コラム
2022年11月28日

数値目標は気にせず投資促進を~どうなる資産所得倍増プラン~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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高い数値目標自体に意味がある

政府から資産所得倍増プラン(案)が公表された。プランの目標として「5年間でNISA総口座数(一般・つみたて)を現在の1,700万口座から3,400万口座に倍増」させることが掲げられた。このように数値目標、特に意欲的な数値目標を置くこと自体に意味があることであり、なにより多くの方が投資に向かうことが重要で数値目標にこだわる必要は全くない。ただ、やや野暮な話になるかもしれないが、置かれた数値目標は3つの理由で達成はかなり難しいのではないかと筆者は考えている。
 
まず、1つ目の理由は高い数値目標のためである。NISA制度では口座開設したものの、実際には利用されてない口座があり、特に一般NISAで多い【図表1】。目標の基準とされた2022年6月末時点での1,700万口座のうち、実際に稼働している口座は一般550万口座、つみたて450万口座で合計1,000万口座程度である。この1,000万口座を基準にすると、3倍以上の数値目標となっている。
【図表1】 つみたてNISAと一般NISAの口座数:2021年
なお、一般NISAで未稼働の口座が特に多い背景には2014年の制度開始当初に行われた金融機関の口座獲得競争があると推察される。日本証券業協会と日本取引所グループが実施したアンケート調査でも、「投資する気がなかったが金融機関に薦められて(お付き合いで)開設したため」が口座開設したものの使われなかった理由の一番であった【図表2】。今回も似たようなことが起きないか筆者は危惧しており、数値目標をせっかく置くなら稼働口座数でするべきだと考えている。
【図表2】 NISA口座を開設したが投資を行っていない理由

口座の増加数は鈍化?

2つ目の理由は、つみたてNISAの利用拡大のペースが2022年に入って鈍化してきていると見られる点である。

つみたてNISAは一見すると口座数、買付額ともに伸びており、利用拡大が順調に広がっているように見える【図表3】。口座増加数をみても例年1月から3月(1Q)は1年で増加数が多いこともあり、2022年1月から3月は過去最大を更新した。しかし、2022年4月から6月(2Q)は制度開始からはじめて、前年同期をわずかではあるが下回った【図表4】。2022年4月から6月は前の四半期の反動や2022年に入って急変した市場環境の影響も考えられる。そのため2022年4月から6月のみから判断するのは早計であるが、そろそろ口座増加ペースが一巡してきてもおかしくない状況であり、今後の動向が注目される。
 
仮に1年で300万口座増え、5年間累計で1,500万口座増加しても、目標の3,400万口座に届かない。つまり1年間で300万口座、四半期換算だと75万口座以上の増加が必要となるが、これまでの最大は2022年1月から3月の69万口座である。昨今の増加ペース鈍化を踏まえると、年間300万口座でも相当高い目標であり、2021年のような非連続的な急拡大が必要となる。
【図表3】 つみたてNISAの口座数と3カ月の買付額の推移
【図表4】 つみたてNISAの口座増加数

注目されていない制度拡充以外の取り組みも重要

その起爆剤として制度整備や制度拡充が行われるわけであるが、それがどこまで利用拡大につながるか未知数なのが3つ目の理由である。
 
制度拡充は、主に「制度の恒久化」、「非課税期間の無期限化」、「年間投資枠の拡大」である。既に制度を利用している人からするとどれも実現されれば喜ばしいもので、ぜひ実現してもらいたいことである。ただ、これまで制度を利用してこなかった人に対しては、これらの制度拡充にどれだけ訴求力があるのか疑問である。日本証券業協会と日本取引所グループが実施したアンケート調査の結果からもうかがえる【図表5】。非利用者にとってNISA口座を開設しない理由は「投資する気がない」「制度が複雑でよく分からない」が主である。逆に時限の制度であることや、非課税期間や非課税枠が十分でないことを理由にしている人は少数である。
【図表5】 NISA口座非開設者の非開設理由
政府も制度拡充のみで利用拡大ができるとは考えておらず、第一の柱である制度拡充に加えて第三の柱、第四の柱、第五の柱あたりと合わせて、利用拡大を促進する方針のようである【図表6】。これらの柱は第一の柱である制度拡充よりも手間も時間もかかり、それがゆえに形骸化しやすい面もある。政府にはこうした柱も本気で取り組んでいただくことに期待したい。
 
また、筆者を含め資産運用に携わっているものとして、多くの人が投資の基本を理解し、十分納得した上で、投資に向かうよう、政府の取り組みに全力でサポートしていきたい。
【図表6】 プランで示された7本柱の取り組み
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

(2022年11月28日「研究員の眼」)

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