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- インドの生命保険市場(2)-昨今の保険監督規制を巡る状況はどのようになっているのか-
2015年12月14日
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1―はじめに
インドにおける生命保険市場が、今後、将来にわたってさらなる成長が期待される有望な市場であることは、前回のレターで述べたとおりである。
前回のレターでは、インドの生命保険市場の一般的な状況について報告した。インドでは、昨今、市場の変化等に対応して、保険法の改正や数々の保険監督規制の改革等が行われてきている。さらには、インド政府は、各種の施策等を通じて、生命保険のさらなる普及を図ろうとしている。
今回のレターでは、昨今のインドにおける保険監督規制を巡る状況及び生命保険普及に向けたインド政府の各種の施策等について、報告する1。
1 今回のレターの情報に関しては、以下のWeb サイトや資料等に基づいて作成している。
IRDAIのWebサイト https://www.irda.gov.in/Defaulthome.aspx?page=H1
Tiemetric 「Life Insurance in India、Key Trends and Opportunities to 2019」
前回のレターでは、インドの生命保険市場の一般的な状況について報告した。インドでは、昨今、市場の変化等に対応して、保険法の改正や数々の保険監督規制の改革等が行われてきている。さらには、インド政府は、各種の施策等を通じて、生命保険のさらなる普及を図ろうとしている。
今回のレターでは、昨今のインドにおける保険監督規制を巡る状況及び生命保険普及に向けたインド政府の各種の施策等について、報告する1。
1 今回のレターの情報に関しては、以下のWeb サイトや資料等に基づいて作成している。
IRDAIのWebサイト https://www.irda.gov.in/Defaulthome.aspx?page=H1
Tiemetric 「Life Insurance in India、Key Trends and Opportunities to 2019」
2―保険法の改正
2015年3月に、新たに改正保険法「The Insurance Laws(Amendment) Act 2015 」が成立した。これにより、監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)に大きな権限が与えられ、より効率的かつ効果的な監督を行っていくことが可能となった。具体的には、それまでは、法律に組み込まれていて容易には変更できなかったルールの変更や作成が、IRDAIによって、より柔軟性を持って行うことができるようになった。
以下で、その改正内容の一部2を紹介する。
1|外国資本による出資規制の緩和
外国の会社は、インドの会社とのジョイント・ベンチャーによって、インドの保険市場に参入ができる。これまでの外国会社による直接投資の上限は26%であったが、これが49%に引き上げられた。
これに伴い、いくつかの会社が、引き上げ申請を行う意向を示してきている。
グローバルな保険会社によるインド市場への投資を促すことを通じて、インド国内の保険に対する需要を増大させるとともに、さらなる競争を促進することを通じて、保険会社の効率性と商品開発力を向上させることを企図している、としている。
なお、この規制緩和にも関わらず、保険会社は、引き続きインド人またはインドの会社によって、所有され、管理されなければならない。
2|外国再保険会社に対する規制緩和
外国再保険会社は、免許を得て、インドで支店を開設することができることになった。その場合、(当該再保険会社は)最低500億ルピー(1ルピー=1.85円(以下、同様)として、925億円)の純資産を有しなければならない。なお、契約者ファンドをインド国外に投資することはできない。 また、元受会社が再保険会社に100%出再することは認められない。さらに、Lloyds(of London)やその会員が、再保険事業のために支店を開設したり、インドの保険会社に出資することで、インドで事業を行うことができることとなった。
主要なグローバル再保険会社の参入により、これまでは高リスクと考えられていた、より複雑なリスクを有する商品を設計・提供することができるようになる、と期待されている。
3|医療保険に関する規制の改正
医療保険は、それまでは損害保険の一部として規制されていたが、改正法の下では、医療保険を規制する単独の法令を有する分離された事業と見なされる、ことになった。また、最低資本要件が 10億ルピー(18.5億円)に設定された。
今後は、医療保険により焦点を当てた規制の作成等にプライオリティが置かれていくことになる。
4|消費者権利の保護のための規制強化
消費者権利の保護の目的で、違法行為に対して、代理人や保険会社にペナルティを課す規定を導入し、不適正販売を減らすために保険商品のマルチレベル販売を認めない、こととした。さらに、エージェントや保険会社による不適正販売や不正話法を含む違反に対して、より高額の罰金を課す規定を導入した。
2 詳しい改正内容等については、IRDAIが発行している「IRDAI JournalMarch 2015」に記載されている。
以下で、その改正内容の一部2を紹介する。
1|外国資本による出資規制の緩和
外国の会社は、インドの会社とのジョイント・ベンチャーによって、インドの保険市場に参入ができる。これまでの外国会社による直接投資の上限は26%であったが、これが49%に引き上げられた。
これに伴い、いくつかの会社が、引き上げ申請を行う意向を示してきている。
グローバルな保険会社によるインド市場への投資を促すことを通じて、インド国内の保険に対する需要を増大させるとともに、さらなる競争を促進することを通じて、保険会社の効率性と商品開発力を向上させることを企図している、としている。
なお、この規制緩和にも関わらず、保険会社は、引き続きインド人またはインドの会社によって、所有され、管理されなければならない。
