2022年11月04日

定年後の働き方とこころの健康の関係

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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■要旨

国家公務員の定年が、2023年度から段階的に引き上げられ、2031年度には65歳となる。そうした中で、定年延長の議論が進むが、定年後の働き方の違いは、人々のウェルビーイングにどのような影響を与えるのだろうか。「定年後の働き方と幸福度の関係」の基礎研レポートでは、定年後に働くことを辞めた公務員は、定年前後で幸福度が高まった可能性が示唆された。また、会社員は全体として定年を迎えると幸福度が高まる可能性が示唆された。ではこころの健康はどうだろうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が定年直前直後の年齢の正社員/公務員/元正社員/元公務員を対象に行った独自の調査を用いて、定年後の働き方の違いのこころの健康への影響を検証した結果を紹介する。

結果を先取りしてお伝えすれば、本稿の分析結果からは、会社員のこころの健康状態は、定年を迎えると、全体として改善する傾向が示唆された。また、定年を迎えた公務員の間では、定年前と同じ企業・団体に勤務している人に比べて、定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務している人が、こころの健康が良好な傾向が見られた。そしてこれは、もともと定年前からこころの健康状態が良い公務員が、定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務しているためである可能性が示唆された。

一方で、定年を迎えた会社員の間では、定年前と同じ企業・団体に勤務している人と比べて、定年後に定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務している人が、特にこころの健康状態が良いという傾向は見られなかった。しかし、定年を迎える前の会社員の間では、定年後に定年前とは別の企業・団体にフルタイムで勤務を予定している人のこころの健康状態は、定年後に定年前と同じ企業・団体に勤務する予定の人と比べて良くない傾向が見られた。このことは、会社員で現在の職場を変わりたいと思っている人の間では、定年による勤務先の変化が、こころの健康状態改善の機会になっている可能性があることを示唆するかもしれない。

■目次

1――はじめに
2――調査概要
3――定年前後のこころの健康
4――定年後の働き方別に見る定年前後のこころの健康
5――こころの健康の分析と幸福度の分析から一貫して示唆されること
6――おわりに
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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