2022年11月08日

期待できる金融庁のNISA拡充要望-バランスも良く、是非とも実現を

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.308]

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1―金融庁がNISA拡充要望を公表

金融庁は8月31日に令和5年度税制改正要望の中でNISA(少額投資非課税制度)の拡充要望*を公表した。

公表されたNISA拡充要望では、「簡素で分かりやすく、使い勝手の良い制度に」が掲げられた。具体的には制度の恒久化、非課税保有期間の無期限化、年間投資枠の拡大、非課税限度額の設置(拡大)と合わせて、制度をつみたてNISAを基本に一本化することなどが盛り込まれている。一本化するにあたって、一般NISAの機能を引き継ぐような「成長投資枠(仮称)」の導入も合わせて検討されている[図表1]。実際に全て実現されれば、分かりやすく使いやすい制度になることが期待できる。

さらに、一般NISAは2024年から新しい一般NISAに移行する予定であったが、その刷新も要望されている。つまり、新しい一般NISAに移行せずに、いきなり2024年から今回要望された新制度に移行されるかもしれない。
[図表1]金融庁が8月31日に公表したNISA拡充要望のイメージ
 
* 金融庁「令和5年(2023年)年度税制改正要望について」などをご参照。

2―注目は非課税限度額の設置

今回のNISA拡充要望で、筆者が一番注目したのが非課税限度額の設置である。これまでは1年単位の管理であったため、非課税限度額が自動的に決まっていた。それが制度全体での非課税限度額も別途、定めることが盛り込まれている。

2021年の買付額別の口座数をみると、現行制度の利用状況が人によってかなり差があることが分かる[図表2]。仮に非課税限度額を設けずに年間投資枠を拡大すると、ごく一部の人がその恩恵を最大限に享受し、不平等な拡充になる可能性が高かった。それが非課税限度額を設けることにより、バランスの良い一本化になる可能性がある。

もし積立投資枠60万円、成長投資枠240万円に拡大され、非課税限度額が1,200万円になったとすると、以下のような買付プランが考えられる:

A) 毎年、成長投資枠240万円フルに使って5年で非課税限度額まで買付、
B) 毎年、積立投資枠60万円フルに使って20年で非課税限度額まで買付、
C) 毎年、積立投資枠40万円使って30年で非課税限度額まで買付。

A)はB)、C)と比べて不平等感が少ない。そのため現在、どちらの制度を利用している人にとっても、納得感のある制度拡充になることが期待できる。
[図表2]つみたてNISAと一般NISAの買付額別の口座数:2021年

3―2つの懸念

その一方で懸念点が2つある。まず、売却すると年間投資枠は復活しないものの非課税限度額は復活するため、制度の意図しない短期売買にも使われる可能性があることである。そして、もう一つは非課税限度額の設定に伴うシステム負荷である。システム負荷をできるだけ減らすような仕様となり、結果的に制度利用者の利便性が阻害される可能性がある。

4―最後に

今回、金融庁から公開されたのはあくまでも要望である。本当に実現するか現時点では不透明である。先述した細かい懸念点はさておき、金融庁ならびに政府、さらにはシステム関係者には、ぜひとも実現できるように尽力していただきたい。

ただ、どんなに良い制度でも活用されなければ意味がなく、金融庁には制度活用が広まる方策も合わせて進めていただきたい。幸いにも金融機関もしくは業界団体から資産所得倍増プランを歓迎し、サポートする旨の発言が相次いでいる。

金融庁には、要望した拡充策が実現した暁には、金融機関ごとに開設された口座数と合わせて実際に稼働している口座数も公表するなど、本当に制度活用拡大に協力している金融機関が分かるような情報開示を行い、未稼働の口座が多い金融機関が自ら改善に向けて動き出すような仕組みを構築していただきたい。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2022年11月08日「基礎研マンスリー」)

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