2022年09月07日

地方・郊外移住を希望するのはどんな人か-「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.306]

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

文字サイズ

1―はじめに

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、今年5月、東京都は5か月連続の転入超過となった。新型コロナウイルスの感染拡大以降、地方・郊外移住が進むかという期待もあったが、現実はそうなっていない。一方で、コロナ禍によって暮らしや働き方が変容し、地方・郊外移住に対する関心は上昇したままである。つまり、住まいに対する意識と行動にはギャップが生まれている。移住希望層は、条件さえ揃えば、いずれ移住に踏み出す可能性もある。

そこで、ニッセイ基礎研究所が今年3月、全国の2,584人を対象に行った「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の結果を用いて、移住希望者の特徴や、彼らがどういった暮らしを希望しているのかについて分析する。

2―地方や郊外への移住希望と、移住希望者の特徴

まず移住希望についてみていきたい。当社の調査によると、「在宅勤務を利用したり、転職したりして、郊外や地方に居住したい」との設問に対し、「そう思う」は5.4%、「ややそう思う」は15.9%であり、合わせて約2割が、移住への希望を持っていた(有効回答1,716)。

次に、この設問と、暮らしや働き方、消費行動の変化、意識等に関する様々な設問とのクロス分析を行った(後掲表)。

まず基本属性と移住希望との関連を見ると、性別による移住希望の違いは見られなかった(表中の記載略)。次に年代別を見ると、20歳代の「そう思う」、30歳代の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回る一方、70歳代では「あまりそう思わない」と「そう思わない」がいずれも全体を5ポイント以上、上回るなど、概して、年代が若い方が移住希望が強いことが分かった。

次に居住エリア別では、地方による差異はなく、いずれの地方でも移住希望が見られた(表中の記載略)。従来、東京圏の在住者の動向に注目が集まりがちだが、各地方でも、都市部から郊外部へと移住したい人がいることが分かった。

職業別では、専業主婦・主夫、会社員(事務系)の「ややそう思う」が全体を上回った。本調査では、会社員(事務系)は、コロナ禍で在宅勤務増加率が全体よりも高ことが分かっており、在宅勤務のしやすさが移住希望に影響していると考えられる。世帯年収別の大きな差はなかった(表中の記載略)。

ライフステージ別では、「第一子誕生」の「そう思う」、「第一子小学校入学」の「ややそう思う」が全体より高かった。子どもの誕生や成長を機に、のびのびした子育て環境や広い住まいを求めて、移住を希望していると思われる。また、「第一子高校入学」と「第一子大学入学」も、「ややそう思う」が全体を上回った。上述したこととは逆に、子どもの独立が間近になり、夫婦だけで快適に過ごせる、または、より小さくて費用が安い住宅を求めている可能性がある。

次に、コロナ禍におけるライフスタイルやビジネススタイルの変化との関連をみていきたい。買い物との関係では、コロナ前(2020年1月頃)に比べて、ネットショッピングの利用が「増加」した層は、移住希望が全体より高かった。大きな商業施設が近くになくても、いつでもどこでもネットで欲しい商品を注文できたという経験により、居住地域へのこだわりが薄れていると考えられる。

移動手段については、コロナ前に比べて自家用車の利用が「増加」「やや増加」と回答した層が、移住希望が全体よりも高かった。「密」を避けて公共交通から車移動に切り替えた人、つまり感染リスク低減のために「疎」を求める人が移住希望が強いと考えられる。

次に、家族生活の変化との関連では、コロナ前に比べて、家族と過ごす時間が「増加」「やや増加」した層は、移住希望が全体よりも高かった。せっかく増えた家族との時間を、より豊かに過ごしたいという住まいへの意識が、移住希望につながっている可能性がある。

逆に、コロナ禍以降「一人で過ごす時間」が「増加」「やや増加」と回答した層も、移住希望が高かった。上述したこととは逆に、コロナ禍になって、一人で過ごす時間が増えたことで、より自分の好きなことをしたい、趣味を楽しみたいという意識から、それにふさわしい住環境を求めている可能性がある。

ワークスタイルとの関連では、在宅勤務が「増加」「やや増加」とした層が、移住希望が全体より高かった。

最後に家計との関連では、コロナ禍に入って「勤務先の業績悪化による雇用の不安定化や収入減少」を「非常に不安」「やや不安」と回答した層は、移住希望が全体よりも高かった。コロナ禍で仕事に負の影響があり、家計不安が増大した層が、より住宅費や物価の安い郊外や地方への移住を希望していると考えられる。

3―終わりに

以上の分析結果をまとめると、地方・郊外への移住希望は、従来注目されてきた「三密回避」やテレワークだけではなく、様々な暮らしの変化や意識と関連していることが分かった。まずエリア別では、全国的に移住希望者がおり、どの地域に住んでいても、住宅費を抑えるために、郊外物件を探している可能性がある。

家族との関連では、従来「子育て機能の高い住まい」に注目されがちだったが、子育て卒業を控えた層には「子育て機能を外した住まい」へのニーズもあることが示唆された。また、「家族でゆったり過ごせる住まい」だけでなく、一人で好きなことを楽しめる住環境へのニーズもあることが伺えた。農業や園芸、アウトドア、DIY、音楽など、様々な趣味活動に適した住環境が考えられる。

暮らしや働き方との関連では、オンライン活用が進んでいる人、感染リスク低減のために疎を求める人が、移住希望が高いことが分かった。また、家計不安から、住宅費や物価の安さを求めて移住を希望している層がいる可能性も分かった。

今後、各地域のステークホルダーが、これらのリアルなニーズに応える取組ができれば、移住に踏み出す人は増える可能性があるだろう。
[図表]属性やコロナ禍による暮らし・働き方の変化と地方・郊外移住との関連
(備考)表は、「全体」よりも5%ポイント以上高い値を斜体太字で表記。Nが小さい場合は参考数値。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2022年09月07日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【地方・郊外移住を希望するのはどんな人か-「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

地方・郊外移住を希望するのはどんな人か-「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」よりのレポート Topへ