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中国経済:景気指標の総点検(2022年秋季号)-景気は緩慢ながら持ち直しつつあり、7-9月期成長率は3.3%前後へ

三尾 幸吉郎
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1. 中国経済の概況
一方、インフレ状況を見ると、22年1-8月期の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年同期比6.6%上昇した。しかし、消費者物価(CPI)は同1.9%上昇と低位に留まった。輸送用燃料は同25.1%上昇したものの、食品が同1.2%上昇にとどまった。豚肉価格が同22.8%も下落したからである。しかし、その豚肉も足元では下げ止まり上昇に転じており、ひところより値下がりした原油価格も前年下半期の73ドル前後と比べるとまだ高い。したがって、今後のCPIは来年一時的に3%台に乗せる可能性が高いだろう(図表-3)。
2. 供給面の3指標
3. 需要面の3指標
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると(図表-9)、第2波が襲来する前の1-3月期には前年同期比9.3%増と堅調だったが、4-6月期には同2.9%増(推定1)と急減速した。製造業が同5.3%増(推定)、インフラ投資が同5.7%増(推定)と堅調だったため全体ではプラス圏を維持したが、不動産規制強化の影響が尾を引く不動産開発投資が同11.4%減(推定)と足かせとなった。先行指標となる新規着工も低迷しており、先行きも楽観できない(図表-10)。
輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、ロックダウンで上海港が機能不全に陥った4月には減速したものの、早くも5~7月には2桁増を回復した。しかし、8月には前年同月比7.1%増と減速し、輸出数量は同0.8%減と前年割れに転じた。輸出の先行きは楽観できない。
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
4. その他の4指標と景気の総括
需要面を見ると、8月は3指標が全て“✖”となった。5・6月には消費の代表指標である小売売上高、投資の代表指標である固定資産投資、そして外需の代表指標である輸出の3つが揃って“○”だったが、7月には小売売上高が“✖”に転じ、8月には3つ全てが“✖”となった。他方、供給面の指標は2つが“✖”、1つが“○”だった。5・6月にはGDP成長率との連動性が認められる鉱工業生産、製造業PMI、非製造業PMIの3指標が全て“○”だったが、8月には鉱工業生産と製造業PMIが“✖”に転じ、非製造業PMIだけが“○”を維持している。
その他の指標を見ると、資源・原材料の値下がりを背景に工業生産者出荷価格(PPI)が4ヵ月連続で“✖”となったが、その他の3指標は“〇”となっている。電力消費量はCOVID-19の第2波が猛威を振るった4・5月には“✖”となったが、その後は3ヵ月連続で“〇”だ。但し、工業部門の伸びが鈍いところを見ると(図表-13)、生産活動は盛り上がりに欠けているようだ。道路貨物輸送量は、3~5月には“✖”だったが、その後は3ヵ月連続で“〇”を維持している。但し、3ヵ月前比では上向きながら、前年同月比ではマイナスなため、回復力はまだまだ弱い(図表-14)。通貨供給量(M2)は11ヵ月連続で“〇”を維持している。昨年9月までは中国政府(含む中国人民銀行)が金融を引き締めていたため “✖”が目立ったが、その後は景気支援に転じたため“〇”が続いている(図表-15)。但し、社会融資総量の伸びは依然として鈍く、特に設備投資の先行指標となる中長期融資は8月も前年同月比10.1%増にとどまった。投資意欲の弱さを示している。
最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、実質成長率を推計した「景気インデックス」を確認しておこう(図表-16)。COVID-19の第1波が襲来した20年2月には前年同月比12.2%減に落ち込み、それが峠を越えた20年4月にはプラスに転じ、21年1月には同22.1%増とV字回復を遂げることとなった。その後は中国政府が持続可能性を重視するようになったため緩やかに減速し、21年12月には同3.6%増まで低下したものの、22年1月には回復し始め、第1四半期(1-3月期)の成長率は前年同期比4.8%増と前四半期(4.0%)を上回った。ところが、COVID-19の第2波が襲来すると上海市がロックダウンに追い込まれて景気は失速、第2四半期(4-6月期)の成長率は前年同期比0.4%増に減速することとなった。そして、足もとの景気インデックスは7月も8月も前年同月比3.3%増となった。
第3四半期(7-9月期)の成長率が、その3.3%を上回るとすればインフラ投資がさらに加速した場合だろう。9月のCOVID-19新規感染(含む無症状)は8月よりも低位に抑えられており、中国政府が矢継ぎ早に支援策を打ち出したこともあって加速する環境が整っていたからだ。他方、3.3%を下回るとすれば消費が不振だった場合だろう。9月の中秋節連休では旅行者数・観光収入が前年割れとなったからだ。第3四半期の国内総生産(GDP)は10月18日に発表される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年09月30日「Weekly エコノミスト・レター」)
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