2022年09月30日

中国経済:景気指標の総点検(2022年秋季号)-景気は緩慢ながら持ち直しつつあり、7-9月期成長率は3.3%前後へ

三尾 幸吉郎

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 22年4-6月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比0.4%増と1-3月期(同4.8%増)を大幅に下回ることとなった。季節調整後の前期比では2.6%減(年率換算すれば10%減程度)と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波が襲った20年1-3月期以来9四半期ぶりのマイナス成長となった(図表-1)。
その主因はCOVID-19の第2波が襲来したことだった。1・2月には新規感染が少なく死亡者もゼロだったが、3月になると新規感染が増え始め、3月末には上海市が事実上のロックダウン(都市封鎖)に追い込まれた。その後、4月中旬には新規感染がピークアウトし、4月下旬には死亡者もピークアウトしたため、5月中旬には「復工復産(職場復帰・生産再開)」に動きだし、6月1日には上海市がロックダウンを解除、6月30日には上海ディズニーランドの再開に漕ぎ着けた(図表-2)。このように第1四半期(1-3月期)にはCOVID-19が沈静化し経済活動も順調だったが、第2四半期(4-6月期)には新規感染・死亡者が増えたため経済活動に支障をきたし、成長率を押し下げることとなった。そして、第3四半期(7-9月期)のCOVID-19新規感染は第2四半期よりも遥かに少なく、死亡者もでていない。しかし、共産党大会(開幕は10月16日)が間近に迫る中で、中国政府はちょっとした感染に対しても厳格な防疫管理で対応しており、後述するように景気回復は緩慢なものに留まっている。

一方、インフレ状況を見ると、22年1-8月期の工業生産者出荷価格(PPI)は国際的な資源エネルギー高を背景に前年同期比6.6%上昇した。しかし、消費者物価(CPI)は同1.9%上昇と低位に留まった。輸送用燃料は同25.1%上昇したものの、食品が同1.2%上昇にとどまった。豚肉価格が同22.8%も下落したからである。しかし、その豚肉も足元では下げ止まり上昇に転じており、ひところより値下がりした原油価格も前年下半期の73ドル前後と比べるとまだ高い。したがって、今後のCPIは来年一時的に3%台に乗せる可能性が高いだろう(図表-3)。
(図表-2)COVID-19の新規感染と死亡者/(図表-3)中国の消費者物価

2. 供給面の3指標

2. 供給面の3指標

鉱工業生産(実質付加価値ベース)の推移を見ると(図表-4)、COVID-19の第2波が襲来するまでは、1-2月期が前年同期比7.5%増、3月が同5.0%増と堅調だったが、上海市がロックダウンされた4月には同2.9%減と失速することとなった。その後、復工復産に動き出した5月には前年同月比0.7%増とプラスに転じ、第3四半期(7-9月期)に入ってからは7月が同3.8%増、8月が同4.2%増と同4%前後の伸びを示している。特に主力産業のひとつである自動車の例を見ると(図表-5)、4月には前年同月比46.0%減と落ち込んだものの、第3四半期(7-9月期)に入ってからは前年比3割超の伸びを示している。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)中国の自動車生産
他方、PMIの動きを見ると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)は(図表-6)、第2波が襲来した4月には47.4%と第1波で経済が混乱した20年2月(35.7%)以来の落ち込みとなった。その後上海市がロックダウンを解除した6月には拡張・収縮の境界線となる50%を上回ったが、早くも7・8月には50%を割り込んでしまった。回復力が弱いことを示している。非製造業PMI(非製造業商務活動指数)に関しても(図表-7)、4月には41.9%と20年2月(29.6%)以来の落ち込みとなった。しかし、非製造業は製造業に比べて回復力が強い。6月に拡張・収縮の境界線となる50%を上回ったあと3ヵ月連続で50%を上回っている。予想指数のレベルを見ても(図表-6、7)、製造業が52.3%であるのに対し、非製造業は58.4%とレベルが高く、非製造業は相対的に明るい見通しとなっている。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI(商務活動指数)

3. 需要面の3指標

3. 需要面の3指標

個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、COVID-19の第2波が襲来するまでは、1-2月期が前年同期比6.7%増と堅調だったが、3月にはマイナスに転じ、4月には同11.1%減に落ち込み、5月も前年割れから抜けだせなかった。しかし、上海市がロックダウンを解除した6月には同3.1%増とプラスに転じ、第3四半期(7-9月期)に入ってからは7月が同2.7%増、8月が同5.4%増と、低位ながらも回復基調を維持している。

