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2022年09月13日
コロナパンデミック下のインドネシア生保市場(3)-国有生保会社を含む複数の伝統的生保会社に経営危機が発生-生保会社とイスラム生保会社の状況(2020年)-
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はじめに
本年4月19日のフォーカス『コロナパンデミック下のインドネシア生保市場(1)-2020年のインドネシア生命保険市場の概況--保険料収入、普及度合い、主力商品の状況-』1、5月2日の『コロナパンデミック下のインドネシア生保市場(2)-2020年のインドネシア生命保険市場の概況--販売チャネル、資産運用、収益動向-』2に続き、市場プレーヤーである生命保険会社とイスラム生命保険会社、生命保険会社の破綻の側面から、インドネシアの生命保険市場の状況を見る。
今回も、インドネシアの保険監督当局であるOJK (Otoritas Jasa Keuangan=金融サービス機構)から公表されている『Statistik Perasuransian=Insurance Statistics=保険統計』を情報源として使用する。
OJKのデータはインドネシアの通貨であるルピアベースで作成されており、2022年9月1日の為替レートは、1ドル=14864.05ルピア、1円=106.51ルピアである。図表では兆ルピアという単位が出てくるが、1兆ルピアを日本円にすると約93.89億円である。
以下、インドネシアの生保業界の概況を計数図表とともに見ていく。
1 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/70918_ext_18_0.pdf?site=nli
2 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71047_ext_18_0.pdf?site=nli
今回も、インドネシアの保険監督当局であるOJK (Otoritas Jasa Keuangan=金融サービス機構)から公表されている『Statistik Perasuransian=Insurance Statistics=保険統計』を情報源として使用する。
OJKのデータはインドネシアの通貨であるルピアベースで作成されており、2022年9月1日の為替レートは、1ドル=14864.05ルピア、1円=106.51ルピアである。図表では兆ルピアという単位が出てくるが、1兆ルピアを日本円にすると約93.89億円である。
以下、インドネシアの生保業界の概況を計数図表とともに見ていく。
1 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/70918_ext_18_0.pdf?site=nli
2 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71047_ext_18_0.pdf?site=nli
1――生命保険会社
2|外資の出資上限
外資合弁会社の外資出資比率の上限については、保険法等の法律は具体的な数値を設けていないが、政令で80%とされている。ただし規則が発出される以前から外資が実質的に80%を超える持分を有していた外資合弁会社が複数存在する。1997年のアジア通貨危機時にIMFによる支援を受けて以来、インドネシアは外資参入を積極的に促してきたが、当初は、外資がインドネシアに設立した子会社等を国内資本と見なすという方式で、実質的に出資比率80%超で参入することが認められていた。その結果、20社以上の保険会社の外資出資比率が実質的には80%を超えていると言われていた。
しかし、2014年保険法(第7条)は、保険会社の設立・保有に関しては、以下のいずれかの形態のみ認められると定め、国内資本の定義に厳格さを求めたので、それまでのような抜け道が使えなくなった。
これを厳格に読めば、インドネシア保険市場に参入するには、インドネシアに保険会社を設立するか買収しなければならない。
以降、インドネシア生保市場への多大な貢献も認められる外資について、その既得権益を認めるか認めないかで議論があり、2018年と2020年に政令が出されている。
2018年政令第14号は、保険会社の外資保有比率を80%に制限した上で、同政令が発行された時点で外資が80%以上の株式を保有する保険会社については、同政令規定の外資所有制限の適用除外とした。ただし、外資の所有割合を増やすことはできず、資本金を増やす場合には、当該資本金増加分の少なくとも20%は、インドネシアの個人および/またはインドネシアの事業体が応募するか、証券市場を通じた新規株式公開によるものでなければならないとした。
しかしこれでは、例えば外資が実質的に100%の保有比率を有している外資合弁会社グループが増資を行う場合に外資の持株比率が縮小してしまうこととなって、外資グループが資本増強をためらい、健全性を高める機会を失ってしまうことともなる。
そこで2020年政令第3号は外資が既に80%以上の株式を保有している場合、外資持株比率を維持することを認めるものとなった。
インドネシア当局は摩擦を回避し、外資の果たしている役割を評価して、既得権益を認めることとした。
