2022年10月18日

人口減少社会の到来(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(54)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

文字サイズ

1――中国当局が認めた「今後3年以内に人口が減少しはじめ、10年前後で3人に1人が高齢者(60歳以上)の社会になる」という事実。

中国における少子化、高齢化が加速している。中国の国家衛生健康委員会は、8月、中国共産党中央委員会による機関誌『求是』において「新時代の人口事業に関する新しい一章をつづる」とした文章1を発表した。そこでは、第14次5か年計画の期間中である2025年までに中国の人口が減少に転じる見通しとした。これは中国政府が人口減少を初めて認めたものであり、少子化が厳しい局面にあることがうかがえる。また、国務院が「高齢化対策の強化と推進に関する状況報告」2にて、高齢者数は2025年までに3億人を突破、総人口の20%以上を占め、2035年までには4.2億人まで増加し、総人口の30%以上を占めるとの見通しも発表した。今後、総人口の減少から3人に1人が高齢者となる社会へはわずか10年ほどで到達することになる。

中国政府の発表に先立つ7月には、国連が新たに世界の人口推計を発表している3。それによると、2023年には人口が減少に転じると推計している(中位推計)。高齢者が総人口の20%以上を占めるのがその翌年の2024年(中位推計(20.53%)、低位推計(20.61%))、30%を超えるのが2035年(中位推計(30.31%)または2034年(低位推計(30.48%))とした(図表1)。また、2021年の中国の合計特殊出生率4については1.16と推計している。中国政府は2020年時点で合成特殊出生率が1.3であることを発表しているが、2021年については公表していない。各国の統計と国連の推計は異なることもあるが、今回の国連の統計に基づけば、2021年の中国の合計特殊出生率は更に低下し、少子化が更に進展していることになる。
図表1 60歳以上の高齢者が総人口に占める割合(中位・低位推計)
 
1 中国国家衛生健康委員会党組「譜写新時代人口工作新編章」求是網、http://www.qstheory.cn/dukan/qs/2022-08/01/c_1128878530.htm 2022年10月5日アクセス
2 「国務院関于加強和推進老齢工作進展情況的報告」 中国人大網、http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202208/889a7e67a7794176b3a718f972447cac.shtml
2022年10月5日アクセス
3 UN,World Population Prospects 2022, https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/
2022年10月5日アクセス
4 合計特殊出生率は一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する(厚生労働省)。

2――少子化の背景にある婚姻率の低下

2――少子化の背景にある婚姻率の低下、すすむ晩婚化、「結婚は人生で必須ではない」の非婚化の出現

李・張(2022)によると、人口学では、ある社会の出生率を決める直接要因は有配偶率、有配偶者の出生力、および非嫡出子の比率であるとしている5。また、日本や中国など東アジアでは非嫡出子の比率がきわめて少ないため、出生率は有配偶率と有配偶者の出生数によってほぼ決まるとし、日本の出生率の低下には未婚化、晩婚化(有配偶率の低下)が大きく影響しているとしている。

参考として、中国では婚姻率が急速に低下する一方、離婚率6は緩やかに上昇している。また、晩婚化に加えて、主体的に結婚しないことを選択する非婚化に向けた状況も出現し始めている。2010年から2021年のおよそ10年間の婚姻、離婚の状況をみると、若年層を中心とした生産年齢人口の減少などからも、婚姻数は2013年の1347万組をピークに減少しており、直近の2021年時点では2013年のおよそ4割減の764万組まで減少している(図表2)。また、各年の婚姻率(‰)についても2013年の9.9から2021年は5.4まで低下している。一方、離婚数、離婚率は2020年まで緩やかに上昇している。2021年については離婚数、離婚率とも低下しているが、これには新型コロナウイルスによる婚姻に対する考え方への影響に加えて、同年から離婚手続きに新たに設けられた「冷静期間」(30日)による効果が指摘されている7

