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高齢タクシードライバーの増加
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
1――はじめに
2で述べるように、人は、加齢によって、視力や、素早い判断・操作能力等が低下すると考えられており、実際に、75歳以上ドライバーに特定した死亡事故の発生割合は、75歳未満のそれを大きく上回っている。高齢になっても働き続けられれば、本人や家族の生活を支え、生きがいとなり、健康維持にもつながり、社会にも貢献できる。しかし、車を運転する限り、交通事故と隣り合わせであり、とりわけ旅客自動車運送業であるタクシードライバーの場合は、乗客の命を預かり、他の道路ユーザーやドライバー自身の安全にも重大な責任を負う。年齢特性に応じた業務の在り方、あるいは、業務に適した年齢幅について、議論が必要であろう。
世界に類を見ないスピードで高齢化が進む日本において、マイカーだけではなく、タクシーにも高齢ドライバーが増加する状況を迎え、今後、どのように道路や地域の安全を確保していくことができるだろうか。かつ、どのように、タクシーの機能を維持していくことができるのだろうか。本稿ではまず、現状分析によって問題提起したい。
なお、上述のように、警察庁の統計では、75歳以上でドライバーの死亡事故発生割合が特に高まることや、道路交通法(以下、道交法)では新認知機能検査や運転技能検査の対象が75歳以上とされていることから、本稿では、特に記述のない限り、75歳以上のドライバーを「高齢ドライバー」と称する。
2――タクシードライバーの年齢
(1)法人タクシー
国土交通省と一般社団法人「全国個人タクシー協会」(以下、全個協)によると、タクシードライバーのうち、法人タクシーは240,494人(2020年3月現在)1、個人タクシーは26,049人(2022年4月現在)である。
まず全体の9割を占める法人タクシーについて、ドライバーの年齢分布をみていきたい。法人タクシー事業者の約8割が傘下に入る一般社団法人「全国タクシー・ハイヤー連合会」(以下、全タク連)によると、傘下のドライバーの5歳区分の人数と構成比は、2022年3月現在と、2020年3月時点では、図表1(3ページ)のようになっている2。
まず、最新の2022年3月末時点(青色棒グラフ)を見ると、20~30歳代は少なく、構成比はいずれも5%にも満たない。年代が上がるにつれて人数は徐々に増加し、5歳区分で構成比が全体の1割を超えるのは、「55~59歳」以降となっている。最大のボリューム層は「70~74歳」であり、全体の2割強を占めている。二番目に多いのが「65~69歳」であり、全体の2割弱を占める。「75歳以上」も全体の1割弱を占めており、人数は2万人近い。
2010年3月時点(緑色棒グラフ)から2年間の変化をみると、2020年3月時点では、構成比の山の頂点は「65~69歳」にあり、全体の2割強を占めていたが、2020年3月時点(青色棒グラフ)では大きく減少して2割を切り、代わって「70~74歳」が山の頂点になっている。また「75歳以上」の構成比も約2ポイント上昇した。その要因としては、コロナ禍に入って、乗務中の感染を恐れた高齢層のドライバーが大量離職したことと3、高齢化が進んだことの二つがあると見られる。結果的に、現在のタクシードライバーの最大のボリューム層は「70歳代前半」の人達となっている。
次に、2022年3月現在の構成比を、地方ブロック別に見ると(図表1の下表)、「65~69歳」や「70~74歳」の構成比は、全国平均に比べて「北海道・東北」や「九州・沖縄」ではやや高い。「75歳以上」は、近畿、中四国では1割を超えている。全体的な傾向で見れば、地方では、よりドライバーの高齢化が進んでいると言える。
1 各法人タクシー事業者から提出された令和2年度輸送実績報告書の数字に基づく
2 全タク連の集計データは、各都道府県のタクシー協会等による運転者証の発行数に基づくため、国土交通省の集計とは若干、乖離がある。
3 東京交通新聞2021/08/23 東京交通新聞。
個人タクシーの92%に当たる26,049事業者(2022年4月末現在)が加入する全個協の提供資料をもとに、筆者がドライバーの年齢を5歳区分で分布をまとめたところ、図表2のようになった。
法人タクシーと同様に、20歳代は全体の0%、30歳代は全体の1%にも満たない。年代が上がるにつれて人数と構成比が徐々に増え始め、「55~59歳」で初めて全体の1割を超える。「65~69歳」は全体の約2割、「70~74歳」は約3割で最多となっている。「75歳~79歳」は約1割にあたる2,130人、「80歳以上」は3.1%の815人となっている。
構成比で言うと、個人タクシーの担い手の主軸は、法人タクシーと同様、70歳代前半にある。75歳以上の構成比は法人タクシーをやや上回っている状況である。
(1)法人タクシー
次に、タクシードライバーを何歳まで続けることができるのかという、「定年」の制度について、みていきたい。
定年については、法人タクシーと個人タクシーで制度が異なる。まず法人タクシーは、ドライバーを雇用しているため、他の業種と同様に、高齢者雇用安定法が適用される。2021年度4月に同法は改正され、65歳までの雇用確保が義務付け(2025年3月末までは経過措置あり)、70歳までの就業機会確保が努力義務とされている。
次に、現状での各タクシー会社の雇用制度の状況についてみていきたい。上述した「ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン」によると、タクシー会社へのアンケート(2019年度に実施)の結果、「定年を定めている」と回答したのは78.5%、「定めていない」は19.3%、無回答が2.2%だった。定年を定めている場合の年齢について尋ねると、「65歳」が51.5%と最も多く、「60歳」が27.4%、「70歳」が8.1%などとなっていた(図表3)。
上限年齢に関する選択肢で、次に回答率が高かったのは「75歳以上」の20.6%だった。また、「70歳」が15%、「65歳」が11.5%――などとなっていた。従って、一部のタクシー会社では、雇用制度上は、75歳以上でも働き続けられることが分かった。
なお、全タク連によると、必ずしもドライバーが継続雇用の上限年齢に達していなくても、加齢の影響で運転技能やコミュニケーションなどに問題が生じ、乗客からクレームが入ったり、運行管理者による教育の際に不適切と判断したりした場合には、継続雇用を更新しないなどの対応をとるという。
4 交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書「~総合生活移動産業への転換を目指して~」(2006年7月)
個人タクシーの場合は制度上、「定年」が定められている。2002年の改正道路運送法施行に合わせて運用基準が変更され、個人タクシー業を開業する場合は、認可申請日時点で65歳未満と定められ、その後、更新(概ね3年ごと)が認められる期間は、75歳に到達する前日までと定められた。従って、個人タクシーで、現在75歳以上で乗務している高齢ドライバーは、2002年2月以前に認可申請した人に限られており、今後は大きく増えることはないだろう。
ただし、個人タクシーの「定年」を迎えた後に、法人タクシーに転職する事例もあるといい5、法人タクシーと個人タクシーで制度が異なることは課題を残している。
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