外資合弁会社の外資出資比率の上限については、保険法等の法律は具体的な数値を設けていないが、政令で80%とされている。ただし規則が発出される以前から外資が実質的に80%を超える持分を有していた外資合弁会社が複数存在する。1997年のアジア通貨危機時にIMFによる支援を受けて以来、インドネシアは外資参入を積極的に促してきたが、当初は、外資がインドネシアに設立した子会社等を国内資本と見なすという方式で、実質的に出資比率80%超で参入することが認められていた。その結果、20社以上の保険会社の外資出資比率が実質的には80%を超えていると言われていた。
しかし、2014年保険法(第7条)は、保険会社の設立・保有に関しては、以下のいずれかの形態のみ認められると定め、国内資本の定義に厳格さを求めたので、それまでのような抜け道が使えなくなった。
- 「インドネシアの市民」および/または「インドネシアの市民によって直接または間接に所有されるインドネシアの法人」により設立・保有される形態、または
- 「インドネシアの市民」および/または「インドネシアの市民によって直接または間接に所有されるインドネシアの法人」が、設立・保有しようとする保険会社と同じ保険業種に属している外国の保険会社と合弁会社の形で設立・保有する形態
これを厳格に読めば、インドネシア保険市場に参入するには、インドネシアに保険会社を設立するか買収しなければならない。
以降、インドネシア生保市場への多大な貢献も認められる外資について、その既得権益を認めるか認めないかで議論があり、2018年と2020年に政令が出されている。
2018年政令第14号は、保険会社の外資保有比率を80%に制限した上で、同政令が発行された時点で外資が80%以上の株式を保有する保険会社については、同政令規定の外資所有制限の適用除外とした。ただし、外資の所有割合を増やすことはできず、資本金を増やす場合には、当該資本金増加分の少なくとも20%は、インドネシアの個人および/またはインドネシアの事業体が応募するか、証券市場を通じた新規株式公開によるものでなければならないとした。
しかしこれでは、例えば外資が実質的に100%の保有比率を有している外資合弁会社グループが増資を行う場合に外資の持株比率が縮小してしまうこととなって、外資グループが資本増強をためらい、健全性を高める機会を失ってしまうことともなる。
そこで2020年政令第3号は外資が既に80%以上の株式を保有している場合、外資持株比率を維持することを認めるものとなった。
インドネシア当局は摩擦を回避し、外資の果たしている役割を評価して、既得権益を認めることとした。
2――イスラム生命保険(シャリア生命保険またはタカフル生命保険)会社の状況
また次の表4は、インドネシアにおけるイスラム生命保険事業の業績が全生命保険事業の業績中に占める割合を表したものである。イスラム生命保険事業の割合は2020年、被保険者数で生命保険事業全体の17.6%、保険料で8.08%、総資産で6.29%となっている。
表4からも、イスラム保険が拡大してきていることがわかる。
今後、インドネシア経済が発展し国民生活の豊かさが増えるとともに国民の間に生命保険へのニーズが高まることが予想されるが、その際には、イスラム教徒の何割かはイスラムの教義に則ったイスラム生命保険を選択すると考えられる。そのため イスラム生命保険事業の将来性は明るいと考えられており、これが全体としてのインドネシア生命保険市場の魅力を高めることともなっている。イスラム生命保険事業の発展を見越して多くの生命保険会社が取組を開始した。
表4からも、イスラム保険が拡大してきていることがわかる。
今後、インドネシア経済が発展し国民生活の豊かさが増えるとともに国民の間に生命保険へのニーズが高まることが予想されるが、その際には、イスラム教徒の何割かはイスラムの教義に則ったイスラム生命保険を選択すると考えられる。そのため イスラム生命保険事業の将来性は明るいと考えられており、これが全体としてのインドネシア生命保険市場の魅力を高めることともなっている。イスラム生命保険事業の発展を見越して多くの生命保険会社が取組を開始した。
ただし、2014年保険法が、同一会社で一般の生命保険事業とイスラム生命保険事業をあわせ行っている場合、生命保険会社の内部部門であるイスラム生命保険部門は2024年までに、スピンオフして、独立したイスラム生命保険会社としなければならないとしていることについて、期限が近づいた今日、各社が対応できるのか懸念されている。
表3で見ると、独立したイスラム生命保険会社の数は2017年以降、7社のままで増えておらず、生命保険会社内のイスラム生命保険部門は23のまま減っていない。今後2年の間にこれら23のビジネスユニットが独立しなければならないが、紆余曲折が予想される。
表3で見ると、独立したイスラム生命保険会社の数は2017年以降、7社のままで増えておらず、生命保険会社内のイスラム生命保険部門は23のまま減っていない。今後2年の間にこれら23のビジネスユニットが独立しなければならないが、紆余曲折が予想される。
(2022年09月13日「保険・年金フォーカス」)
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