち、上昇品目数の割合は7割を超えている。しかし、1991年は、上昇品目数の割合が8割を超えており、今以上に物価上昇が裾野の広がりを伴ったものとなっていた。

品目毎の動きを詳しく見るために、品目別価格変動分布を確認すると、2022年9月は、コアCPI上昇率が3%近くまで高まる中でも、品目別の上昇率はゼロ%近傍が最も多く、全体の21%となっている。日本銀行の物価目標である2%近傍の割合は9%にとどまっている。これに対し、1991年は最も割合が高いのは直近と同じくゼロ%近傍だが、その水準は16%で現在よりも低い。現在と異なるのは、2%近傍、3%近傍の割合がそれぞれ10%以上と高いことである。

2022年9月の品目別分布を1991年と比較すると、全体的に上昇率の低い品目の割合が高い。それにもかかわらずコアCPIの上昇率がほぼ等しいのは、2022年9月は上昇率が9%近傍、10%近傍以上の品目割合が高いためである[図表3]。
[図表3]消費者物価の品目別価格変動分布
足もとの物価上昇は一部の品目によって大きく押し上げられている。そこで、一時的な撹乱要因や異常値などの影響を除去するため、加重中央値と刈込平均値を求める。加重中央値とは、品目別上昇率の高い順から数えてウェイトベースで50%近傍にある品目の上昇率である。刈込平均値は、分布の両端の一定割合(ここでは上下それぞれウェイトベースで10%)を控除した場合の上昇率である。

コアCPI上昇率の加重中央値は、1991年の2.8%に対し、2022年9月は0.5%、刈込平均値は1991年の2.7%に対し、2022年9月は2.0%となった[図表4]。
[図表4]消費者物価の加重中央値と刈込平均値
1991年は全体の上昇率と加重中央値、刈込平均値がほぼ一致しているのに対し、2022年9月は加重中央値、刈込平均値ともに全体の上昇率を大きく下回っている。

足もとの物価上昇は近年では裾野の広がりを伴ったものとなっているが、約30年前と比べれば、一部の品目の非常に高い伸びによってもたらされている傾向が強い。

4―サービス価格の上昇が安定的で持続的な物価上昇の条件

このように、同じ3%の物価上昇でも、約30年前と現在ではその中身が大きく異なる。30年前は、輸入物価が下落する中でも国内要因によって財、サービスともに幅広い品目で価格が上昇していた。これに対し、現在は輸入物価の高騰を受けたコスト増を価格転嫁する形で財の価格が大幅に上昇する一方、サービス価格はほとんど上がっていない。

原材料価格の上昇を価格転嫁する形での物価上昇は、いずれ一段落する可能性が高い。そうした中でも物価上昇が持続するためにはサービス価格の上昇が条件となるが、サービス価格を決める重要な要素は人件費である。

実際、サービス価格と賃金の連動性は非常に高く、1990年代前半までは賃金とサービス価格が安定的に上昇していたが、1990年代後半以降は、賃金とサービス価格の低迷が長期にわたって継続している[図表5]。
[図表5]サービス価格と賃金(ベースアップ)
欧米の消費者物価上昇率が日本を大きく上回っているのは、原材料価格高騰に伴う財価格の上昇に加え、賃金上昇を背景としてサービス価格も大きく上昇しているためである。その意味では、日本の賃金、サービス価格の低迷は急激なインフレを抑制する役割を果たしている面もある。

2022年の春闘賃上げ率は前年に比べ0.34ポイント改善し、2.20%(厚生労働省調査)となったが、1.7~1.8%程度とされる定期昇給を除いたベースアップはゼロ%台にとどまる。サービス価格が物価目標と同じ2%程度の伸びとなるためには、ベースアップが2%程度となることがひとつの目安と考えられるが、そこまでにはかなりの距離がある。賃上げを通じてサービス価格が上昇し、安定的で持続的な物価上昇が実現するまでには時間を要するだろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2022年12月07日「基礎研マンスリー」)

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