2022年09月20日

高齢タクシードライバーの増加

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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■要旨

高齢ドライバーによる重大事故に社会的注目が集まっているが、実は、公共交通であるタクシーでも、高齢ドライバーは増えている。一般社団法人「全国タクシー・ハイヤー連合会」によると、法人タクシーのドライバーの年齢分布は、5歳区分だと「70~74歳」が最多の2割強を占め、「75歳以上」も1割弱に上る。一般社団法人「全国個人タクシー協会」によると、個人タクシーのドライバーも最多は「70~74歳」で3割、「75歳~79歳」は1割強、「80歳以上」は3%である。個人タクシーには2002年以降、75歳を上限とする制度が敷かれたが、法人タクシーは法令上は青天井で、各タクシー会社の雇用管理制度等によって運用されている。高齢化によって、今後も高齢タクシードライバーは増加する可能性がある。

加齢によって、人は視力や素早く判断、動作する能力などが低下し、運転のリスクは上昇する。近年、自動車運送事業では、ドライバーの健康起因による交通事故も増加傾向である。現在は、高齢タクシードライバーは、法令で適齢診断を受けるなど安全対策が講じられているが、今後はさらに、運行管理や安全教育等を強化し、先進技術の活用を進める必要があるだろう。そしてより抜本的には、上限年齢についても議論が避けられないのではないだろうか。

高齢者が働き続けられることは意義が大きいが、職種によって、求められる能力は異なる。年齢特性に応じた業務の仕方、業務の特性に適した年齢幅、といった議論が必要である。個人差があるとは言え、基礎疾患が増え、心身機能が低下していく高齢労働者に対して、各産業内で雇用管理や業務のフォロー体制、適齢に関する議論が熟す前に、高齢労働者が増加しているというのが現状だろう。全産業に比べて高齢化が先行したタクシー業界において、そのような仕組みを整えられるかどうかは、今後、国全体で高齢者雇用の仕組みを成熟させられるかどうかの試金石となるのではないだろうか。

■目次

1――はじめに
2――タクシードライバーの年齢
  1|年齢分布
  2|タクシー業界における定年と高齢者雇用の状況
3――高齢ドライバーの運転能力と交通事故の発生状況に
  1|加齢による心身機能の変化
  2|高齢ドライバーによる交通事故の状況
4――タクシードライバーによる交通事故の発生状況
  1|タクシードライバーによる交通事故件数の推移
  2|ドライバーの健康起因の交通事故
  3|タクシー会社へのアンケート、ヒアリング結果
5――現状での安全対策
  1|高齢ドライバー全体に対する法令上の安全対策
  2|高齢タクシードライバーに対する安全対策
6――今後の課題
7――終わりに
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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【高齢タクシードライバーの増加】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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