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2015年12月21日
インドの生命保険市場(3)-責任準備金やソルベンシー等の財務面の監督規制はどのようになっているのか-
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1―はじめに
これまでのレターで、インドの生命保険市場の一般的な状況、昨今のインドにおける保険監督規制を巡る状況、生命保険普及に向けたインド政府の各種の施策等について、報告してきた。
今回のレターでは、責任準備金やソルベンシー等の財務面の監督規制について、その現状及び昨今の改正の動きについて報告する1。
1 今回のレターに関しては、以下のWebサイトからの情報等に基づいて、作成している。
インド保険監督当局(IRDAI)のWebサイト https://www.irda.gov.in/Defaulthome.aspx?page=H1
インド・アクチュアリー会(IAI)のWebサイト http://www.actuariesindia.org/index.aspx
今回のレターでは、責任準備金やソルベンシー等の財務面の監督規制について、その現状及び昨今の改正の動きについて報告する1。
1 今回のレターに関しては、以下のWebサイトからの情報等に基づいて、作成している。
インド保険監督当局(IRDAI)のWebサイト https://www.irda.gov.in/Defaulthome.aspx?page=H1
インド・アクチュアリー会(IAI)のWebサイト http://www.actuariesindia.org/index.aspx
2―責任準備金規制
責任準備金に関する事項については、保険法に加えて、監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)2が設定している規則「IRDA(Assets Liabilities and Solvency Margin of Insurers) Regulations, 2000 」等に規定されている。
1|保険法の規定
責任準備金を含む負債の評価に関しては、保険法の第64V条に規定されている。
第2項の規定により、保険会社は、規則に特定された方式で、全ての負債に対して、適当な価額を付与しなければならない。ただし、保険法の中では、具体的な責任準備金の積立基準等は規定されていない。
2|規則の規定
生命保険会社の場合、規則「IRDA(Assets Liabilities and Solvency Margin of Insurers) Regulations, 2000 」の付則Ⅱ-Aにおいて、概略、以下のように規定されている。
1.責任準備金(数理的準備金:Mathematical Reserves)の決定方法
(1)責任準備金は、将来法によって、契約毎に算出しなければならない。
(2)評価方法は、契約条件によって決定される(保険契約者による)保険料や(保険契約者や保険金受取人に対する)保険給付の、全ての将来の不確実性を考慮しなければならない。給付水準は、(もしあれば、最終配当を含む配当に関する)契約者の合理的な期待と、給付支払いに関する保険会社の確立された実務を考慮しなければならない。
(3)評価方法は、保険契約者が行使可能なオプションのコストを考慮しなければならない。
(4)負債の金額の決定に当たっては、全ての関連するパラメータは、慎重な前提に基づいていなければならない。各パラメータの値は、保険会社の想定経験値に基づき、責任準備金の増加につながる逆偏差への適切なマージン(MAD:Margin for Adverse Deviation)を含まなければならない。
(5)(決算期末の評価目的では)負値の責任準備金はゼロとし、責任準備金は解約価格以上としなければならない。
(6)評価方法は、営業保険料式(Gross Premium Method)による。
(7)アポインテッド・アクチュアリーの意見に基づいて、過去法等による概算方式が使用される場合には、少なくとも営業保険料式の金額以上でなければならない。
(8)評価方法や評価用のパラメータの前提(の設定)は、継続性を有していなければならない。
(9)責任準備金の金額の決定に当たっては、負債に対応する資産の性質や期間を考慮し、資産価格の将来の変化に対する慎重な備えを含んでいなければならない。
2.契約のオプション
契約転換や無選択増額、満期時の年金料率保証等のビルト・インされたオプションが提供されている場合には、それらのオプションのコストが反映されなければならない。
3.評価用のパラメータ
(1)責任準備金評価用のパラメータ値の決定に当たっては、アポインテッド・アクチュアリーは、以下の点を考慮しなければならない。