投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると(図表-9)、第2波が襲来する前の1-3月期には前年同期比9.3%増と堅調だったが、4-6月期には同2.9%増(推定1)と急減速した。製造業が同5.3%増(推定)、インフラ投資が同5.7%増(推定)と堅調だったため全体ではプラス圏を維持したが、不動産規制強化の影響が尾を引く不動産開発投資が同11.4%減(推定)と足かせとなった。先行指標となる新規着工も低迷しており、先行きも楽観できない(図表-10)。

輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、ロックダウンで上海港が機能不全に陥った4月には減速したものの、早くも5~7月には2桁増を回復した。しかし、8月には前年同月比7.1%増と減速し、輸出数量は同0.8%減と前年割れに転じた。輸出の先行きは楽観できない。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)投資の3大セクターの推移
(図表-10)分譲住宅の新規着工面積の推移/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

4. その他の4指標と景気の総括

4. その他の4指標と景気の総括

以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“✖”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表、3ヵ月前と対比)
現在の景気の方向性を表す評価点(〇の数)を見ると、COVID-19の第2波が襲来した4月には景気が減速していることを示す2点(10点満点)に低下したが、6・7月には景気が回復していることを示す9点・8点に上昇し、8月にはその勢いが一服したことを示す4点となった。

需要面を見ると、8月は3指標が全て“✖”となった。5・6月には消費の代表指標である小売売上高、投資の代表指標である固定資産投資、そして外需の代表指標である輸出の3つが揃って“○”だったが、7月には小売売上高が“✖”に転じ、8月には3つ全てが“✖”となった。他方、供給面の指標は2つが“✖”、1つが“○”だった。5・6月にはGDP成長率との連動性が認められる鉱工業生産、製造業PMI、非製造業PMIの3指標が全て“○”だったが、8月には鉱工業生産と製造業PMIが“✖”に転じ、非製造業PMIだけが“○”を維持している。

その他の指標を見ると、資源・原材料の値下がりを背景に工業生産者出荷価格(PPI)が4ヵ月連続で“✖”となったが、その他の3指標は“〇”となっている。電力消費量はCOVID-19の第2波が猛威を振るった4・5月には“✖”となったが、その後は3ヵ月連続で“〇”だ。但し、工業部門の伸びが鈍いところを見ると(図表-13)、生産活動は盛り上がりに欠けているようだ。道路貨物輸送量は、3~5月には“✖”だったが、その後は3ヵ月連続で“〇”を維持している。但し、3ヵ月前比では上向きながら、前年同月比ではマイナスなため、回復力はまだまだ弱い(図表-14)。通貨供給量(M2)は11ヵ月連続で“〇”を維持している。昨年9月までは中国政府(含む中国人民銀行)が金融を引き締めていたため “✖”が目立ったが、その後は景気支援に転じたため“〇”が続いている(図表-15)。但し、社会融資総量の伸びは依然として鈍く、特に設備投資の先行指標となる中長期融資は8月も前年同月比10.1%増にとどまった。投資意欲の弱さを示している。

最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、実質成長率を推計した「景気インデックス」を確認しておこう(図表-16)。COVID-19の第1波が襲来した20年2月には前年同月比12.2%減に落ち込み、それが峠を越えた20年4月にはプラスに転じ、21年1月には同22.1%増とV字回復を遂げることとなった。その後は中国政府が持続可能性を重視するようになったため緩やかに減速し、21年12月には同3.6%増まで低下したものの、22年1月には回復し始め、第1四半期(1-3月期)の成長率は前年同期比4.8%増と前四半期(4.0%)を上回った。ところが、COVID-19の第2波が襲来すると上海市がロックダウンに追い込まれて景気は失速、第2四半期(4-6月期)の成長率は前年同期比0.4%増に減速することとなった。そして、足もとの景気インデックスは7月も8月も前年同月比3.3%増となった。

第3四半期(7-9月期)の成長率が、その3.3%を上回るとすればインフラ投資がさらに加速した場合だろう。9月のCOVID-19新規感染(含む無症状)は8月よりも低位に抑えられており、中国政府が矢継ぎ早に支援策を打ち出したこともあって加速する環境が整っていたからだ。他方、3.3%を下回るとすれば消費が不振だった場合だろう。9月の中秋節連休では旅行者数・観光収入が前年割れとなったからだ。第3四半期の国内総生産(GDP)は10月18日に発表される。
(図表-13)電力消費量/(図表-14)道路貨物輸送量
(図表-15)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-16)経済成長率と景気インデックス
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2022年09月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【中国経済:景気指標の総点検(2022年秋季号)-景気は緩慢ながら持ち直しつつあり、7-9月期成長率は3.3%前後へ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国経済:景気指標の総点検(2022年秋季号)-景気は緩慢ながら持ち直しつつあり、7-9月期成長率は3.3%前後へのレポート Topへ