2022年10月21日

物価高進行下の消費者の状況-低収入層や子育て世帯で負担感強、高収入層は海外ブランド品や不動産で実感

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~物価高の進行で家計負担増、現在の消費者意識や行動は?

物価高が進行し、家計の負担が増している。昨年半ばから、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の上昇率は前年同月比を上回るようになり、足元では2.8%まで上昇している(図表1)。一方で既に川上段階の輸入物価指数は42.5%、国内企業物価指数は9.0%まで上昇しており、価格転嫁が一層、進むことで、川下段階の消費者物価の上昇が続く懸念は強い1。また、消費者物価は消費者の購入頻度が高い商品ほど上昇しており、総合指数で見る以上に消費者の負担感は強いだろう(図表2)。

このような中で本稿では、ニッセイ基礎研究所の実施した調査2を用いて、消費者の物価高に対する意識や行動について、性年代やライフステージ、購買意識等による違いを見ながら捉えていく。
図表1 消費者物価指数及び国内企業物価指数、輸入物価指数(いずれも前年同月比)/図表2 購入頻度別に見た消費者物価指数(前年同月比)
 
1 ニッセイ基礎研究所では、9月の時点では消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は2022年10-12月期(前年同期比2.9%)をピークに低下し、2023年度には2%を下回る見通しを立てている(斎藤 太郎「2022・2023年度経済見通し-22年4-6月期GDP2次速報後改定」、ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター(2022/9/8))
2 調査時期は2022年9月27日~10月3日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,557。

2――1年前と比べた日本国内の物価に対する意識~

2――1年前と比べた日本国内の物価に対する意識~高齢層やコスパ意識の高い層ほど物価上昇を実感

1|全体及び性年代別の状況~86.6%が物価上昇を実感、年齢が高いほど実感しており60歳以上で9割超
1年前と比べた現在の日本国内の物価について尋ねたところ、全体(20~74歳)で圧倒的に多いのは「上がった」(66.2%)であり、「上がった」と「やや上がった」(20.4%)をあわせた上昇層は86.6%を占める(図表3)。前述の通り、実際に消費者物価指数は上昇しており、消費者の意識にも如実にあらわれている。

性年代別に見ても、圧倒的に多いのは「上がった」であり、上昇層は男女とも8割を超える(男性84.6%、女性88.6%)。また、上昇層は年齢が高いほど多く、20歳代(70.4%、全体より▲16.2%pt)では約7割だが、60歳代(96.1%。同+9.5%pt)や70~74歳(99.4%、同+12.8%pt)では9割を超えて全体を1割前後、上回る。
図表3 性年代別に見た1年前と比べた現在の日本国内の物価に対する意識
2他の属性別の状況~高齢層の多いライフステージやコスパ意識の高い層で物価上昇をより実感
属性別に見ると、上昇層は、ライフステージが「第一子独立」(95.3%、全体より+8.7%pt)や孫誕生(94.2%、同+7.6%pt)、「末子独立」(93.9%、同+7.3%pt)といった比較的高年齢層の多いライフステージのほか、「第一子高校入学」(92.3%、同+5.7%pt)で多い一方、「第一子誕生」(73.6%、同▲13.0%pt)で少ない(付属図表1)。

また、上昇層は、購買意識で費用対効果志向の高い層(「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」にあてはまると回答した層)で多い(92.9%、同+6.3%pt)。なお、上昇層は、低価格志向の高い層(「メーカーにこだわらず、とにかく安くて経済的なものを買う」にあてはまると回答した層)では90.2%と費用対効果志向の高い層をやや下回っている。低価格志向の高い層は価格の変動に敏感なようだが、費用対効果を吟味する層の方が、物価上昇の感度はやや高いようだ。なお、低価格志向の高い層の性年別の分布は全体と同様だが、費用対効果志向の高い層では60歳以上(37.1%、全体31.6%より+5.5%pt)が比較的多い。

3――物価上昇を実感しはじめた時期

3――物価上昇を実感しはじめた時期~3カ月以内が約半数、40歳代は1年以前など比較的早期から実感

1全体及び性年代別の状況~47.4%が3カ月以内で高齢層で多い、40歳代は比較的早期から実感
1年前と比べて日本国内の物価が上昇したとの回答者に対して、物価の上昇を実感しはじめた時期について尋ねたところ、全体(20~74歳)で最も多いのは「半年ほど前から」(31.6%)であり、次いで僅差で「3カ月ほど前から」(29.7%)が続く(図表4)。なお、「3カ月ほど前から」と「最近」をあわせた3ヶ月以内は47.4%、これに「半年ほど前から」をあわせた半年以内は79.0%を占める。

性年代別に見ても「半年前から」や「3カ月ほど前から」の選択割合の高さが目立つ。3ヶ月以内は男性では46.7%、女性では48.1%であり、年代別には40歳代(41.0%、全体より▲6.4pt)を底に、年齢が高いほど増え、70~74歳(59.2%、同+11.8%pt)で最も多い。