2|外国再保険会社に対する規制緩和
外国再保険会社は、免許を得て、インドで支店を開設することができることになった。その場合、(当該再保険会社は)最低500億ルピー(1ルピー=1.85円(以下、同様)として、925億円)の純資産を有しなければならない。なお、契約者ファンドをインド国外に投資することはできない。 また、元受会社が再保険会社に100%出再することは認められない。さらに、Lloyds(of London)やその会員が、再保険事業のために支店を開設したり、インドの保険会社に出資することで、インドで事業を行うことができることとなった。
主要なグローバル再保険会社の参入により、これまでは高リスクと考えられていた、より複雑なリスクを有する商品を設計・提供することができるようになる、と期待されている。
3|医療保険に関する規制の改正
医療保険は、それまでは損害保険の一部として規制されていたが、改正法の下では、医療保険を規制する単独の法令を有する分離された事業と見なされる、ことになった。また、最低資本要件が 10億ルピー(18.5億円)に設定された。
今後は、医療保険により焦点を当てた規制の作成等にプライオリティが置かれていくことになる。
4|消費者権利の保護のための規制強化
消費者権利の保護の目的で、違法行為に対して、代理人や保険会社にペナルティを課す規定を導入し、不適正販売を減らすために保険商品のマルチレベル販売を認めない、こととした。さらに、エージェントや保険会社による不適正販売や不正話法を含む違反に対して、より高額の罰金を課す規定を導入した。
2 詳しい改正内容等については、IRDAIが発行している「IRDAI JournalMarch 2015」に記載されている。
3―保険法の改正に伴う規制の改正等
保険法の改正に伴い、監督当局は既存の規則やガイドラインの見直し等を行ってきている。今なお、いくつかの見直し等のためのED(Exposure Draft:公開草案)が公表されてきている。
その中から、低所得層や地方・社会セクターにおける生命保険の普及に向けた規制改正の内容を2点紹介する。
1|マイクロ・インシュアランスに関する規制の改正
IRDAIは、マイクロ・インシュアランスに関する規則「IRDAI(Micro Insurance) Regulations, 2005」を改正して、新たな規制「IRDAI(Micro Insurance) Regulations, 2015」を、2015年3月に公表した。
この改正内容の具体例は、以下の通りである。
・生命保険会社は、生命保険と損害保険のマイクロ・インシュアランス商品を販売するために、損害保険会社と提携ができる。
・マイクロ・インシュアランスのエージェントは、1つの生命保険会社、1つの損害保険会社に加えて、AIG(Agriculture Insurance Company of India)及び医療保険専門会社の1つのエージェントとして働くことができる。
2|地方・社会セクターでの最低販売量規制の改正
IRDAIは、地方・社会セクターでの最低販売量に関する規制「IRDAI(Obligations of Insurers to Rural and Social Sectors) Regulations, 2002」を改正して、新たな規則「IRDAI(Obligations of Insurers to Rural and Social Sectors) Regulations, 2015」を、2015年8月に公表した。
これは、各保険会社に、保険契約の一定割合を「地方・社会セクター(Rural and Social Sectors)」から計上することを求めるものである。その比率は事業年数によって異なり、段階的に増加していく。「地方セクター(Rural Sector)」の場合、初年度の7%から段階的に増加し、10年目以降は20%となり、「社会セクター(Social Sector)」の場合、初年度の0.5%から段階的に増加し、10年目以降は5%となる。
その中から、低所得層や地方・社会セクターにおける生命保険の普及に向けた規制改正の内容を2点紹介する。
1|マイクロ・インシュアランスに関する規制の改正
IRDAIは、マイクロ・インシュアランスに関する規則「IRDAI(Micro Insurance) Regulations, 2005」を改正して、新たな規制「IRDAI(Micro Insurance) Regulations, 2015」を、2015年3月に公表した。
この改正内容の具体例は、以下の通りである。
・生命保険会社は、生命保険と損害保険のマイクロ・インシュアランス商品を販売するために、損害保険会社と提携ができる。
・マイクロ・インシュアランスのエージェントは、1つの生命保険会社、1つの損害保険会社に加えて、AIG(Agriculture Insurance Company of India)及び医療保険専門会社の1つのエージェントとして働くことができる。
2|地方・社会セクターでの最低販売量規制の改正
IRDAIは、地方・社会セクターでの最低販売量に関する規制「IRDAI(Obligations of Insurers to Rural and Social Sectors) Regulations, 2002」を改正して、新たな規則「IRDAI(Obligations of Insurers to Rural and Social Sectors) Regulations, 2015」を、2015年8月に公表した。
これは、各保険会社に、保険契約の一定割合を「地方・社会セクター(Rural and Social Sectors)」から計上することを求めるものである。その比率は事業年数によって異なり、段階的に増加していく。「地方セクター(Rural Sector)」の場合、初年度の7%から段階的に増加し、10年目以降は20%となり、「社会セクター(Social Sector)」の場合、初年度の0.5%から段階的に増加し、10年目以降は5%となる。
(2015年12月14日「基礎研レター」)
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