また、晩婚化については、2020年の初婚の平均年齢が28.67歳(男性が29.38歳、女性が27.95歳)と10年前と比較して4歳ほど上昇している8。図表3は2010年、2021年に提出された結婚届の年齢構成であるが、およそ10年間で、20代での提出は全体の69.5%から51.8%とおよそ2割も減少し、主力は20代前半から20代後半に移行した。2021年をみると、30歳以上が48.2%とおよそ半数を占めるようになり、その中でも30代前半が2010年より8.7ポイント増、40歳以上も6.6ポイント増と年齢が上昇していることがわかる。民生部のデータでは再婚がどれくらい含まれているかは不明であるが、離婚の増加とともに再婚も増加している可能性も考えられる。
図表2 中国における結婚・離婚の状況(2010-2021)/図表3 婚姻届の年齢構成(2010年/2021年)
一方、非婚化についても、片山(2022)で論じたように、働く女性が置かれた環境は厳しさを増している9。結婚したくない理由として、「結婚は人生において必須ではない」とする考え方が働く世代の男女ともに出現し、特に女性において顕著となっている。労働参加率、労働時間、稼得給与、キャリア形成における競争は性別で大きな差がないのにもかかわらず、育児、家事負担などは男性より女性に数倍重くのしかかる状況にある10。少子化や出生数の減少には、育児にかかる高額な教育費や住宅といった経済的な問題が注目されがちである。しかし、これまでの育児や家事のジェンダー化に加えて、昨今では政府による塾や習い事の規制強化、子どものしつけの法律化など、子供の教育の家族化も進み、女性への負担はむしろ増している。第三子の出産奨励まで至った状況の中で、伝統的な結婚観や家族化による押しつけは結果的に非婚化を引き寄せかねない。
 
5 李蓮花・張継元(2022)「中国の少子化対策―日韓との比較を踏まえて」『社会保障研究』第6巻第4号、国立社会保障・人口問題研究所、pp.439-453
6 離婚率=当該年の離婚届件数(離婚組数)/当該年の人口数×1000
7 主務官庁である民生部は、離婚手続きについて、これまでの離婚届提出→受理のあとに冷静期間として30日間を設けた。離婚届けを提出後、正式に離婚する場合は、この30日の間に夫婦がそろって再び婚姻登録機関を訪れて審査・離婚証の発行を申請する必要があるとした。申請がなかった場合は離婚手続きを取り消したとみなされることになる。
(参考)人民ネット「離婚冷静期実施から1年後となる2021年の中国における離婚件数が43%減」(2022年3月21日)、http://j.people.com.cn/n3/2022/0321/c94475-9974078.html、 2022年10月13日アクセス
8 2020年の初婚の平均年齢については「中国人口普査年鑑2020」。2010年の初婚の平均年齢は24.89歳で男性が25.7歳、女性が24.0歳であった。
9 片山ゆき(2022)「中国少子化対策のジレンマ-低出生を抜け出すことができるのか」『金融財政ビジネス』2022年4月7日発行号、時事通信社、pp.14-18
10 中国国家統計局「2018年全国時間利用調査公報」では有職者の1日の平均労働時間は7時間41分で、男性は7時間52分、女性は7時間24分であった。また、有職者の家庭における家事、子育て、買い物、子どもの塾や習い事の送り迎えなど無償労働(時間)については、女性が男性の2.5倍。そのうち、1日の家事の平均時間は男性が45分、女性が126分、子育ては男性が17分、女性が53分と女性が男性のおよそ3倍。

3――小さな世帯に大きな負担

3――小さな世帯に大きな負担。家族扶養と社会扶養の法的強制。

2020年の国勢調査によると、中国の平均世帯人数は2.62人と縮小している11。少子化、住宅市場の形成による三世代世帯の減少、都市化にともなう若年層の単独世帯や高齢化に伴う高齢者の単独世帯の増加などが考えらえるが、いずれにしても核家族化が進んでいる。

少子化とともに高齢化が進むことを考えると、高齢者の社会扶養も重要なテーマとなるが、中国は公的介護保険制度の給付を介護度が重度なケースにとどめる傾向にあり、負担の多くがその子女に向かっている。また、「高齢者権益保護法」で、子女や扶養者に対して、高齢者の居住、医療、生活費などの幅広い経済的・物資的な支援、別居をしている場合は日常的な連絡や訪問を義務付けている。高齢者はその子女が扶養義務を履行しない場合、その費用を請求できるともしている。中国では社会扶養という社会保障制度の整備や拡充という方向性は維持しつつ、家族による扶養という道義的な課題を法律で定めるという特徴があり、社会扶養と家族扶養による両輪を義務化している。一方、人口減少の度合いを小さくし、少子化を改善させる出産奨励策は稼働し始めたばかりで、子育て世帯が必要としている支援にはほど遠い状態にある。対策の効果が表れるのはおよそ20年先でもあり、人口減少社会に適応した社会システム、社会保障制度の再構築が重要となる。
 
11 2010年の国勢調査では平均世帯人数は3.10人。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2022年10月18日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【人口減少社会の到来(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(54)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

人口減少社会の到来(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(54)のレポート Topへ