2022年10月11日

ASEANの貿易統計(10月号)~8月の輸出はロックダウンの影響が和らいだ中国向けを中心に回復

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年8月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比23.0%増となり、前月の同15.4%増から再び伸びが加速した(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いている。足元では資源価格が頭打ちして輸出の勢いに陰りが出始めているが、8月はロックダウンの影響が和らいだ中国向けの輸出が回復した。先行きは世界的な高インフレと金融引き締め、欧米の景気減速懸念など外需の悪化懸念はあるが、当面は中国経済の正常化や域内経済の回復により輸出の増加傾向が続くものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、8月は中国向けが持ち直して東アジア向け(中国を含む)が同13.2%増(前月:同6.3%増)と加速した。またEU向けが同36.1%増(前月:同13.8%増)、北米向けが同24.7%増(前月:同15.1%増)となり、それぞれ加速した(図表2)。経済活動の回復が続く東南アジア向けは同39.6%増(前月:同40.1%増)と大幅な増加が続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年8月の輸出額(通関ベース)は前年同月比27.8%増(前月:同9.9%増)の349億ドルと再び伸びが加速した(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比12.8%増(前月:同4.2%増)の310億ドルとなり二桁増となった。結果として、貿易収支が+38.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から37.8億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比9.7%増(前月:同7.6%減)と増加に転じたほか、電気製品・同部品が同16.5%増(前月:同7.0%増)と伸びが加速した(図表4)。アパレル関連では、履物が同173.8%増(前月:同63.6%増)、織物・衣類が同49.9%増(前月:同17.4%増)とそれぞれ好調だった。農林水産物を見ると、カシューナッツ(同13.4%減)が減少したものの、天然ゴム(同7.1%増)や野菜(同19.7%増)が増加に転じたほか、コメ(同40.1%増)やコーヒー(同12.9%増)、水産物(同69.3%増)の好調が続くなど、総じて増加した品目が多かった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同29.9%増(前月:同11.8%増)、地場企業が同21.7%増(前月:同4.9%増)となり、それぞれ伸びが加速した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年8月の輸出額(通関ベース)は前年同月比7.5%(前月:同4.3%増)の236億ドルとなり、伸びが加速した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、増勢は緩やかに鈍化しつつある。また輸入額は前年同月比21.2%増(前月:同23.9%増)の278億ドルとなり、高い伸びが続いた。結果として、貿易収支が▲42.2億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から5.5億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同13.8%増(前月:同2.0%増)と伸びが加速した(図表6)。製造品の内訳を見ると、石油化学製品(同4.6%減)が減少したものの、主要製品である電子機器(同8.3%増)がプラスに転じたほか、機械・装置(同23.5%増)や自動車・部品(同21.7%増)、家電製品(同21.1%増)、金属・鉄鋼(同4.1%増)の増加傾向が続いた。また農産物・同加工品は同5.9%増(前月:同8.9%増)と増加したものの、伸びは鈍化した。天然ゴム(同3.6%減)が減少した一方、加工食品(同22.6%増)とコメ(同19.2%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。他方、鉱業・燃料は同7.5%減(前月:同46.7%増)となり、石油製品(同10.0%減)を中心に減少した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年8月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比40.0%増(前月:同30.7%増)の316億ドルとなり、大幅な伸びが続いた(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比58.3%増(前月:同34.2%増)の278億ドルとなり、輸出を上回る伸びが続いた。結果として、貿易収支が+37.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から2.8億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同39.8%増(前月:同29.2%増)となり、主力の電気・電子製品(同28.0%増)を中心に11カ月連続の二桁増となった(図表8)。また鉱物性燃料は同122.0%増(前月:同73.6%増)と伸びが更に加速した。石油製品(同179.4%増)と天然ガス(同63.3%増)、原油(同96.1%増)はそれぞれ大幅な伸びが続いた。このほか、動植物性油脂(同38.7%増)と化学製品(同11.5%増)は二桁増となったが、ゴム手袋(同65.3%減)はコロナ禍で需要が急増した反動で低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年8月の輸出額(通関ベース)は前年同月比29.9%増(前月:同32.0%増)の278億ドルと大幅な増加が続いているが、伸び率は前月から鈍化した(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により好調が続いている。一方、輸入額は前年同月比32.8%増(前月:同39.8%増)の221億ドルと、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+57.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から14.9億ドル拡大した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同28.4%増(前月:同31.6%増)と伸びが鈍化した一方、石油ガス輸出が同64.5%増(前月:同39.8%増)と伸びが加速した(図表10)。品目別にみると、まず動植物性油脂(同10.2%増)はパーム油の価格下落により増勢が鈍化した一方、電気機械(同44.1%増)や化学製品(同15.0%増)、自動車・同部品(同59.6%増)、機械類(同37.4%増)、鉄・鉄鋼(同28.5%増)、鉱産物(同61.2%増)などが好調だった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年8月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比9.1%増(前月:同4.0%増)の126億ドルとなり、再び伸びが加速した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いているが、今年に入って増勢が弱まってきている。なお、総輸出額が同19.3%増(前月:同25.1%増)の458億ドル、総輸入額が同28.1%増(前月:同28.6%増)の422億ドルとなり、それぞれ大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が+35.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.9億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同6.5%減(前月:同7.2%増)と減少した。(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同10.5%増)が増加したものの、主力のIC(同8.6%減)とディスクメディア(同23.0%減)が落ち込んだ。一方、全体の約3割を占める化学品は同12.5%増(前月:同0.5%増)と大きく増加した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同65.3%増)が大幅に増加したが、石油化学製品(同0.1%減)が前月に続いて減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年8月の輸出額(通関ベース)は前年同月比2.0%減(前月:同4.1%減)の64億ドルとなり、2ヵ月連続で減少した(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いていたが、足元では輸出の回復に一服感がみられる。一方、輸入額は前年同月比26.0%増(前月:同22.2%増)の124億ドルと大幅な伸びが続いた。結果として、貿易収支が▲60.0億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から0.1億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同1.6%減(前月:同7.9%減)と3ヵ月連続で減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同0.1%減)と電子データ処理機(同7.0%減)が引き続き減少した。その他9品目については、その他鉱業品(同23.8%減)と化学品(同9.5%減)、機械・輸送用機器(同2.4%減)がそれぞれ減少した一方、ココナッツオイル(同26.6%増)とその他製造品(同16.5%増)、生鮮バナナ(同5.1%増)、イグニッションワイヤーセット(同4.3%増)、電子機器・部品(同2.1%増)、金属部品(同0.0%増)がそれぞれ増加した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年10月11日「経済・金融フラッシュ」)

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