(a)パラメータ値は、保険会社の経験調査に基づいていなければならない。もし信頼性のある経験調査が入手できない場合には、可能で適切であれば、業界調査に基づくことができる。いずれも入手できない場合、保険料設定に使用したものに基づくことになる。想定水準を設定する上では、経験における悪化の可能性を考慮しなければならない。
(b)想定水準は、逆偏差への適切なマージン(MAD)によって、調整されなければならない。MADは、インド・アクチュアリー会によって発行されたガイダンス・ノートに基づき、IRDAIの同意を得ていなければならない。
(c)様々なパラメータに使用される値は、整合的でなければならない。
(2)死亡率については、会社の経験に基づいているのでなければ、公表生命表(published table)を参考にしたものでなければならない。公表生命表は、インド・アクチュアリー会によって作成され、IRDAIの承認の下で、保険業界が入手可能となる。公表生命表を参考にした死亡率は、公表生命表の死亡率の100%以上でなければならない。もし、アポインテッド・アクチュアリーがより低い死亡率を正当化できるのであれば、公表生命表の死亡率の100%未満としてもよい。
(3)罹患率についても、死亡率と同様に規定されている。
(4)契約維持費用については、保険会社によって、固定費と変動費に区分して、分析された方法によっていなければならない。変動費は、保険金額・保険料・給付額に関係していなければならない。固定費は、保険金額・保険料・給付額・契約数に関係してよい。全ての事業費は、責任準備金評価利率と整合的なインフレ率で、将来にわたって増加させなければならない。
(5) アポインテッド・アクチュアリーが使用する責任準備金評価利率については、以下の通り。
(a)生命保険契約ブロックに帰する既存資産から得られる利回りと将来に投資する金額から得られることが期待される利回りの慎重な評価によって決定される利率を超えてはならない。このような評価においては、以下の点を考慮しなければならない。
(i)負債に対応する資産の構成、手持ちの投資資産からの想定キャッシュ・フロー、評価対象の契約ブロックからのキャッシュ・フロー、想定される将来の投資条件及び将来のネット・キャッシュ・フローを取り扱う上で採用される再投資・投資回収戦略
(ii)投資収益の投資や元本償還に関するリスク
(iii) 保険会社の投資運用に関する経費
(b)特別に分類された契約に関してのキャッシュ・フローの現在価値の計算においては、当該契約のために保持される資産から得られる利回りを超えてはならない。
(c)無配当契約については、将来の金利低下リスクを認識しなければならない。
(d)有配当契約については、責任準備金評価に使用される将来の配当水準が責任準備金評価利率に整合的なものであるという(将来の投資条件に関する)前提に基づいていなければならない。
(e)一時払契約については、リスクフリー・レートの変化の影響を考慮しなければならない。
(6)その他のパラメータが、契約のタイプによっては使用されるかもしれない。そのようなパラメータを設定する場合には、この付則で述べられた点が考慮されなければならない。
このように、インドの責任準備金評価は、プリンシプル・ベースで規定されており、ロック・フリー方式で行われている。例えば、責任準備金の評価利率も一定の水準が法定等されているわけでなく、毎期末に、各社のアポインテッド・アクチュアリーが、市場金利等も参考にしながら、決定している。
2 以前は、略語として「IRDA」が使用されていたが、現在は「IRDAI」が使用されている。
1|保険法の規定
責任準備金を含む負債の評価に関しては、保険法の第64V条に規定されている。
第2項の規定により、保険会社は、規則に特定された方式で、全ての負債に対して、適当な価額を付与しなければならない。ただし、保険法の中では、具体的な責任準備金の積立基準等は規定されていない。
2|規則の規定
生命保険会社の場合、規則「IRDA(Assets Liabilities and Solvency Margin of Insurers) Regulations, 2000 」の付則Ⅱ-Aにおいて、概略、以下のように規定されている。
1.責任準備金(数理的準備金:Mathematical Reserves)の決定方法
(1)責任準備金は、将来法によって、契約毎に算出しなければならない。
(2)評価方法は、契約条件によって決定される(保険契約者による)保険料や(保険契約者や保険金受取人に対する)保険給付の、全ての将来の不確実性を考慮しなければならない。給付水準は、(もしあれば、最終配当を含む配当に関する)契約者の合理的な期待と、給付支払いに関する保険会社の確立された実務を考慮しなければならない。
(3)評価方法は、保険契約者が行使可能なオプションのコストを考慮しなければならない。
(4)負債の金額の決定に当たっては、全ての関連するパラメータは、慎重な前提に基づいていなければならない。各パラメータの値は、保険会社の想定経験値に基づき、責任準備金の増加につながる逆偏差への適切なマージン(MAD:Margin for Adverse Deviation)を含まなければならない。
