2022年09月28日

配偶者のいる女性は、テレワークで生産性の低下を感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(3)-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

本稿を含めて全8回の基礎研レターでは、2022年3月にニッセイ基礎研究所が独自に行ったアンケート調査のデータを用いて、テレワーク拡大によってどのような人は生産性が高まったと感じ、どのような人は生産性が下がったと感じたのかを分析した結果を紹介していく。本稿ではそのうち、第3回として、性別による違いに注目した分析結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、同居の配偶者・パートナーがいる女性は、テレワークによって、生産性が低下したと感じた人の割合が大きかった。

2――同居の配偶者・パートナーがいる女性

2――同居の配偶者・パートナーがいる女性は、生産性が低下したと感じた人の割合が大きい

日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)テレワークを行った人へ、「在宅勤務・テレワークで仕事をする時、勤め先に出社して仕事をする場合と比べて、仕事の生産性をどう感じましたか。」という質問をした際の回答の男女別の分布を示したのが図1である1。図1からは、男女で分布に大きな違いは見られない2
図1. テレワークで生産性が上がった人/下がった人の割合(男女別)
さらに、同居の配偶者・パートナーの有無別に分布を確認したのが、図2である。図2からは、同居の配偶者・パートナーがいる場合、女性の間で、「生産性が低下した」/「生産性がやや低下した」と回答した人の割合が大きい傾向が確認できる。
図2. テレワークで生産性が上がった人/下がった人の割合(男女同居の配偶者・パートナー有無別)
また、同居の配偶者・パートナーがいる人は、同居の配偶者・パートナーがいない人に比べて子がいる可能性も高いと考えられるため、同居の子の有無別にも分布を確認したが(図3)、同居の子の有無によっては、テレワークを行うことによる生産性の変化の分布に大きな違いは見られなかった。
図3. テレワークで生産性が上がった人/下がった人の割合(男女同居の子の有無別)
 
1 ニッセイ基礎研究所が実施した独自の被用者を対象とした調査の回答者計5,653名のうち、本質問の対象者となる、日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)一番テレワークを利用した時期に、月1回以上のテレワークを行ったと回答した人は、1,985名。
本調査は、全国の 18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国 6 地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて収集した(株式会社クロス・マーケティングのモニター会員)。調査の概要は以下の基礎研レター参照。
岩﨑敬子(2022年9月14日)「会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72366?site=nli
2 「テレワークで生産性低下/向上を感じた人の特徴-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(8)―」の基礎研レターで紹介するように、働く企業の規模や産業分野等をコントロールした推定では、女性は男性に比べて生産性が向上したと感じた傾向が確認されている。(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72860?site=nli

3――年収300~700万円未満の女性

3――年収300~700万円未満の女性の間で特に、同居の配偶者がいると生産性が低下した人が多い

男性と女性の間には、賃金差があることが知られている。そこで、図4では、そうした賃金の違いが生産性の感じ方の違いに与えている影響を考慮するため、年収別に男女同居の配偶者・パートナーの有無別の生産性の感じ方の分布を示した。図4からは、同居の配偶者・パートナーがいる女性は、特に年収300~700万円未満の人の間で、生産性が低下したと感じた人の割合が大きいことが確認できる。
図4.テレワークで生産性が上がった人/下がった人(男女年収同居の配偶者・パートナー有無別)

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、ニッセイ基礎研究所の独自調査のデータを元に、新型コロナ拡大以降テレワークを行った人の間では、同居の配偶者・パートナーのいる女性の間で、テレワークによって生産性が下がったと感じた人の割合が大きい傾向を確認した。その中でも年収300~700万円未満の人の間で、特にテレワークによって生産性が下がったと感じた人の割合が大きかった。

この要因については今後の検討課題であるが、性別役割分業意識が原因の一つとして考えられるかもしれない。つまり、夫婦の間で女性が家事を担うという意識がある場合、女性はテレワークによって新たに発生する可能性のある昼食用意などの家事が増えたり、家にいるからということで家事分担割合が増えたりしたことで、仕事の生産性が下がったと感じた可能性が考えられる。もちろん男性がテレワークになって配偶者が出社の場合には、男性の家事負担割合が増える可能性も考えられるが、男女役割分業意識によって女性の方が強く影響を受けた可能性が考えられる。さらに、特に年収300~700万円の女性の間でその傾向が強かったことは、この年収層のテレワークによる女性の家事分担の増加によるものかもしれない。年収700万円以上の層の女性は、もともと家事外注等の選択肢を自ら取りやすいことで、テレワークによる家事分担の増加が少なかったことや、年収300万円未満の層ではもともと家事分担のほとんどを女性が担っていたことで、テレワークによるさらなる増加が見られにくかった可能性が考えられる。いずれにしても、今後より詳細な分析が必要だろう。

(2022年09月28日「基礎研レター」)

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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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