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住宅ローン利用者は金利上昇に対してどのように備えるべきか
基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.308]

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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1―変動金利型から固定金利型への借換えは金利上昇に対して有効な対応策になりえるか
そのため、通常は金利上昇する際は短期金利よりも長期金利の方が早く上昇する。住宅ローンの適用金利は金融市場の動向に応じて各金融機関が決定するが、変動金利型よりも固定金利型の方がより長期の金利水準を参照して決定されるのが通例である。金利上昇に対して「借換え」が有効になるには、金利上昇する前に実行する必要がある点に留意する必要がある。特に日本の場合は、金融政策が正常化される場合には、先にイールドカーブコントロールの解除によって長期金利が上昇し、次にタイムラグをもってマイナス金利政策が解除されることで短期金利が上昇するものと考えられるため、変動金利型から固定金利型への借り換えを金利上昇への備えとする場合、少なくともイールドカーブコントロールが解除される前に実行するべきである。
3つ目の理由として「住宅ローンの利用者は金利上昇リスクをヘッジする手段に乏しいこと」が挙げられる。2つ目に将来の金利上昇を予測するのが難しい点に言及したが、住宅ローンを提供する金融機関はデリバティブ(例:金利スワップや国債先物など)等の金融商品を用いて機動的に金利リスクをヘッジすることはいくらか可能であるが、一般的に住宅ローンの利用者が金利上昇リスクをヘッジできる金融商品を購入・選択するのは困難である。そのため、住宅ローンの利用者がとりえるリスクヘッジの手段として、あらかじめ固定金利型を全てまたは一部を借り入れるか、預貯金などでリスクバッファを確保して繰り上げ返済に備えておくぐらいしか選択肢がない。
2―金利上昇シナリオにおける繰り上げ返済に関するシミュレーション
まずは、元利均等返済で変動金利型住宅ローン( 適用金利:0.4%)を取り組んだ前提で、3,000万円、4,000万円、5,000万円、6,000万円の借入額がある場合の月々の返済額を計算する。この場合、順におよそ7.7万円、10.2万円、12.7万円、15.3万円となる。
次に、住宅ローン契約締結から適用金利に変更がない状況で5年間返済した後に各シナリオが発現したものとして、6年目からの毎月の返済額がどの程度増えるのか試算するとともに、適用金利が上昇しても返済額をそれまでと同額に維持するのに必要な繰り上げ返済額を試算する。繰り上げ返済には、借入期間を変更しない「返済額軽減型」を採用する。
例えば、変動金利型住宅ローンで3,000万円借り入れ、ちょうど5年目に各(1)~(3)のシナリオにおける金利上昇が生じた場合、6年目以降の返済額は(1)8.2万円、( 2)8.8万円、( 3)10.1万円になる。返済額の増加率は借入額が違ったとしても一定である。また、6年目以降も返済額を7.7万円に維持しようとする場合は、6年目の返済が始まる際に(1)182万円、( 2)347万円、( 3)633万円の繰り上げ返済を行えばよいことになる。これらは借入額が違ったとしても、当初借入額との比率は一定である。住宅ローンを借り入れた以降に、これらの繰り上げ返済に必要な額を積み立てていく場合は、それぞれ毎月(1)3万円、( 2)5.8万円、( 3)10.5万円を預貯金などでリスクバッファとして確保していくことが必要になる。住宅ローン利用者が金利上昇に備えていく場合は、このような負担の増加に関する条件を踏まえた上で、どれぐらいの額の繰り上げ返済が可能か、毎月の返済額が増えるのをどの程度受け入れるのか、といった事情を考慮しつつ各家計にとって最適なバランスを選択していくことになる。
3―各個人の将来の目標を実現できるような家計管理を
仮に日本銀行が金融正常化に踏み切る場合、長短金利差を確保する観点で、先にイールドカーブコントロールを解除して長期金利を適正水準に戻した後に、マイナス金利政策を解除して短期金利を利上げしていくことになると予想されるため、マイナス金利政策の解除にはタイムラグがある。借換えで対応するのであれ、繰り上げ返済で対応するのであれ、このタイムラグの生かし方が重要になってくる。もし借り換えで対応するのであれば、イールドカーブコントロールが解除される前に実行すべきである。繰り上げ返済で対応するのであれば、あらかじめ返済原資を確保しておく必要がある。どちらで対応するにしても、将来の支出に対して家計を見直していくことも重要となる。
このような市場環境をきっかけとして、金利上昇への備えについて検討しておくことは家計のリスク管理という意味で大切なことだと思われる。メインシナリオ通りの未来が実現し続けるのであればリスク管理も容易だが、現実的にはリスクシナリオにもない想定しなかった事態が起こりえる。住宅ローンを提供するような規模の大きな金融機関とは異なり、個人の資産や負債は規模が小さく大数の法則が働きにくいため、将来の人生設計に関わる資産形成や住宅ローンの借り入れなどでは、可能であればある程度のリスクシナリオが発現しても各個人の目的(例:「老後まで住み続ける」など)が達成できるようなより慎重な家計管理を採用すべきだと考える。本稿の分析が、住宅ローンを借り入れる個人の家計管理に寄与できるのであれば幸いである。
(2022年11月08日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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