2022年11月22日

EUにおけるAmazonの確約計画案-非公表情報の取扱など競争法事案への対応

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――Amazonの確約計画案

1総論
Amazonは上述の異議告知及び暫定的評価の事実・評価いずれにも同意はしていない。しかし、欧州委員会の競争法上の懸念に関して、非公開情報の利用の停止、およびBuy Box運用方法の変更に関する確約計画案の履行を申し出た。内容は以下の通りである6。いずれも導入期間(implementation Period)の終了時点で実施に移される。
 
6 Amazon Case COMP/AT.40462 and Case COMP/AT.40703 Commitment Proposal
2|Amazonの非公開情報利用の停止
Amazonは、MarketPlace上で第三者販売者から提供されたデータ、AmazonのMarketPlaceサービスを利用した結果得られたデータ、あるいは支払いや保管、運送サービスといったMarketPlaceに付随するサービスを利用したデータであって、第三者販売者が取得できないものについては、Amazonの自社販売事業において、第三者販売者との競争の目的では利用しないことを確約する。

特に、Amazonは自動システム経由あるいは従業員経由のいずれにおいても、またブランド品の販売目的あるいはプライベートブランドの販売においても第三者販売者のデータを利用しないことを確約する。関連するデータには、統合されたデータ、個別のデータ、匿名化されたデータおよび個人データを含み、生のデータと加工されたデータを含む7
 
7 前掲注5、パラ1~2、22
3|Buy Box運用方法の変更
確約計画上Buy Boxは注目オファー(Featured Offer)に名称変更されている。まず(1)注目オファー(Featured Offer(旧Buy Box))への掲載選定に関しては非差別的な条件と基準が適用される。これらの非差別的な選定条件・基準はすべてのパラメーターと重みづけ(weightings)に適用される。またプライム適格性を注目オファーの選定する基準から除外する8

次に(2)注目オファーとは異なる価格帯であり、配送時間が競合する商品であって、注目オファーと同様の基準に該当するものが存在する場合には、最低でもひとつの商品を第二表示オファー(Second Displayed Offer)として表示する。注目オファーと第二表示オファーとは、いずれも平等に、同様の説明情報の記載や、ショッピングカートに入れるなどのウェブ機能も完全な公平性を確保する形で掲載されるものとする9

さらに(3)Amazonは自社販売あるいは第三者販売者(FBAを利用しているかどうかにかかわらず)が、非差別的な条件と基準を満たす能力を示し、継続的に満たし続けるものである場合には、プライム適格性(販売者レベル、商品レベルのいずれの基準かにかかわらず)を満たすことができるものとする。

販売者あるいは商品がプライム適格性を満たす場合には、AmazonはAmazon自社販売か第三者販売者(FBA利用者かどうかにかかわらず)かにかかわらず、プライムラベル獲得にあたって非差別的な条件および基準を適用するものとする10

そして(4) 上記(3)のような条件のもとにおいて、第三者販売者がプライム適格性および商品のプライムラベルを求めている場合であっても、その販売者が運送業者(carrier)を選択し、料金と商業上の規約と条件をその運送業者と交渉することを自由に認めるものとする11
 
8 前掲注5、パラ3~5
9 前掲注5、パラ6~9
10 前掲注5、パラ13~17
11 前掲注5、パラ18~21

5――検討

5――検討

1競争法との関係
Amazonについて問題にされた行為を簡略化していうと(a)非公表の競合販売者のデータを用いて自社販売に利用していたことと、(b)自社販売事業あるいは自社の保管・運送サービスを利用したFBA契約第三者販売者の商品を優先掲示することである。

(a)については、競合販売者の価格や売れ筋商品などのデータを利用することを通じて自社販売商品を有利に販売することが可能となり、結果として当該競合販売者を排除することとなる。また(b)については、自社あるいは自社に利益をもたらすFBA契約第三者販売者を優先的に取扱い、(欧州委員会によると)プライム会員がそこでしか買わないような場所に掲示することで、その他の第三者販売者を排除したと言うことができそうである12

ただし、少なくとも公表資料ベースでは、フランスやドイツ等においてAmazonの支配的地位が存在すると欧州委員会は述べているものの、支配的地位の存在に関する詳細な検討が明らかになっていない。まず関連市場はどう画定されるのか(Amazon市場なのか、他の物販市場も含むのかなど)、そしてその市場におけるシェアがどうであるのかが判然としない。つまりAmazonが市場独占者であるかどうかの判断がそもそも具体的に示されていない。

この点に関連して、たとえば米国のコロンビア特別区のAmazonに対する最恵国待遇条項(Amazonでの販売価格を最安とすることを義務付ける条項)に係る競争法訴訟の中では、関連市場はオンラインマーケット市場であり、そのような市場においてAmazonは米国で65%~70%のシェアを確保しているとする。そして、Amazon Prime会員という大きな顧客を抱えており、かつその顧客や販売者が膨大に集まり、利便性が高まることでさらに利用者が増えるというネットワーク効果により参入障壁が存在するということを特別区は主張している13

