2022年08月23日

老後のための2,000万円をどうやって確保するか-目標金額の2,000万円を超えたら、何をすべきか

金融研究部 研究員 熊 紫云

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2019年の夏に金融庁によって公表された報告書1で、公的年金のほかに、老後の20年で約1,300万円、30年で約2,000万円が必要という試算が示されたように、ほとんどの人は老後に備えて一定金額以上の資産を形成する必要がある。

以前執筆したレポート2で、老後のための資産形成を効率的に行う具体策を提案した。資産形成の初期段階で、外国株式型など中長期的リターンが高いと期待できる資産に投資する運用商品へ長期・積立投資をすることによって資産を増やしておく一方、年齢が上がり、残された投資期間が短くなるにつれ、少しずつバランス型に移行するなど、リスクの低いポートフォリオに移行したほうが良いといった提案である。また、十分に満足できる資産ができたなら、思い切って全額を元本確保型にするのも良いとも提案した。

そこで、実際に上記のような方策をとった場合の効果を過去のデータで検証してみたい。老後に備える必要資産額が各人によって異なり一概に言えないが、このレポートでは2,000万円の目標金額に向けて25年間の積立投資を想定し、老後のための2,000万円をどうやって確保するかについて考えてみたい。
 
1 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
2 ニッセイ基礎研所報「老後のための資産形成-確定拠出年金等で老後のために何に投資したら良いのか?-外国株式型、国内株式型、バランス型、外国債券型と国内債券型でのパフォーマンス比較」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71804?site=nli

1――25年間の積立投資で、2,000万円を達成できる割合がどれぐらいか?

1――25年間の積立投資で、2,000万円を達成できる割合がどれぐらいか?

まずは、毎月前月末に代表的な運用商品(国内債券型、外国債券型、国内株式型、外国株式型と低リスクのバランス型3)へ定額で積立投資をすると、25年後に2,000万円を達成できるかどうかを過去のデータから確認してみたいと思う。具体的には、1984年12月末から開始するケースから、開始時点を1か月ずつずらし、1997年7月末から開始するケースまで全152ケースを用いた。毎月の積立金額を2万円から5千円刻みで5万円までとし、投資対象商品別に、最終的な時価残高が2,000万円を超えるケースの割合(以下、目標達成割合)を比較してみた(図表1)。
【図表1】25年間の積立投資での目標達成割合
当然ではあるが、投資期間は25年で同じなので、毎月の積立金額が2万円から5万円へと高くなるにつれ、どの運用商品に投資する場合でも目標達成割合が上がっていく。

毎月2万円の積立投資では、国内債券型、外国債券型、国内株式型とバランス型が0%、外国株式型が17%と目標達成割合は小さい。毎月2万円ではどの運用商品でも目標達成は難しかったと言える。

毎月2.5万円だと、国内債券型、外国債券型、国内株式型とバランス型が0%で変わらないが、外国株式型が68%と目標達成割合は50%を上回っている。運が悪くない限り外国株式型で目標達成も可能であったと言える。

毎月3万円だと、国内債券型、国内株式型とバランス型が0%である一方、外国債券型が11%、外国株式型が78%と目標達成割合が更に高くなっている。

毎月3.5万円以上積立てると、各運用商品が毎月の積立金額の増加につれ、目標達成の割合が大きくなっている。外国株式型だと目標達成割合は90%を超え、4万円以上だと外国債券型でも目標達成割合が100%になる。

毎月5万円だと、高リスク商品の外国株式型やバランス型の目標達成割合も100%になる。また、国内債券型、国内株式型の目標達成割合も60%台となる。当たり前ではあるが、毎月2万円の場合に比べて、毎月5万円だと各商品の目標達成割合がかなり上がることが分かる。尚、預貯金の金利を0%とすると、25年間で2,000万円を達成するには毎月6.7万円(2,000万円÷25年÷12か月)も必要なので、毎月5万円を貯めても2,000万円にはならず、達成割合は0%となる。

過去のデータを見る限り、総じて外国株式型の目標達成割合が最も大きい。無理して節約して毎月6.7万円貯金するより、外国株式型に毎月3.5万円程度投資したほうがより効率的に老後のための資産形成ができたことが分かる。では、25年間の積立投資で2,000万円の老後資金の確保にもっと合理的な方法はあるのだろうか。次章以降では目標達成割合が最も大きかった外国株式型に絞って、より良い方法について考えてみたい。
 
