コラム
2022年07月25日

誰のための資産所得倍増プラン~NISAの拡充を考える~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

7人中5人が利用していない現状を打破するために制度拡充を

NISA(少額投資非課税制度)は2014年に始まった制度であり、さらに2018年からつみたてNISAも開始された。2019年の「年金2,000万円不足」問題によって資産運用が注目されたこともあり、かなり活用が広がってきている。年代別にみると30歳代から70歳代は250万口座前後あり、これは実に7人に1もしくは2人が一般NISAもしくはつみたてNISAのどちらの口座を保有している状況である【図表1】。ただ、逆に言うとまだ7人に5人は利用していないともいえる。
 
岸田首相が掲げる資産所得倍増プランでNISAの制度拡充が期待されている。「貯蓄から投資へ」を加速させるには、現在制度を利用していない5人のための制度拡充でなければならない。
【図表1】 つみたてNISAと一般NISAの年代別の口座数:2021年9月末時点

とにかく分かりやすい制度に

現在、目にする主な制度拡充案は「制度の恒久化」、「非課税枠の拡大」、「非課税(運用可能)期間の長期化」である。確かにこの3つは、どれも実現させてもらいたいものであるが、どちらかというと現在制度を利用している人向けの拡充といえる。
 
実際にそのことは日本証券業協会と日本取引所グループが実施したアンケート調査の結果からもうかがえる【図表2】。非利用者にとってNISAが時限の制度であることや、非課税期間や非課税枠が十分でないことは利用しない主な理由でないことが分かる。それよりも制度が複雑であることが投資する気がないこととともに主な原因となっており、なにより簡単で分かりやすい制度になることが求められている。
【図表2】 NISA口座非開設者の非開設理由

対象商品の絞り込みも必要

それに加えて、口座開設されたものの実際には利用されていない口座への対応も必要である。現状でもつみたてNISAで未稼働の口座が約3割を占めている。同アンケート調査をみると、買付を行わなかった理由として「商品が多すぎて何を購入すべきか分からないから」が上位にきている【図表3】。特に有価証券保有未経験者(黄棒)、つまり投資初心者に限ると最大の理由であった。
 
このアンケートはあくまでも一般NISAも含む結果であるが、つみたてNISAの対象投資信託でも執筆時点で213本と200本以上ある。その中から投資初心者が購入する投資信託を選ぶのは大変だと思われる。これまで以上に投資初心者が制度を活用することを踏まえると、今一度、対象商品を絞り込むことも必要だと筆者は考えている。それが難しいなら、投資初心者が投資しやすいように、投資初心者向けの商品としておすすめできる商品を厳選して初心者マークでもつけるべきであろう。
【図表3】 NISA口座を開設したが投資を行わない理由

最後に

いずれにしても現在議論されている制度の拡充のみで「貯蓄から投資へ」が加速する可能性は残念ながら低い。制度の精緻な整合性や各種調整の結果、複雑な制度になることは是非避けてほしい。NISAをより良いものにしていくのと合わせて、投資未経験者を投資に向かわせるために、いかにサポートしていくのかも真剣に検討する必要があるだろう。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

(2022年07月25日「研究員の眼」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【誰のための資産所得倍増プラン~NISAの拡充を考える~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

誰のための資産所得倍増プラン~NISAの拡充を考える~のレポート Topへ