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合併か経営統合か 地方銀行の再編について考える

上智大学 経済学部 中里 透
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こうした中にあって相対的に安定を保ってきたのが地方銀行である。相互銀行から転換した銀行の多い第二地方銀行協会加盟行(第二地銀)については、破綻と再編によって他の業態と同様の変化が生じたが、全国地方銀行協会加盟行については、最近まで64行(2010年度については63行)の体制が維持されてきた。
だが、人口減少に伴う顧客基盤の縮小と低金利環境の継続による収益力低下のため、経営環境は厳しさを増し、地方銀行も大きな変革を迫られつつある。このような情勢の変化をうけ、近年、再編に向けた動きが加速しているが、この動きはどのようにとらえたらよいのだろうか。以下ではこの点について考えてみたい。
一般に、合併や持株会社方式の経営統合による組織再編には、シナジー効果を通じた収益力の向上や規模拡大によるコスト削減、営業地域の拡大によるリスク分散などの効果があるとされる。この30年ほどの間に都市銀行は4行(埼玉りそな銀行を含めると5行)に集約されたが、携帯電話の大手キャリアやコンビニエンスストアの主要なチェーンもほぼ3つに集約されたから、「平成の大合併」は自治体だけでなく、さまざまな分野で生じたことになる。
地方銀行(全国地方銀行協会加盟行)について、各行の規模(総資産)と経費率(コア業務粗利益に対する営業経費の比率(コアOHR))の関係を見ると(次頁の図参照)、規模が大きい銀行ほど経費率が低くなる傾向が見てとれる。このグラフを見る限り、合併によって規模拡大を図れば、コスト削減と収益力の強化が実現して、大きなメリットが得られるように見える。
だが、話はそう簡単ではない。合併に際してはシステムの統合、事務処理手続きの統一、人事・給与面の調整、行内融和の促進など、新たな組織形態への移行に伴って必要となる作業が少なくないからだ。一部の金融機関において生じている累次のシステム障害の事例は、合併に伴うコストが当初の想定をはるかに上回るものとなる可能性を物語るものだ。日本の銀行と信用金庫を対象に行われてきた多くの調査研究では、合併の効果が期待されたほど大きなものではなく、効果が顕在化するまでには相当の時間を要することが示されている。
一般的には、合併まで踏み込むほうが店舗の統合や事務処理の集約化が進み、コスト削減の効果が大きくなると予想されるから、この結果はやや意外なことのように見える。なぜこのような結論が得られるのかについてはさらなる精査が必要となるが、人事面の調整や顧客との関係の再構築など、合併に伴うさまざまな調整コストの存在が示唆される。
地方銀行をはじめとする地域金融機関については、独禁法特例法の制定(2020年11月施行)、日本銀行当座預金に対する特別の付利(2021年3月運用開始)、預金保険機構を通じた資金交付(2022年7月に初交付)などを通じて再編に向けた環境整備が進められてきた。もっとも、上記の点からすると、合併のみが唯一の選択肢とはいえない。日銀による特別の付利と預保機構による資金交付は、合併によらない経営の効率化についても、各行の取り組みを後押しするものだ。
地方銀行の経営基盤の強化については、幅広い選択肢のもとで各行の状況と地域の実情に即した対応がなされ、収益力の向上と経費節減に向けた取り組みが進められていくことが望まれる。
1 引用した文献は以下の通り。左三川(笛田)郁子・宮﨑孝史・飯田航平・竹内直也・田中哲矢(2020)「コロナで加速する地銀の再編」,日本経済研究センター. Kobayashi(Tanaka) Ayami and Marc Bremer(2022)“Lessons from Mergers and Acquisitions of Regional Banks in Japan: What does the Stock Market Think? ,”Journal of the Japanese and International Economies,Vol.64. 中里透(2022)「合併か経営統合か:地方銀行64行を対象とした分析」上智大学経済学部ディスカッションペーパーシリーズJ22-1. (https://dept.sophia.ac.jp/econ/econ_cms/wp-content/uploads/2022/04/DPNo.J22-1.pdf)
(2022年12月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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