3 バランス型については資産配分固定型と資産配分変動型があるが、このレポートは資産配分固定型の低リスク型を代表的なバランス型として取り上げる。低リスク型は国内債券67%、外国債券5%、国内株式17%、外国株式8%、短資3%の資産配分とする。

2――25年後は目標未達でも投資期間中に一度でも目標達成するケースを確認する

2――25年後は目標未達でも投資期間中に一度でも目標達成するケースを確認する

実は25年後の時価残高が2,000万円を下回ったケースの中には、投資期間中に一度は2,000万円を超えたケースがあった。そこで、全てのケースを以下の3種類のケースに分けて、各ケースの割合を確認してみた。

(A)投資期間中に一度も時価残高が2,000万円を上回ることがないケース(図表2:灰色)
(B)一度は時価残高が2,000万円を上回るが25年後は2,000万円を下回るケース(図表2:黄色)
(C)25年後の時価残高が2,000万円を上回るケース(図表2:緑色)
【図表2】3種類のケースの割合
毎月の積立金額が2万円だと、灰色の(A)ケースの割合が69%と大半を占めている。やはり25年間の積立投資で、毎月の積立金額が2万円だと、2,000万円の達成は難しかったことが明確に分かる。

毎月の積立金額が2.5万円と3万円だと、緑色の(C)ケースの割合が大きくなっていると同時に、黄色の(B)ケースの割合も2~3割を占めている。黄色の(B)ケースは、投資期間中に時価総額が2,000万円を超えたものの、投資期間終了直前での株価下落によって2,000万円を下回ったという非常に残念なケースである。

毎月の積立金額が3.5万円以上だと、灰色の(A)ケースの割合がゼロ%であるうえに、黄色の(B)ケースの割合が小さくなっていく。

繰り返しになるが、黄色の(B)ケースは、投資期間中に一度は時価総額が2,000万円を超えたものの、投資期間終了直前での株価下落によって2,000万円を下回ったという非常に残念なケースである。このようなケースにおいて25年後の時価残高を2,000万円以上維持するためには、どのような投資行動をとれば良かったのだろうか。

次章では、黄色の(B)ケースが多かった毎月2.5万円と3万円を積立投資する場合に絞って、目標達成割合の改善策を考えてみたい。

3――どのようにすれば2,000万円を確保できたのか?

3――どのようにすれば2,000万円を確保できたのか?

1具体的な改善方法とは何か
これまでは外国株式型へ毎月定額を積立投資する運用を25年間ずっと継続する場合を説明してきたが、投資期間中に時価残高が2,000万円を超えた場合に、3つの方法で、目標達成割合の改善を試みる。具体的には投資期間中に時価残高が2,000万円を超えた場合の行動パターンとして、(a)「半分は外国株式型の保有を継続し、残りの半分を元本確保型にする(その後の積立金額は外国株式型を購入する)」、(b)「全額をバランス型にする(追加積立金額もバランス型)」、(c)「全額を元本確保型にする(追加積立金額も元本確保型)」という3パターンを想定する。

そして、この3つの改善方法で、最終的に目標達成割合を改善できるのかを確認する。具体的な確認方法としては、第1章、第2章と同様に過去のデータを用いて、積立資産額が2,000万円を上回った当月末に3つの行動パターンをとった場合に、25年後の時価残高が2,000万円を上回る割合がどれくらいになるのかを見る。ただし、25年間に一度も2,000万円を上回らない場合は、投資期間終了まで外国株式型での運用を継続するものとする。
【図表3】3つの改善方法の目標達成割合
図表3の検証結果を見てみると、投資期間中に2,000万円を上回ったら、外国株式型でそのまま運用継続するより、3つのパターンに移行した方が、目標達成割合が改善できることが分かる。

毎月の積立金額が2.5万円だと、外国株式型での運用を継続すれば、25年後の時価残高が2,000万円を上回る割合は68%である。一方、半分を元本確保型にすれば71%と目標達成割合が若干大きくなる。全額をバランス型もしくは元本確保型にすればどちらも目標達成割合は97%となり、目標達成割合をかなり改善できた。

毎月の積立金額が3万円だと、外国株式型での運用を継続すれば、25年後の時価残高が2,000万円を上回る割合が78%であるのに対して、半分を元本確保型にすれば目標達成割合が90%まで上げることができた。全額をバランス型もしくは元本確保型にすれば目標達成割合は100%と改善できた。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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