2022年11月02日

インドの生命保険会社の状況-2021年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

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6―EV(Embedded Value)

EVについては、これまで、主として民間の生命保険会社が公表してきており、以下の図表の通りとなっている。

算出方式は、ICICI PrudentialとSBI LifeがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。 ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。

EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。

これによれば、民間5社の2021年度の新契約マージンは(非公表のBajaj Allianzを除いて)25%~28%の範囲にあり、2020年度に比べて各社とも水準を上げている。このように、引き続き新契約における高い収益性を確保している。

EVについては、2015年度に増加率が低下していたが、2016年度から2021年度においては、Bajaj Allianzを除けば、各社とも毎年2桁近い進展を見せており、会社の価値を着実に高めてきている。

なお、近年はLICもIEVでのEVを公表してきており、2022年3月末で5,414.92十億ルピーとなっている。この数値は2021年3月末の956.05十億ルピーに比して大幅に増加している。因みに、2021年9月末において、5,396.86十億ルピーと(2021年3月末に比べて)大幅に増加しており、これは2021~22 年度のLIC法の変更に従って LIC によって実行された資金の分岐(bifurcation)のため、と説明されている。

また、LICの新契約マージン(NET)は、2021年が15.1%、2020年が9.9%となっている。
インドの民間生命保険会社5社のEVの推移

7―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による影響

7―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による影響

インドは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による影響を大きく受けた。

ジョンズ・ホプキンス大学の発表データによれば、2021年3月末の時点で、インドにおけるCOVID-19による感染者数と死亡者数はそれぞれ、約1,214万人、約16万人であったが、その後の2021年4月から6月にかけての第2波の到来等により、感染者数と死亡者数が大幅に増加して、2022年3月末時点では、感染者数と死亡者数はそれぞれ、約4,300万人、約52万人となっていた。ただし、WHO(世界保健機構)によれば、インドにおけるCOVID-19による死亡者数は既に500万人を超えていると推計されている。

また、入院に伴う医療給付金や団体生命保険における保険金請求等を始めとして、2021年度には生命保険会社に対する保険金等請求が大幅に増加した。

生命保険会社の統括団体である生命保険協議会が Business Today に提供したデータによると、生命保険会社は少なくとも1,692憶ルピーに相当する21.8万件の COVID 保険金請求を受けている、とのことである。

なお、生命保険会社各社は、将来のCOVID-19に伴う請求支払いに備えるために、コロナ特別準備金の積立等を行ってきている。

因みに、LICは、決算報告の中で、COVID-19について、以下の記載を行っている。
 

COVID-19は、2020年3月11日にWHO(世界保健機関)によって宣言された進行中の世界的なパンデミックである。インドを含む世界中に広がり、世界やインドの経済環境に大きな影響を与えている。パンデミックの発生以来、LICは、COVID 19パンデミックに起因する請求を含む死亡請求の増加を経験している。したがって、COVID 19パンデミックによる追加的な死亡負荷と、それが契約負債とソルベンシーに与える影響は、注意深く監視され、準備金として考慮される。パブリックドメインで入手可能な情報は、COVID 19のために予想される将来の死亡率の経験に長期的な変更が必要であることを決定的に示唆しているわけではない。しかし、長期的な死亡率の仮定を変更する必要がなく、別の準備金をCOVID-19準備金として維持することが賢明であると考えられる。インドの人口に関するインド政府の統計資料から入手可能な国の統計を考慮し、LICのデータと経験を適切に調整して適用し、慎重さのためのマージンを加えた後、COVID 19関連の死亡に対する別の準備金が推定され、個人保険と団体保険の両方の契約に対して、準備される。

このCOVID 19準備金は、契約債務を決定し、準備する際に毎年提供される長期死亡率引当金に追加される。

なお、COVID-19の感染拡大に伴うロックダウン等は、販売活動を制約し、エージェント数の減少や新契約の大幅な減少等につながったが、一方で、顧客の生命保険や医療保険による保障の必要性を認識させる機会となったことから、今後の市場の拡大へのプラスの影響も期待されている。

8―まとめ

8―まとめ

以上ここまで、2021年度決算に関する各社のPublic Disclosures資料等に基づいて、インドの主要な生命保険会社各社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況及び新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による影響について報告してきた。

インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。

成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて、外資規制の緩和等に対して積極的に注力してきている。

インドにおける生命保険各社の状況については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年11月02日「基礎研レポート」)

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