2022年11月16日

英国雇用関連統計(22年10月)-失業率が3.6%にやや上昇

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率がやや上昇

11月15日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【10月】
失業保険申請件数1前月(153.29万件)から0.33万件増の153.62万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は3.9%となり、前月(同3.9%)から横ばいだった
給与所得者数2前月(2976.5万人)から7.4万人増の2984.0万人となった。
増減数は前月(+9.4万人)から減少したが、市場予想3(+4.4万人)は上回った。

【9月(22年7-9月の3か月平均)】
失業率は3.6%で前月(3.5%)から上昇、市場予想(3.5%)も上回った(図表1)。
就業者は3273.9万人で3か月前の3279.2万人から5.2万人の減少となった。
減少数は前月(▲10.9万人)から縮小したが、市場予想(▲2.5万人)を上回った。
週平均賃金は、前年同期比6.0%で前月(6.1%)からやや減速したが、市場予想(5.9%)は上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:実質賃金のマイナスが継続

まず、10月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は22年8-10月の平均で122.5万件となり3-5月平均(130.0万件)をピークにした減少傾向が続いており(図表4)、産業別に見ても幅広い業種で求人数の減少が見られる。ただし、単月の求人数で見ると10月は127.8万件と9月(122.1万件)から増加している4

給与所得者データでは、産業別に見ると10月は卸・小売業が前月比で大幅マイナスとなったが、事務・支援サービス、居住・飲食サービスの雇用者が大きく増加し、全体でも増加した(図表4)。月あたり給与額(中央値)は前年同月比6.0%で9月(6.9%)から伸び率が大きく低下した。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
9月までのデータ(労働力調査)を確認すると、22年7-9月期の失業率は3.6%とやや上昇した。前月比では失業者が増加する一方、就業者が減少し非労働力人口も微減となった。足もと、労働参加率はコロナ禍後の最低水準である62.9%で推移している(図表5)。ONSは19年以降、非労働力人口の増加要因として長期の病気を理由に挙げる人が増えている(約50万人の増加)点を指摘、この現象についてさらなる理解を必要するとしつつ、NHS(国民保健サービス)の待ち時間長期化、新型コロナの後遺症(long COVID)、労働力の高齢化といった理由を紹介している5
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)英国の名目賃金水準(週あたり賃金)
労働時間については、31.7時間(前年同期差+0.1時間)、フルタイム労働者で36.3時間(同+0.2時間)となり横ばい推移が続いている(前掲図表2)。週間総労働時間は7-9月期時点でコロナ禍前ピーク(19年8-10月)から1.6%低い水準であり、足もとやや減少している。賃金は、名目賃金が22年7-9月の前年同期比で6.0%と高めの伸び率を維持している。ボーナスを除く定期賃金の伸び率は名目で5.7%(6-8月期5.5%)と加速、ボーナスも依然として高い水準にある(図表6)。ただし、実質賃金は▲2.6%とマイナスが続きコロナ禍以降の最低値を更新している(前掲図表2)。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要(10月は求人が多い季節性がある)。
5 ONS, Half a million more people are out of the labour force because of long-term sickness, 10 November 2022
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年11月16日「経済・金融フラッシュ」)

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