コラム
2022年11月08日

日・カタール関係とLNG争奪戦-FIFAワールドカップを機に考える

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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6――日本の存在感を示す機会となり得るカタール国家ビジョン2030

さて、カタールは国家ビジョンとして、「カタール国家ビジョン2030」を掲げている(図表5)。2030年までにカタールを先進国へと変貌させ、自国の発展を維持し、国民と将来世代に高い生活水準を提供することを目標としている。以下の4点が柱になる(図表6)。
(図表6) カタール国家ビジョン2030(抜粋)
カタールも中長期的には、天然ガスの可採埋蔵量が徐々に減少していくことや、世界の脱炭素の進展に伴う需要減を考え、脱化石燃料依存経済を念頭に、国民生活の変革の必要性を認識しているように推察される。
 
この「カタール国家ビジョン2030」に、日本がどこまで貢献できるかが、今後の日本のカタールからのLNG調達での鍵を握るであろう。こうした中で既に行動を起こしている国もある。2022年9月にドイツのショルツ首相はカタールを訪問し、タミーム首長と会談した20。LNGの取引21についても話し合われたが、水素および発電分野、航空、最新技術、重機など他の経済分野での協力を深めることにも言及した模様だ。中国22や韓国23も首脳や閣僚がカタールとの経済協力強化を打ち出している。

日本も動いている。2013年8月の安倍元首相のカタール訪問で「日本とカタール国との間の安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップの強化に関する共同声明」が採択され、様々分野で協力が模索されてきた。これを引き継ぐ形で2022年8月には岸田首相24がタミーム首長と会談を行い、包括的パートナーシップを戦略的レベルに引き上げることや、エネルギー分野における協力関係を一層強化すること、カーボンニュートラルの実現に向け共同取組を進めること、エネルギー分野以外にも、経済、防衛・安全保障、学術交流等を含む分野での協力を推進することを確認した。

これらの取組みこそ、カタールとのLNG取引で日本が失ったプレゼンスを再び取り戻す大きなチャンスになり得ると筆者は考える。
 
20 Gulf Times、2022年9月25日配信、2022年9月26日閲覧。
21 独ユニパーとRWEがカタールとLNG長期契約の締結間近、Reuters、2022年9月22日配信、2022年9月26日閲覧。
22 2022年2月5日に習近平主席が北京オリンピックで訪中中のタミーム首長と会談。習主席は一帯一路の共同建設や中国企業のカタールへの投資の他、テロ対策分野の協力や人文交流拡大、長期的に安定したエネルギー協力関係を構築したいと述べた。(中華人民共和国中日本国大使館ウェブサイト、2022年9月26日閲覧)
23 2022年8月17日にカタールのムハンマド副首相兼外相は訪韓し韓国の朴振外交部長長と会談。エネルギー分野での協力を、LNG輸出入だけでなく、LNG運搬船の建造や運搬等への拡大を確認。相互国民の査証(ビザ)の事前取得の免除も取り決めた。(Yahoo!ニュース:聯合ニュース2022年8月17日配信、2022年9月26日閲覧)
24 岸田首相はカタール訪問を予定していたが、体調不良で電話会談に振替。

7――終わりに

この1年で、LNGの輸入を巡る世界の情勢は激変し、その調達は困難さを増している。

主要産出国の一つである豪州は、国内ガス供給不足を理由にLNGの輸出規制の検討が取り沙汰された(今回輸出規制は回避)。ロシアのサハリン2についても、現状、日本側の権益は維持され、取引条件も従前どおりとなった模様だが、今後も注視が必要だ。こうした中で、日本とカタールの関係はこれまで以上に重要と言える。

エネルギー資源としてのLNGも、その役割は重要度を増している。天然ガスは化石燃料の中では最も温室効果ガスの排出量が少なく、脱炭素への移行期の燃料として注目を浴びている。

日本では、2022年、3月に経済産業省が電力需給逼迫警報25を発令する等、電力予備率が危機的状況に陥った。政府は少額のポイントを梃子に、一般家庭にも節電を呼びかける。大口需要企業への都市ガス使用制限令に関する法整備や、事業者間のLNG融通を経産省が仲介する等の試みも検討されている。

電力事情が更に深刻になると予想されるこの冬は、折しも、カタールでのFIFAワールドカップの一次リーグが終了し、決勝トーナメントに入る時期と重なり26、世界中の関心がカタールに向かうことになる。このレポートを通じて、カタールがサッカー以上に、我が国の国民生活に大きく関係している重要な国であることを、読者の皆様の心に留めていただければ幸いである。
 
25 東京電力ホールディングス、東北電力管内。なお、6月下旬にも東電管内で電力需給逼迫注意報が発令された。電力逼迫注意報は、予備率(電力供給余力)が3%を下回ると予想される際に発出。注意報は同じく5%の場合。
26 2022年12月3日より決勝トーナメント開始予定。
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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2022年11月08日「研究員の眼」)

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