2022年07月21日

地方・郊外移住を希望するのはどんな人か~「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2|クロス分析結果の考察
以上のように、コロナ禍における地方・郊外への移住希望は、これまで注目されてきた「三密回避」やテレワーク導入の影響だけではなく、コロナ禍による様々な暮らしの変化や意識と関連していることが、クロス分析の結果から分かった。

1|の結果を整理すると、まずエリア別では、全国的に、都市部から地方や郊外部への移住に関心を持っている人がいることが分かった。家計不安と移住希望にも関連が見られたことと総合すると、全国どの地域に住んでいる人でも、住宅費を抑えるために、郊外物件を探している可能性がある。

また、家族との関連では、これまでは、「子育て機能の高い住まい」への住み替えに注目されがちであったが、逆に、子どもの独立を控えた人の「子育て機能を外した住まい」への住み替えのニーズもあることが示唆された。さらに、コロナ禍で家族との時間が増えたことで、「家族でゆったり過ごせる住まい」も注目されがちであったが、逆に、コロナ禍で自分の時間が増えたことで、「自分の好きなことを楽しめる」住環境へのニーズもあることが伺えた。農業や園芸、海や山などのアウトドア、DIY、音楽など、様々な趣味活動に適した住環境が考えられる。

ライフスタイルやビジネススタイルとの関連では、従来から指摘されてきたように、オンラインを活用した消費や働き方が増えた人や、感染リスク低減のために密集を避けようとする人が、移住への関心を強めていることが分かった。

さらに、繰り返しになるが、家計不安との関連も重大な点であろう。本稿で用いたニッセイ基礎研究所の調査によると、コロナ禍になって、「自分や家族の収入減少」や「自分や家族が仕事を失う」ことを「非常に不安」または「やや不安」と感じている人は半数近くに達している3。コロナがもたらした大きな負の影響である。これらの家計不安が、地方・郊外移住希望につながっている可能性がある。 

東京都心では不動産価格がバブル期並みに高騰しているが、地方都市でも中心部のマンション価格が上昇しているエリアがあり、住宅費や物価の安さを求めて地方や郊外への移住を希望している層がいると考えられる。今後、物価高が進めば、この傾向がさらに強まる可能性がある。

5――終わりに

5――終わりに

コロナ禍に入って、地方から期待されてきた東京一極集中の緩和や、地方移住は進んでいないという指摘が多くされている。データ上は、それは事実である。その一方で、地方・郊外移住への関心が高まり、その水準を維持していることも事実である。つまり、コロナ禍で、住まいや暮らし方に関する人々の意識と行動にはギャップが生じていると言える。従って、移住希望の本音を読み解き、各地域のステークホルダーが、本当のニーズに応える取組ができれば、行動に移す人が増え、ギャップが縮小していく可能性がある。

そういう意味で、本稿のクロス分析により、地方・郊外移住希望について、従来から指摘されてきた「自然が豊か」「人が密集していない」などの要素だけではなく、多様な意識を拾い上げ、「子育て機能を外した住宅」、「自分の趣味に没頭できる住環境」、「費用を抑えた住環境」などへの示唆を得られたことは、意義があると思われる。

コロナ禍で、地方・郊外移住希望者が増えていることは大きな変化であり、それを地方活性化に結び付ける余地はまだ残されているだろう。ただし、「費用を抑えた住環境」が目的の移住希望者については、現状で東京都から近隣県に転出する人が多いように、各エリア内で郊外部に移住すれば事足りる。全国的な地方への分散につなげるためには、各地域が魅力を高める取組を続けることと、国が地方創生の取組を拡充することが必要ではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2022年07月21日「基礎研レポート」)

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