2022年11月07日

米雇用統計(22年10月)-雇用者数の伸びは鈍化も市場予想を上回り、堅調な増加が持続

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は市場予想を上回る上昇幅

11月4日、米国労働統計局(BLS)は10月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+26.1万人の増加1(前月改定値:+31.5万人)と+26.3万人から上方修正された前月を下回った一方、市場予想の+19.3万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.5%、市場予想:3.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇し、市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率1は62.2%(前月:62.3%、市場予想:62.3%)と前月から▲0.1%ポイント低下し、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数の伸びは鈍化も、依然として労働需給の逼迫は継続

10月の非農業部門雇用者数(前月比)を受けて過去3ヵ月の月間平均増加ペースは28.9万人増となり、22年前半の平均である44.4万人増からから明確に鈍化した。もっとも、新型コロナ流行前(19年3月~20年2月)の平均である19.8万人増を大幅に上回る堅調な雇用増加が続いている。

一方、10月の家計調査は後述のように就業者数が前月比▲32.8万人の大幅な減少となっており、非農業部門雇用者数が堅調に増加した事業者調査とは対照的な結果となった。また、労働参加率が低下したほか、失業率も上昇に転じるなど、労働市場の軟化を示した。もっとも、失業率は依然として新型コロナ流行前を僅かに上回っているに過ぎず、労働需給が非常に逼迫している状況に大きな変化はない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回った。前年同月比は+4.7%(前月:+5.0%、市場予想:+4.7%)と、こちらは前月を下回った一方、市場予想に一致した(図表1)。この結果、前年同月比は22年3月の+5.6%をピークに低下基調が持続していることを確認した。

このようにみると、10月の雇用統計は雇用増加ペースの鈍化など労働市場の減速が続いていることを示したが、失業率は依然として50年ぶりの低水準に留まっているほか、前年同月比でみた時間当たり賃金も底堅い伸びとなっており、労働市場は依然として労働需給が非常に逼迫していることを示す結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:広範な業種で雇用が増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+20.0万人(前月:+27.1万人)と前月から雇用の伸びは鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+3.5万人(前月:+10.7万人)と前月から雇用の伸びが鈍化したほか、医療・社会扶助サービスが+7.1万人(前月:+8.1万人)、専門・ビジネスサービスが+3.9万人(前月:+5.2万人)と堅調な伸びを維持したものの、前月から小幅に伸びが鈍化した。一方、運輸・倉庫が+0.8万人(前月:▲1.1万人)、小売業が+0.7万人(前月:▲0.8万人)と小幅ながら前月から増加に転じた。

財生産部門は前月比+3.3万人(前月:+4.8万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+3.2万人(前月:+2.3万人)と小幅に伸びが加速した一方、建設業が+0.1万人(前月:+2.2万人)と伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+2.8万人(前月:▲0.4万人)と前月から増加に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.6万人(前月:+0.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+2.2万人(前月:▲0.7万人)と増加に転じて政府部門全体を押し上げた。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は前月が+31.5万人(改定前:+26.3万人)と+5.2万人上方修正された一方、前々月が+29.2万人(改定前:+31.5万人)と▲2.3万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+2.9万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って11月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+23.9万人(前月改定値:+19.2万人、市場予想:18.5万人)と+20.8万人から下方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、雇用統計の事業所調査とADP社はともに10月は堅調な雇用増加が継続していることを示しており、雇用統計の家計調査が示す就業者数の減少とは不整合な結果となった。
 
10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が32.58ドル(前月:32.46ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)とこちらは前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,124.01ドル(前月:1,119.87ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は2ヵ月連続で低下、労働供給の回復に遅れ

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で▲2.2万人(前月:▲5.7万人)と2ヵ月連続の減少となった。内訳を見ると、就業者数が▲32.8万人(前月:+20.4万人)と大幅な減少に転じたほか、失業者数が+30.6万人(前月:▲26.1万人)と増加に転じたものの、増加幅が就業者数の減少幅を下回った。非労働力人口は+20.1万人(前月:+22.9万人)と2ヵ月連続の増加となった。これらの結果、労働参加率は62.2%と2ヵ月連続で▲0.1%ポイント低下しており、9月以降は労働供給の回復が遅れていることを示した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は10月が82.5%(前月:82.7%)とこちらも2ヵ月連続で低下した。男女の内訳は、男性が88.5%(前月:88.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下したほか、女性が76.5%(前月:76.6%)と▲0.1%ポイント低下した。

失業率は前月から+0.2%ポイント上昇したものの、それでも50年ぶりの低水準を維持しており、労働需給は依然として非常にタイトであることを示している。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は116.5万人(前月:106.7万人)と前月から+9.8万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.5%(前月:18.5%)と前月から+1.0%ポイント増加した(図表7)。平均失業期間は20.8週(前月:20.2週)と前月から+0.6週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(150.4万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(366.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、10月が6.8%(前月:6.7%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.1%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年11月07日「経済・金融フラッシュ」)

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