2022年10月21日

物価高進行下の消費者の状況-低収入層や子育て世帯で負担感強、高収入層は海外ブランド品や不動産で実感

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3ライフステージ別の状況~中学生のいる世帯では収入減少層が比較的多く、物価高の負担感が強い
ライフステージ別に見ても、圧倒的に「食料品が値上がりしているから」が多く、9割前後を占める(図表6(b))。その他の項目についても、高年齢者の多い層を中心に光熱費の値上がりや「実質値上げ」が多くあがるなど、年代別に見た結果と同様の傾向を示している。

なお、第一子中学校入学では「なんとなく」や「その他」を除く全ての項目で全体を上回っており、多方面から物価上昇を実感している。特に「日用品が値上がりしているから」(84.8%、全体より+15.2%pt)や「ガソリン代が値上がりしているから」(74.2%、同+12.9%pt)、「外食代が値上がりしているから」(37.9%、同+11.1%pt)では全体を10%pt以上上回る。この背景には「家族の給与や事業などの収入が減り、使えるお金が減ったから」(16.7%、同+8.0%pt)や「自分の給与や事業などの収入が減り、使えるお金が減ったから」(15.2%、同+7.5%)など世帯収入が減少している層が他年代と比べて多いことも影響しているのだろう。なお、第一子中学校入学では40歳代が比較的多い(62.8%、同+41.6%pt)。

このほか、第一子小学校入学では、住居購入を検討する層も多いためか、「不動産価格が値上がりしているから」(13.4%、同+7.4%pt)が多いなど、ライフステージに特徴的な傾向もうかがえる。

なお、未婚・独身では「物価上昇についての報道をよく目にするようになったから」や「海外のメーカーやブランドの商品が値上がりしているから」、「その他」を除くと、いずれも全体を下回り、他のライフステージと比べて日常的な消費行動で物価上昇を実感する機会が少ない様子がうかがえる。
4職業別の状況~専業主婦で生活必需品、経営者でガソリン代・外食費・海外ブランド品の値上げなど
職業別に見ると、首位は経営者・役員では「ガソリン代が値上がりしているから」(77.8%、全体より+16.5%pt)だが、その他は、いずれも「食料品が値上がりしているから」であり、9割前後を占め、特に専業主婦・主夫(96.4%、同+7.1%pt)で多い(図表6(c))。なお、経営者・役員では2位が「食料品が値上がりしているから」(75.0%、同▲14.3%pt)だが、全体を大幅に下回る。

このほか職業別に見て特徴的な点としては、専業主婦・主夫では、女性で見られたように生活必需性の高い品目の値上がりや「実質値上げ」など、自営業・自由業では「光熱費が値上がりしているから」(68.8%、同+11.0%pt)、経営者・役員(36.1%、同+9.3%pt)や自営業・自由業(33.0%、同+6.2%pt)では「外食代が値上がりしているから」、経営者・役員では「海外のメーカーやブランドの商品が値上がりしているから」(19.4%、同+7.8%pt)や「不動産価格が値上がりしているから」(13.9%、同+7.9%pt)が多いことなどがあげられる。

また、無職・学生等では「外食代が値上がりしているから」や「なんとなく」、「その他」以外の項目では、いずれも全体を下回り、他の職業と比べて物価上昇を実感する機会が少ない様子がうかがえる。
5個人・世帯年収別の状況~高収入層ほど日常的に物価上昇を実感する機会が少ないが高額品で多い
個人年収別に見ると、これまでに見たほど特徴的な傾向は見られないが、比較的高年収層で生活必需性の高い品目の値上がりや「実質値上げ」、家族の収入減少が少ない傾向がある(図表6(d))。また、個人年収1,000万円以上では「自分の給与や事業などの収入が減り、使えるお金が減ったから」(3.9%、全体より▲5.3%pt)や「家族の給与や事業などの収入が減り、使えるお金が減ったから」(0.0%、同▲7.2%pt)が少ないため、コロナ禍等による収入減少への影響が小さい様子がうかがえる。一方で、個人年収1,000万円以上では日頃から高額消費に積極的なためか、「海外のメーカーやブランドの商品が値上がりしているから」(15.7%、同+4.1%pt)や「不動産価格が値上がりしているから」(9.8%、同+3.8%pt)がやや多いことも特徴的である。

世帯年収別に見ると、個人年収別に見られた傾向が、より顕著に分かる(図表6(e))。高収入世帯として1,500~2,000万円未満に注目すると(世帯年収2,000万円以上は参考値)、特に「光熱費が値上がりしているから」(45.5%、全体より▲12.3%pt)や「外食代が値上がりしているから」(15.2%、同▲11.6%pt)、「食料品が値上がりしているから」(78.8%、同▲10.5%pt)で全体を10%pt以上下回って少ない一方、「海外のメーカーやブランドの商品が値上がりしているから」(18.2%、+6.6%pt)は全体と比べて多い。
6購買意識別の状況~費用対効果志向は「実質値上げ」、高品質志向は海外ブランド品の値上がり
購買意識別に見ると、費用対効果志向(「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」にあてはまると回答した層)の高い層では「価格は同じでも内容量が減った商品が増えたから」(58.7%、全体より+6.3%pt)、高品質志向(「普及品より、多少値段がはってもちょっといいものが欲しい」にあてはまると回答した層)の高い層では「海外のメーカーやブランドの商品が値上がりしているから」(18.7%、同+7.1%pt)が多く、購買意識の特徴が如実にあらわれている(図表6(f))。

