2022年11月18日

消費者物価(全国22年10月)-コアCPIは約40年ぶりの高い伸び

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.コアCPIは約40年ぶりの高い伸び

総務省が11月18日に公表した消費者物価指数によると、22年10月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比3.6%(9月:同3.0%)となり、上昇率は前月から0.6ポイント拡大した。事前の市場予想(QUICK集計:3.5%、当社予想も3.5%)を上回る結果であった。
消費者物価指数の推移 エネルギー価格の伸びは鈍化し、全国旅行支援によって宿泊料が9月の前年比6.6%から同▲10.0%へと大きく低下したが、食料(生鮮食品を除く)の伸びが急加速したこと、携帯電話通信料引き下げの影響が剥落したことなどがコアCPIを大きく押し上げた。

コアCPI上昇率が3.6%となったのは、82年2月以来、40年8ヵ月ぶりとなる。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比2.5%(9月:同1.6%)と2%を大きく上回った。総合は前年比3.7%(8月:同3.0%)であった。
消費者物価指数(生鮮食品除く、全国)の要因分解 コアCPIの内訳をみると、ガス代(9月:前年比19.4%→10月:同20.0%)の伸びは高まったが、ガソリン(9月:前年比7.0%→10月:同2.9%)、灯油(9月:前年比18.4%→10月:同13.3%)、電気代(9月:前年比21.5%→10月:同20.9%)の伸びが鈍化したことから、エネルギー価格の上昇率は9月の前年比16.9%から同15.2%へと鈍化した。

食料(生鮮食品を除く)は前年比5.9%(9月:同4.6%)となり、上昇率は前月から1.3ポイントの急拡大となった。

原材料価格の高騰を受けて、食用油(前年比35.6%)、マヨネーズ(同19.0%)、パン(同13.7%)、麺類(同10.7%)などが前年比二桁の高い伸びを続けているほか、菓子類(9月:前年比6.2%→10月:6.6%)、調理食品(9月:前年比5.6%→10月:同6.5%)なども前月から伸びを高めた。

さらに、一般外食は、食料工業製品に比べて人件費の影響を受けやすいこともあり、相対的に低い伸びが続いていたが、原材料費の大幅上昇を価格転嫁する動きが広がり、10月は前年比5.5%となり、食料工業製品に近い伸びとなっている。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが1.22%(9月:1.33%)、食料(生鮮食品を除く)が1.39%(9月:1.07%)、携帯電話通信料が0.03%(9月:同▲0.23%)、全国旅行支援が▲0.17%(9月:同0.00%)、その他が1.13%(9月:0.83%)であった。

2.円安の影響で物価上昇品目数が大きく増加

消費者物価(除く生鮮食品)の「上昇品目数(割合)-下落品目数(割合)」 消費者物価指数の調査対象522品目(生鮮食品を除く)を前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、10月の上昇品目数は406品目(9月は385品目)、下落品目数は74品目(9月は91品目)となり、上昇品目数が前月から増加した。上昇品目数の割合は77.8%(9月は73.8%)、下落品目数の割合は14.2%(9月は17.4%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は63.6%(9月は56.3%)であった。

原油高の影響は電気代、ガソリンなど一部の品目に集中する傾向があるのに対し、円安は全ての輸入品の価格上昇に直結する。このため、価格転嫁による物価上昇がより幅広い品目に及ぶ形となっている。

3.コアCPI上昇率は年末に4%近くまで上昇した後、物価高対策で23年入り後には2%台へ

消費者物価(除く生鮮食品)の内訳の比較(1982年4月vs2022年10月) 22年10月のコアCPIは約40年ぶりの高い伸びとなったが、当時と現在では物価上昇の中身が大きく異なる。足もとの物価上昇の主因は、資源・穀物価格の上昇や円安の進展を受けたエネルギー、食料(生鮮食品を除く)の大幅上昇である。22年10月のコアCPI上昇率3.6%のうち、エネルギーと食料の寄与が7割以上を占める。これに対し、82年2月はエネルギーと食料の寄与は約4割であった。

財、サービス別には、22年10月は物価上昇の9割近くが財によるもので、サービスの寄与は1割程度となっている。公共サービス、家賃の伸びが低いことが、サービス価格低迷の要因となっている。これに対し、82年2月は財の寄与が約5割、サービスの寄与が約5割となっていた。

サービス価格は賃金との連動性が高く、賃金伸び悩みが続く中ではサービス価格は上がらない。賃上げを通じてサービス価格が上昇することが、安定的で持続的な物価上昇が実現するための条件と言えるだろう。
コアCPIは、食料品を中心に原材料価格の上昇を価格転嫁する動きが続くことから、22年末には4%近くまで伸びが高まる可能性が高いが、23年入り後は物価高対策によって電気代、ガス代が大きく押し下げられる。
物価高対策によるエネルギー価格の押し下げ効果 エネルギー価格は22年1月以降、燃料油価格激変緩和措置によってガソリン、灯油価格が抑制されてきたが、23年1月以降は電気代、ガス代の抑制が加わることにより、物価高対策によるエネルギー価格の抑制効果は大きく拡大する。

当研究所の試算によれば、物価高対策に伴うエネルギー価格の抑制によるコアCPI上昇率の押し下げ効果は足もとの▲0.7%程度から、23年1月期以降は▲2%近くまで急拡大する。22年10月のコアCPI上昇率は3.6%だが、物価高対策がなければ4%台だったことになる。23年1月以降は物価高対策による押し下げ効果を主因としてコアCPI上昇率は2%台%へと大きく低下する可能性が高い。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年11月18日「経済・金融フラッシュ」)

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