2022年08月02日

世界各国の市場動向・金融政策(2022年7月)-7月の株価は反発、通貨はまちまち

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:7月の株価は反発、通貨はまちまち

22年7月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・7月の株価は中国など一部を除き、6月の下落から反発した。通貨は先進国を中心に自国通貨高に転じた通貨も見られたが、一部の新興国通貨は引き続き下落が目立った(図表1)。
(図表1)株・為替の上昇率(22年6月末~7月末日時点)

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
ルーブル相場はウクライナ侵攻直後の急落から3月に大きく反発、4月にウクライナ侵攻前の水準まで回復したのち、6月以降は1ドル60ルーブル前後での推移が続いている(図表4)。株価指数は6月中旬までは上昇基調が続いていたが、6月下旬から7月初旬にかけて大きく下落している(国営ガス会社ガスプロムの期末配当中止決定や原油安が売り材料となったと見られる、図表4)。

長期金利については、6月に続き7月も9%前後で横ばいの動きとなった。この間、ロシア中銀は政策金利を9.5%から8%まで引き下げている(図表5)。
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格は6月に一段と下落し、世界経済の減速による需要後退懸念などを受けてロシアによるウクライナ侵攻前の水準まで低下したが、7月は概ね横ばい圏での推移となった(図表6)。
農作物価格についても小麦、トウモロコシ価格はロシアのウクライナ侵攻前の水準で横ばい圏となっている(図表7)。
(図表8)エネルギー価格の推移 エネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)では、欧州のガス価格が7月に一段と上昇した(図表8)。ガスプロムが主要ガスパイプラインである「ノルドストリーム1」によるガス供給を引き続き減少させていることなどが供給不安につながっている。

なお、ガスプロムは7月11日に定期保守点検のためにガス供給を20日まで停止させていた。その後、平時の4割程度のガス供給を再開したが、25日には技術的な状態を理由に平時の2割程度の水準まで供給を減少させると発表している。
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比6.9%、先進国が前月比7.9%、新興国が前月比▲0.7%となり、先進国は6月の下落から反発したが、新興国は下落基調が続いた(前掲図表2)。
(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 ただし、新興国でも下落を主導したのは中国であり、国別の株価の動きを見ると、7月は対象国の47か国中、前月比で下落した地域は香港、中国、チェコのみであった(図表9)。この意味では、総じて見れば6月の下落から反発していると言える(図表10、前掲図表1)。
米国を中心に景気減速懸念は根強いが、6月に強まった積極利上げの観測は後退し、長期金利も低下したことで株の売り圧力が弱まり、また企業の決算発表も無難な内容であったことが株上昇の材料になったと見られる。

一方、中国ではコロナ感染者数の増加、住宅ローン支払の拒否3、プラットフォーマー規制の強化4などが株の重しになったと考えられる。
(図表10)各国の株価変動率
通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比▲1.0%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲1.2%となり、6月に続きドル高が進む形となった5(前掲図表3)。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 ただし、MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは16通貨、下落(ドル高)したのは20通貨であり、特に新興国では自国通貨安となっている通貨も多い(図表11)。
一部は米国で長期金利が低下したことを受けてドル安に転じたと見られるが、資源安の影響を受けやすく、経済基盤が不安定な新興国通貨では通貨の売り圧力(ドル買い圧力)が継続したものと見られる(図表12)。
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率

4.金融政策:各国で利上げ継続

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
7月はG7のうち、カナダ銀行、日本銀行、ECB、FRBで金融政策を決定する会合が開かれた。カナダとFRBは4会合連続となる利上げを決定、またECBも11年ぶりの利上げに踏み切った。利上げ幅もカナダが1.0%ポイント、FRBが0.75%ポイント、ECBが0.50%ポイントといずれも大幅なものとなった。なお、ECBは利上げとあわせて南欧など一部地域の金利上昇が金融政策の伝達を阻害する「分断化(fragmentation)」のリスクに対抗するための伝達保護措置(TPI:Transmission Protection Instrument)も公表した。一方、日本銀行は引き続き現行緩和策の維持を決定している。

G7以外の国ではオーストラリア、ポーランド、韓国、デンマーク、南アフリカ、ハンガリー、サウジアラビア、アルゼンチンで利上げを決定している。一方、ロシアはウクライナ侵攻後の経済制裁などで生じたインフレ圧力が低下してきたことを受けて、5会合連続で利下げを実施、政策金利を8.0%まで引き下げた。

これ以外の国では、トルコでは、物価が上昇する中で政策金利を7会合連続で据え置いた。中国人民銀行は5月に5年物LPR(最優遇貸出金利)を引き下げていたが、6月・7月は2か月連続で金利を据え置いている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年08月02日「経済・金融フラッシュ」)

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