2022年08月05日

英国金融政策(8月MPC)-利上げ幅を0.50%に拡大、1.75%へ

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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4.議事要旨の概要

記者会見の冒頭説明原稿および議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り2
 
 
2 適宜、報告書の内容も記載。
(経済見通し)
  • GDP成長率見通しは、2022年3.5%、23年▲1.5%、24年▲0.25%
    (5月時点では22年3.75%、23年▲0.25%、24年0.25%)
    • CPI上昇率は、2022年13%、23年5.5%、24年1.5%(10-12月期の前年比)
      (5月時点では、22年10.25%、23年3.5%、24年1.5%)
    • 失業率は、2022年3.75%、23年4.75%、24年5.75%(10-12月期)
      (5月時点では、22年3.5%、23年4.25%、24年5%)
 
  • エネルギー価格が先物曲線に従う代替シナリオ
    • 成長率見通しは、23年▲1.5%、24年0.6%、25年0.8%(7-9月期前年比)
    • CPI上昇率は、23年8.4%、24年0.9%、25年0.3%(7-9月期前年比)
    • 失業率は、23年4.0%、24年4.6%、25年5.1%(7-9月期前年比)
 
  • 国内の価格設定力がベースラインよりも持続する代替シナリオ
    (ベースライン対比での変化、%ポイント)
    • 成長率は、23年▲0.4、24年0.0、25年+0.1(7-9月期前年比)
    • CPI上昇率は、23年+1.2%、24年0.7、25年0.0(7-9月期前年比)
    • 失業率は、23年+0.3、24年▲0.3、25年▲0.2(7-9月期前年比)
 
  • 政策金利を1.75%で固定する代替シナリオ
    • 成長率見通しは23年▲1.3%、24年0.1%、25年0.3%(7-9月期前年比)
    • CPI上昇率は、23年9.9%、24年2.5%、25年1.3%(7-9月期前年比)
 
(通貨・金融情勢)
  • 英国では、今回の会合での0.50%ポイントの利上げが、市場で広く認識されていた
    • 総裁の7月19日のマンションハウスでの講演で、MPCは8月のMPRと同時にAPF保有の英国債の売却に関する戦略の詳細を発表するとしたが、多くの市場参加者が9月の会合直後に売却が開始されると予想されていた
    • 最新の市場参加者調査(MaPS:Market Participants Survey)での回答における売却規模の予想もほとんど変わっていない
 
  • 市場予想の政策金利経路は前回のMPCから低下し、23年3月に3%弱のピークを示している
    • この経路は最新の市場参加者調査での予想よりも引き続き高いが、市場参加者調査でのピークが中央値で前回会合時の2%から現在は2.5%になったため、その差はやや縮小している
 
  • 英国の新規固定の住宅ローン金利は、21年秋以降の市場の無リスク金利のさらなる上昇を反映して大幅な上昇を続けた
    • 無リスク金利の住宅ローン金利への転嫁は、世界金融危機前の金利が下限制約には遠かった時代に典型的に見られたような、完全な転嫁に近かった
    • 最新の信用状況調査(Credit Conditions Survey)によると、4-6月期には家計の担保付信用へのアクセスが低下し、貸し手は大部分が経済見通しの悪化によるものと報告している
    • 回答者は7-9月期には家計の担保付信用へのアクセスがさらにやや低下すると予想している
    • これまで同様、無担保の家計向け貸出金利や(要求払い)預金金利の上昇幅は、住宅ローンと比較して小さかった
 
(供給、費用、価格)
  • 22年10-12月期にはCPIインフレ率が丁度13%を超えると見られ、5月報告書での予測よりも3%ポイント、6月会合時の予測よりも2%ポイント高い
    • この上方修正の大部分は家計のエネルギー価格の上昇によるものである
    • これは、5月報告書以降に発生した、7月のロシアの欧州市場へのガス供給の制限とリスクを反映した先物曲線のために、ガスの卸売先物価格が大幅に上昇したことを反映している
    • 5月以降、英国のガス先物価格は22年末と比較して2倍近くに上昇している
    • それ以外の要因として、ガス電力市場監督局(Ofgem)による上限価格の設定方法の修正(公表前に中銀と共有された方法)も反映している
    • この修正では、観測期間においてガス卸売価格の最近の急上昇によりウエイトを置くことも含まれる
    • 8月のMPR見通しでは、上限価格が約75%引き上げられると想定されており、5月報告書の40%よりも高い
    • 典型的な年間での電気・ガスの一括請求(dual-fuel bill)では現在の2000ポンド弱から10月には3500ポンドに上昇すると見られる
    • 上限価格を半年ごとから四半期ごとに設定するという変更は、1月に上限価格が再び設定されることを意味する
 