欧州委員会は、Amazonが実際に競合販売者を排除できているという現状を踏まえて、市場の支配力があると判断しているとも推測される。しかし、そもそも排除行為の事実関係についてAmazonが同意しているわけではないことに加え、独占的地位の有無についての欧州委員会による検証が公表されていないことから、Amazonの行為が競争法違反であると欧州委員会が確定的に判断できる案件であったかどうかは明確ではない。
 
12 ただし、FBA契約第三者販売者についてはAmazonの自社販売あるいは関連企業ではない。したがって主張として、プライム適格性は商品の配達条件にかかわるものであり、FBA契約第三者販売者とそれ以外を区別することに正当性があるというものは検討に値する。
13 基礎研レポート「Amazonの最恵国待遇条項訴訟-棄却決定に対するコロンビア特別区からの申立て」 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/72168_ext_18_0.pdf?site=nli 参照
2|DMAとの関係
ところで欧州ではデジタル市場法(Digital Market Act、DMA)が2023年春にも施行予定である。一定の規模やユーザーを有するオンライン販売などのコアプラットフォーム(CPS)を運営するゲートキーパー(GK)に関しては、競争可能性を確保するために、予防的に一定の措置が求められる。詳細は基礎研レポート「EU のデジタル市場法の公布・施行Contestability の確保」をご覧いただきたいが、本件に関係するところでは以下のような規定がある。

上述(a)非公表情報を利用した自社販売に関しては、「GK は、ビジネスユーザーによる GK の CPS 利用、あるいは CPS と一体で提供されるサービス利用によって生じた情報あるいは提供された情報(エンドユーザーによって生成あるいは提供された情報を含む)であって、公に取得することができないものをビジネスユーザーとの競争に利用してはならない(6条1項)。」というものがある。これはAmazonの(a)の行為を念頭に規定したのではないかと推測されるような条文である。

AmazonがDMA上のゲートキーパーに指定され、MarketPlaceがDMA上のコアプラットフォームに指定されることが大前提であるが、仮にこれらの指定がなされるのであれば、(a)の行為が存在すると認定されれば、DMA違反行為とされる可能性があると考える。

次に(b)の自社商品等の優先的掲載に関しては、「GK は GK 自身によって提供されるサービスや製品に関するランキングと、それに関連するウェブサイト索引付与と巡回(indexing and crawling)について、類似する第三者のサービスや商品より有利に取り扱ってはならない。GK はランキング付与等にあたって透明性、公平性および非差別的条件を適用しなければならない(6条5項)。」とする条文がある。Buy Boxあるいは注目オファーがランキングなのかという問題があるが、EUにおけるGoogle Shopping事件においてGoogleが自社サイトであるGoogle Shoppingの掲載商品を別枠で上部に表示したことが欧州委員会により問題視され、欧州一般裁判所でも欧州委員会の訴えが認められたという事例14を踏まえると、この条文の適用の余地は十分にあると考える。そうすると(b)も事実関係が認められれば、DMA上で違法とされる可能性がある。
 
14 基礎研レポート「グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決」 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69734?site=nli 参照
3|確約計画の意味合い
以上述べてきたように、競争法(欧州機能条約102条)では市場独占力の存在についての検証をなお要するものと思われるものの、その検証次第では(すべての行為が該当するかは別として)違法行為とされる可能性は否定できない。また、今後施行されるDMAではAmazonとMarketPlaceがDMA上のGKおよびCPS指定を受けることが前提とはなるものの、Amazonの行為はDMA上問題となる可能性があると考えられる。畢竟、どちらかの法律によって、違法とされる可能性がある。特にDMAでは行為者が独占的事業者であることや、競争制限効果などの認定を要しないため、違法認定(さらには制裁金賦課)はより容易である。この文脈からは、AmazonはDMA施行前のこのタイミングで確約計画が出すことを余儀なくされたのではないかと推測される。

なお、詳細は省略したが、確約計画案では改善策実行後に、第三者的な立場の人を指定して定期的にモニタリングし、適宜計画の修正を行うとの措置が盛り込まれている。この点からは、Amazonは継続的に改善策を履行することを予定しており、確約計画を出しておしまいということにしないというAmazonの姿勢は評価できるものと考える。

6――おわりに

6――おわりに

見方は分かれるとは思うものの、いわゆるITブームもひと段落した模様であり、IT企業において採用を停止したり、人員削減を行ったりするところが出てきた。これは現代の石油と呼ばれた「データ」に関する意識が変わり、IT企業がフリーハンドでデータ活用することができなくなってきたということにも原因の一端があるのではないだろうか。

このことはGDPR(欧州一般データ保護規則)等のもとで追跡型広告について本人同意が厳格に求められるようになってきたことでオンライン広告の効果が減殺されるようになったことや、競争法あるいはDMAによりゲートキーパーのデータの独占的利用が封じられ、強力な支配力を行使できないようにする方向であることが大きく影響を及ぼしている面があると考える。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2022年11月22日「基礎研レポート」)

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