一方、「1年ほど前から」と「1年以上前から」をあわせた1年以前は40歳代(23.9%、全体18.1%より+5.8pt)を中心に多く、高年齢層(70~74歳11.5%、同▲6.6%pt、60歳代13.4%、同▲4.7%pt)で少ない傾向がある。

つまり、40歳代では他年代と比べて比較的早期に物価上昇を実感し始めているようだ。
図表4 性年代別に見た日本国内の物価上昇を実感しはじめた時期
2他の属性別の状況~40歳代の多いライフステージや年収帯で比較的早期から実感
属性別に見ると、3ヶ月以内との回答は、ライフステージ別には「第一子独立」(55.2%、全体より+7.8%pt)や「孫誕生」(53.2%、同+5.8%pt)といった比較的高年齢層の多いライフステージで多い一方、「第一子大学入学」(39.0%、同▲8.4%pt)で少ない(付属図表2)。なお、「第一子大学入学」では1年以前が24.7%(全体より+6.4%pt)を占めて多い。

また、3ヶ月以内との回答は、世帯年収「1,200~1,500万円未満」(53.3%、同+5.9%pt)で多く、世帯年収「1,500~2,000万円未満」(39.4%、同▲8.0%pt)や個人年収「600~800万円未満」(41.1%、同▲6.3%pt)で少ない。

なお、60歳代は世帯年収「1,200~1,500万円未満」(32.4%、全体25.2%より+7.2%pt)や「1,500~2,000万円未満」(35.0%、同+9.8%pt)で、40歳代は「第一子大学入学」(47.7%、全体21.2%より+26.5%pt)や個人年収「600~800万円」(33.5%、同+12.3%pt)で多いなど、性年代別に見た結果とおおむね一致する。

4――物価高を実感した理由

4――物価高を実感した理由~専業主婦や高齢層で生活必需品の値上げ、高収入層で海外ブランド品

1全体の状況~生活必需品の値上がりや価格据え置きで内容量を減らす「実質値上げ」、報道の影響も
1年前と比べて日本国内の物価が上昇したとの回答者に対して、その理由を尋ねたところ、全体(20~74歳)で圧倒的に多いのは「食料品が値上がりしているから」(89.3%)であり、次いで「日用品が値上がりしているから」(69.6%)、「ガソリン代が値上がりしているから」(61.3%)、「物価上昇についての報道をよく目にするようになったから」(60.3%)、「光熱費が値上がりしているから」(57.8%)、「価格は同じでも内容量が減った商品が増えたから」(52.4%)までが半数を超えて続く(図表5)。このほか、「外食代が値上がりしているから」(26.8%)も2割を超えて、やや目立つ。

つまり、消費者は食料品や日用品、光熱費などの生活必需性の高い品目の値上がりや価格据え置きで内容量を減らす「実質値上げ」によって物価高を実感しており、報道の影響も大きいようだ。
図表5 日本国内の物価上昇を実感した理由(複数選択、n=2,215)
2性年代別の状況~女性や高齢層で「実質値上げ」や生活必需品の値上げ、若い年代で報道の影響も
性年代別に見ても、圧倒的に「食料品が値上がりしているから」が多く、8~9割を占める(図表6(a))。

男女を比べると、女性では「価格は同じでも内容量が減った商品が増えたから」(男性44.5%、女性59.7%、女性が男性より+15.2%pt)や「日用品が値上がりしているから」(同63.6%、同75.3%、同+11.7%pt)で1割以上、「食料品が値上がりしているから」(同84.4%、同93.9%、同+9.5%pt)で約1割、「物価上昇についての報道をよく目にするようになったから」(同57.1%、同63.2%、同+6.1%pt)や「光熱費が値上がりしているから(同55.0%、同60.4%、同+5.4%pt)で5%pt以上、男性を上回る。

つまり、女性は男性と比べて「実質値上げ」のほか、食料をはじめとした生活必需性の高い品目の値上がりによって物価高を強く感じているようだ。

年代による違いを見ると、40歳代では「日用品が値上がりしているから」(75.3%、全体より+5.7%pt)、60歳代では「ガソリン代が値上がりしているから」(67.9%、同+6.6%pt)、20歳代では「物価上昇についての報道をよく目にするようになったから」(70.3%、同+10.0%pt)、50歳以上では「光熱費が値上がりしているから」(50歳代63.3%で同+5.5%pt、60歳代67.4%で同+9.6%pt、70~74歳72.0%で同+14.2%pt)、70~74歳では「価格は同じでも内容量が減った商品が増えたから」(62.8%、同+10.4%pt)が多い。なお、「光熱費が値上がりしているから」や「価格は同じでも内容量が減った商品が増えたから」は年齢が高いほど多い。

つまり、比較的若い年代では物価高関連の報道、40歳代では日用品の値上がり、年齢が高いほど光熱費の値上がりや「実質値上げ」で物価高を強く感じている傾向がある。
図表6-1 属性別に見た日本国内の物価上昇を実感した理由(複数選択)
図表6-2 属性別に見た日本国内の物価上昇を実感した理由(複数選択)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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