(MPCの英国債売却戦略)
  • 22年5月の議事要旨にあるように、委員会は中銀スタッフにAPFで保有している英国債の売却戦略の取り組みを指示し、8月の会合で最新状況を提供すると約束していた
    • これにより、委員会は今後の会合で英国債の売却を開始すべきか決定できるようになる
 
  • APFの規模縮小は、22年2月に開始され、英国債の再投資を停止し、投資適格級の非金融機関社債の売却について決定した
 
  • APFの削減に関するこれまでの連絡の通り、委員会の売却戦略は一連の主要原則に沿って実施される
    • 第一に、委員会は金融政策姿勢の調整に際しては、政策金利を積極的な手段として用いる
    • 第二に、売却は金融市場の機能を混乱させないよう行う
    • 第三に、これらを達成するために、売却は一定期間をかけて、比較的緩やかで予測可能な方法で行う
 
  • 今回のMPCの準備において、中銀スタッフはこれらの主要原則と整合して、中銀による英国債売却の開始が適切であるかを評価するための枠組みを設定した
    • この枠組みを用いて、中銀スタッフはMPCで、現在の経済・市場環境について、市場の機能を混乱させずに売却が可能であるかを含めた説明を行った
    • 金融安定委員会(FPC:Financial Policy Committee)も説明を受けた
 
  • スタッフの分析に基づき、MPCは9月の会合の直後に英国債売却を開始することを、経済・市場環境が適切であるとその会合の投票で確認されることを前提に、暫定的に考えている
    • 委員会は中銀に9月末までに売却計画を開始できるよう指示した
 
  • これが実施される場合、MPCはAPF保有の残高について、投票時点から償還と売却を含む12か月間の削減規模を設定することに合意した
    • 委員会は9月に開始する売却計画の当初12か月にわたって、APF保有の英国債残高の削減は約800億ポンドが適切だろうと判断した
    • この間の英国債償還に基づくと、売却計画は四半期あたり約100億ポンドとなる
 
  • 計画の詳細は議事要旨後の暫定的な市場通知(Market Notice)により提供される
 
  • その後数年間、MPCは年次見直し(annual review)の一環として、12か月の英国債保有残高の削減額を設定するつもりである
    • そのため、委員会は必要に応じて売却計画の設計変数(parameters)を修正することができ、例えば、これらの期間における満期の変動を考慮することができる
 
  • MPCは予定されている年次見直し以外では、予定されている英国債売却の削減計画を修正することには大きな障害(high bar)があることに合意した
    • これは、政策金利が金融政策姿勢の積極的な手段であり、変更(unwind)は予測可能であるべきという原則との整合性を保つためであった
    • 仮に、例えば政策金利だけではインフレ目標の達成に十分でないと判断される、あるいは市場に大きな影響が生じていると判断されるなど、その責務を達成するために必要な場合は、MPCは再投資の再開や追加的な試算購入を検討する前に、売却計画の修正や停止を検討する
    • FPCはまた、金融安定の評価を通じてその役割を果たす
 
(運用上の考慮事項)
  • 22年2月会合における委員会の投資適格級の非金融機関社債の残高を再投資の停止および社債売却計画によって削減し、保有社債の完全売却の完了は23年末を予定する(no earlier than towards the end of 2023)とした決定に基づき、中銀は22年9月19日の週に社債の売却を開始し、入札開始の約1か月前に運営上の詳細を公表する
 
  • 委員会は英国債売却の開始に伴って、金融政策枠組み(Sterling Monetary Framework)の運用変更について説明を受けた
    • 中銀は新規に短期レポ(STR:Short Term Repo)を立ち上げ、短期市場金利が政策金利付近で維持され、MPCがAPFの削減による準備預金の供給影響とは独立して将来の決定を行うことができるようにする
    • この議事要旨と同時に中銀は説明通知(Explanatory Note)を公表し、APF削減計画期間における短期金利の制御枠組みについて広く通知し、市場通知(Market Notice)により詳細について記載している
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年08月05日「経済・金融フラッシュ」)

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