(5)(決算期末の評価目的では)負値の責任準備金はゼロとし、責任準備金は解約価格以上としなければならない。
(6)評価方法は、営業保険料式(Gross Premium Method)による。
(7)アポインテッド・アクチュアリーの意見に基づいて、過去法等による概算方式が使用される場合には、少なくとも営業保険料式の金額以上でなければならない。
(8)評価方法や評価用のパラメータの前提(の設定)は、継続性を有していなければならない。
(9)責任準備金の金額の決定に当たっては、負債に対応する資産の性質や期間を考慮し、資産価格の将来の変化に対する慎重な備えを含んでいなければならない。
2.契約のオプション
契約転換や無選択増額、満期時の年金料率保証等のビルト・インされたオプションが提供されている場合には、それらのオプションのコストが反映されなければならない。
3.評価用のパラメータ
(1)責任準備金評価用のパラメータ値の決定に当たっては、アポインテッド・アクチュアリーは、以下の点を考慮しなければならない。
(a)パラメータ値は、保険会社の経験調査に基づいていなければならない。もし信頼性のある経験調査が入手できない場合には、可能で適切であれば、業界調査に基づくことができる。いずれも入手できない場合、保険料設定に使用したものに基づくことになる。想定水準を設定する上では、経験における悪化の可能性を考慮しなければならない。
(b)想定水準は、逆偏差への適切なマージン(MAD)によって、調整されなければならない。MADは、インド・アクチュアリー会によって発行されたガイダンス・ノートに基づき、IRDAIの同意を得ていなければならない。
(c)様々なパラメータに使用される値は、整合的でなければならない。
(2)死亡率については、会社の経験に基づいているのでなければ、公表生命表(published table)を参考にしたものでなければならない。公表生命表は、インド・アクチュアリー会によって作成され、IRDAIの承認の下で、保険業界が入手可能となる。公表生命表を参考にした死亡率は、公表生命表の死亡率の100%以上でなければならない。もし、アポインテッド・アクチュアリーがより低い死亡率を正当化できるのであれば、公表生命表の死亡率の100%未満としてもよい。
(3)罹患率についても、死亡率と同様に規定されている。
(4)契約維持費用については、保険会社によって、固定費と変動費に区分して、分析された方法によっていなければならない。変動費は、保険金額・保険料・給付額に関係していなければならない。固定費は、保険金額・保険料・給付額・契約数に関係してよい。全ての事業費は、責任準備金評価利率と整合的なインフレ率で、将来にわたって増加させなければならない。
(5) アポインテッド・アクチュアリーが使用する責任準備金評価利率については、以下の通り。
(a)生命保険契約ブロックに帰する既存資産から得られる利回りと将来に投資する金額から得られることが期待される利回りの慎重な評価によって決定される利率を超えてはならない。このような評価においては、以下の点を考慮しなければならない。
(i)負債に対応する資産の構成、手持ちの投資資産からの想定キャッシュ・フロー、評価対象の契約ブロックからのキャッシュ・フロー、想定される将来の投資条件及び将来のネット・キャッシュ・フローを取り扱う上で採用される再投資・投資回収戦略
(ii)投資収益の投資や元本償還に関するリスク
(iii) 保険会社の投資運用に関する経費
(b)特別に分類された契約に関してのキャッシュ・フローの現在価値の計算においては、当該契約のために保持される資産から得られる利回りを超えてはならない。
(c)無配当契約については、将来の金利低下リスクを認識しなければならない。
(d)有配当契約については、責任準備金評価に使用される将来の配当水準が責任準備金評価利率に整合的なものであるという(将来の投資条件に関する)前提に基づいていなければならない。
(e)一時払契約については、リスクフリー・レートの変化の影響を考慮しなければならない。
(6)その他のパラメータが、契約のタイプによっては使用されるかもしれない。そのようなパラメータを設定する場合には、この付則で述べられた点が考慮されなければならない。
このように、インドの責任準備金評価は、プリンシプル・ベースで規定されており、ロック・フリー方式で行われている。例えば、責任準備金の評価利率も一定の水準が法定等されているわけでなく、毎期末に、各社のアポインテッド・アクチュアリーが、市場金利等も参考にしながら、決定している。
2 以前は、略語として「IRDA」が使用されていたが、現在は「IRDAI」が使用されている。
(2015年12月21日「基礎研レター」)
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