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コラム
2025年05月28日

複素数について(その2)-複素数と方程式-

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はじめに

今回の研究員の眼のシリーズでは、「虚数」及び虚数と実数で構成される「複素数」について、今一度それがどのようなもので、どんな性質を有しており、はたまたそれがどのように社会で役に立っているのか等について、何回かに分けて報告している。

まずは、前回は、「虚数」とは何か、から始めて、虚数と複素数の歴史と概要について、説明した。その歴史において説明したように、虚数や複素数の概念や研究が必要になってきたのは、方程式の解が実数の世界だけでは閉じておらず、虚数や複素数という新たな数字の概念が必要不可欠になってきたことによる。この虚数や複素数の研究を通じて、代数学の世界が飛躍的に進展していくことになる。

ということで、今回は複素数が数学の世界において、どのように有効に利用されているのかということで、方程式に関係するトピックについて説明する。

代数学の基本定理

前回の研究員の眼でも紹介したように、1799年に、ヨハン・カール・フリードリヒ・ガウス(Johann Carl Friedrich Gauß)は、「代数学の基本定理」の証明を行っている1

代数学の基本定理(fundamental theorem of algebra」というのは、「次数が 1 以上の任意の複素係数の一変数多項式には複素根が存在する2。」(あるいは「複素係数の一変数代数方程式は複素数の範囲で必ず解をもつ。」)という定理である3

これはまた、因数定理(factor theorem)(多項式の根から元の多項式を因数分解することができる)に基づき、

「複素係数の任意の 一変数n次多項式
複素係数の任意の一変数n次多項式
は複素根を(重複を込めて)ちょうど n 個持つ。」という形で言われることも多い。

n個の根をα1、α2、・・・、αn とすると、上記の多項式は
多項式
という形に因数分解されることになる。

この定理の証明については、いくつか知られているが、ここでは説明しない。
 
1 この時のガウスの証明は完全ではなかったが、後年に3つの異なる証明を与えている。
2 多項式P(x)の根は、方程式P(x)=0の解である。
3 「根」と「解」については、一般的には、重根を区別する場合には「根」、区別しない場合には「解」が使用されている(多項式には「根」、方程式には「解」と使い分けているケースもある)ようである。

1のn乗根

べき乗して1になる数のことを1の「冪根」又は「累乗根」と呼んでいる。特に、n次方程式  zn-1=0 の解(即ち、n乗して1になる数)を「1の n 乗根」といい、それは以下のn個の複素数となる(これは、前回の研究員の眼で紹介したド・モアブルの定理により、導かれる)。 
1のn乗根
この1のn乗根については、以下のことが成り立つ。

・複素数平面上では、これらは単位円に内接する正n角形の頂点となる(即ち、単位円周上に等間隔で並ぶ)。

・1のn乗根の合計は0である。

・任意の1のn乗根αについて、となる。

具体的には、n=5の場合、以下のようになる。

5つの根は、
n=5の場合
さらに、複素数 z=r(cos θ+i sin θ)のn乗根は、
複素数 z=r(cos θ+i sin θ)のn乗根
で与えられることになる。

二次方程式の解の公式(複素数係数の場合の一般化)

高校時代に学んだように、二次方程式(a、b、cは実数)の解は、
二次方程式の解
となる。ここで、ルートの中の値がマイナスとなる場合、その解は虚数となる(殆どの人にとって、この二次方程式の解の公式において、初めて虚数なるものに出会うことになる)。

この二次方程式の解については、判別式(discriminantD=b2-4ac  に基づいて、以下の通りとなる。

・D>0の時、異なる2個の実数解を持つ。
・D=0の時、実数の重解を持つ。
・D<0の時、異なる2つの(互いに共役な)虚数解を持つ。 

さて、上記においては、方程式の係数は実数としていた。それでは、係数が虚数(実数ではない複素数)の場合の二次方程式の解の公式の取扱はどうなるのだろうか。

複素係数の二次方程式(α、β、γは複素数)を考える。代数学の基本定理により、この方程式にも2つの複素根が存在している。

ところが、上記の解の公式をそのまま当てはめてしまうと、ルートの中に(実数係数の場合の実数とは異なり)虚数が現れてくることにもなる。

従って、この場合には、ルートの中の数字の状況によっては、上記の解の公式がそのままでは使用できないことになる。

ただし、この場合にも実数係数の二次方程式の解の公式を導き出すのと同様の考え方を適用していくことで、例えば以下の解の公式を導き出すことができる。
実数係数の二次方程式の解の公式
ここで、Re(δ)はδの実数部、|δ|はδの絶対値(複素数δとその共役複素数の積の平方根)で、δが実数であれば、これは通常の二次方程式の解の公式に一致することになる。

なお、二次方程式の解の公式の研究については、紀元前の古代ギリシアのユークリッド(Euclid)やそれ以前にまで遡るが、ゼロの概念が無かったことや、17世紀まで負の数が認められなかったため、負の数を回避する形式で制限的なものであった。7世紀のインドの数学者であるブラフマグプタ(Brahmagupta)は、その著書の中で二次方程式の解の公式を言葉で明示していた。

今日知られている形式での二次方程式の解の公式は、ルネ・デカルト(René Descartes)の1637年の著書『La Géométrie』(幾何学)において見られた。

三次方程式の解

さて、ここでは、前回の研究員の眼でも説明したように、虚数や複素数の概念の導入の契機となった三次方程式の解に関する話題について、述べておく。

古代バビロニアにおいて既に代数的解法4が発見されていたと考えられている二次方程式と違い、三次方程式の代数的解法については、(前回の研究員の眼で簡単に触れたように)シピオーネ・デル・フェッロ(Scipione del Ferro)とニコロ・フォンタナ(通称タルタリア)(Niccolò Fontana "Tartaglia")による解法に基づいて、ジェラロモ・カルダノ(Gerolamo Cardano)が1545年の著書『Ars Magna(アルス・マグナ)』において、三次方程式の解の公式(併せて、ルドヴィコ・フェラーリ(Ludovico Ferrari)による四次方程式の代数的解法)を公表してからだった。

三次方程式は、代数学の基本定理により、高々3つの複素数解を有する。

この3つの複素数解については、以下のことが成り立つ(ここでは、結果のみを示しておく)。


実数を係数とする三次方程式
実数を係数とする三次方程式
については、以下の判別式D
判別式D
に基づいて、以下の通りとなっている。

・D > 0 の時、相異なる3個の実数解を持つ。
・D < 0 の時、1個の実数解と1組の共役な虚数解を持つ。
・D = 0 の時は、実数の重解を持つ。

D=0の時は、さらに
D=0の時
に基づいて、

・Δ2 = 0 の時、三重解を持つ。

・Δ2 ≠ 0 の時、1個の二重解と実数解を1個持ち、以下の通りとなる。
Δ2 > 0 の時(二重解)<(もう一つの実数解)
Δ2 < 0 の時(二重解)>(もう一つの実数解)

なお、三次方程式の3つの解α1、α2、α3については、以下が成り立つ。

α1+α2+α3=-a2/a3、α1α2+α2α3+α3α1= a1/a3、α1α2α3=-a0/a3
 
4 「代数的解法」とは、係数に対する四則演算と冪根をとる操作の有限回の組合せ、による解法。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年05月28日「研究員の眼」)

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