5――物価高を実感して取った行動

5――物価高を実感して取った行動~要品の購入控えやポイント等の活用は皆共通

1|全体の状況~不要品の購入控えが圧倒的、ポイント活用が約半数、低価格製品への乗り換えは約3割
1年前と比べて日本国内の物価が上昇したとの回答者に対して、物価高を実感したことで取った行動について尋ねたところ、圧倒的に多いのは「できるだけ不要なものは買わない」(66.9%)であり、次いで「ポイントやクーポンなどを活用する」(45.5%)、「食料品(や日用品)などの生活必需品は、より価格の安い製品へ乗り換える」(33.1%)、「セールやアウトレットなどを利用する」(25.8%)、「家計の見直し」(25.1%)、「外食を減らす」(25.0%)、「洋服や装飾品を買い控える」(21.2%)、「修理するなどして、できるだけ長く使えるものは使い続ける」(16.6%)、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」(15.5%)、「貯蓄を切り崩す」(10.1%)までが1割台で続く(図表7)。なお、「特に何もしていない」も15.5%を占めて、やや目立つ。

物価高が進行する中で、報道等では商品やサービスへの価格転嫁(値上がり)の状況について注目しがちだが、物価高を実感した消費者の取る行動としては、圧倒的に不要品を買わないこと(約7割)であり、低価格製品への乗り換えは約3割にとどまる。また、低価格製品への乗り換えをポイントやセールの活用が上回っていることから、消費者の取る行動としては、まず、不要品の購入控え、次に、普段購入している商品やサービスを低価格に抑える工夫をし、その上で他の低価格製品への乗り換えを検討するという段階を経ることが考えられる。
図表7 日本国内の物価上昇を実感して取った行動(複数選択、n=2,215)
2性年代別の状況~女性は多方面で支出抑制、高年齢層ほど不要品や娯楽支出抑制や貯蓄切り崩し
性年別に見ても、「できるだけ不要なものは買わない」や「ポイントやクーポンなどを活用する」、「食料品などの生活必需品は、より価格の安い製品へ乗り換える」が上位を占める(図表8(a))。

男女を比べると、「特に何もしていない」(男性22.8%、女性8.7%、男性が女性より+14.1%pt)を除けば、いずれも女性が男性を上回か、同程度である。女性では「ポイントやクーポンなどを活用する」(男性35.9%、女性54.5%、女性が男性より+18.6%pt)や「できるだけ不要なものは買わない」(同58.5%、同74.7%、同+16.2%pt)、「洋服や装飾品を買い控える」(同13.0%、同28.9%、同+15.9%pt)、「食料品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」(同27.8%、同38.0%、同+10.2%pt)で1割以上、「セールやアウトレットなどを利用する」(同21.5%、同29.9%、同+8.4%pt)で約1割、男性を上回る。

つまり、男女とも物価高への主たる対応は不要品の購入控えやポイント等の活用、低価格製品への乗り換えだが、男性では特に何もしない層が約4分の1存在する一方で、女性では、妻が家計の主導権を握る家庭も多いためか、洋服など必需性の低い支出の抑制やセールの利用など多方面で支出を抑制する工夫を行っているようだ。

年代による違いを見ると、年齢が高いほど「できるだけ不要なものは買わない」のほか、「外食を減らす」や「洋服や装飾品を買い控える」、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」などの必需性の低い(娯楽関連の)支出の抑制、「貯蓄を切り崩す」が多い傾向があり、70~74歳ではいずれも全体を+5%以上上回る。また、70~74歳では「修理などして、できるだけ長く使えるものは使い続ける」(31.1%、全体より+14.5%pt)も多い。一方、年齢が低いほど「家計の見直し」が多く、20歳代(30.2%、同+5.1%pt)では約3割を占める。また、20歳代では「シェアリング・サービスを利用する」(7.1%、同+5.1%pt)も多い。

つまり、年代によらず物価高への主たる対応は不要品の購入控えやポイント等の活用、低価格製品への乗り換えだが、これまでの人生で多くのモノや金融資産を保有している高年齢層では不要品や娯楽関連の支出抑制や貯蓄を切り崩すこと、資産の少ない若い年代では家計の見直しによる対応が比較的多いことが特徴的である。
図表8-1 属性別に見た日本国内の物価上昇を実感して取った行動(複数選択)
図表8-2 属性別に見た日本国内の物価上昇を実感して取った行動(複数選択)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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