2022年07月21日

地方・郊外移住を希望するのはどんな人か~「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

文字サイズ

1――はじめに

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、今年5月、東京都は外国人を含めて720人の転入超過となった。転入超過は5か月連続である。新型コロナウイルスの感染拡大以降、従来から一転して転出超過となった時期もあり、東京一極集中が緩和するかという見方もあったが、今年に入ってからは緩和の動きが鈍り、寧ろ、集中の方向に逆戻りしてきたようにも見える。これまでの東京都からの転出先を見ても、多いのは近隣県で1、地方移住には結び付いていない。一方で、各種の調査によると、コロナ禍以降、地方や郊外への移住に対する関心は引き上がったままである。コロナ禍で起きたライフスタイルやビジネススタイルの変容によって、住まいに対する意識が変化した層がいることは確かだが、その多くは、実際の移住には結びついていない。そういった人たちは、今後、希望の条件さえ揃えば、移住に向けて一歩踏み出す可能性もある。

そこで本稿では、地方や郊外への移住に関心を持っている人たちが、どういった暮らしを希望しているのかを検討する。そのため、ニッセイ基礎研究所が今年3月に行ったインターネット調査「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の結果を用いて2、移住希望者の属性や、コロナ禍以降、どのようなライフスタイルやビジネススタイルの変化、また意識の変化があった人たちなのかについて、見ていきたい。
 
1 総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、2021年、東京都からの転出先で多かったトップ3は神奈川、埼玉、千葉の3県。
2 全国の20~74歳の男女2,584人を対象に実施。

2――東京都の人口移動の傾向

2――東京都の人口移動の傾向

まず、コロナ禍前後の東京都の人口移動について確認したい。住民基本台帳人口移動報告によると、今年5月、東京都内へ他道府県から転入した人は、外国人を含めて32,851人、転出者は32,131人で、720人の転入超過だった。

しかし、人口移動は、転勤や進学に伴う3~4月がボリュームが大きいなど、時期によって異なるため、中期的な傾向を確認するために、過去5年の月ごとの転入超過数(外国人を含む)を図表1に示した。

これを見ると、コロナ前の2017年度(青色)、2018年度(オレンジ色)、2019年度(グレー)は、折れ線グラフがほぼ重なっており、同じような動きをしていることが分かる。時期によって差はあるが、転入超過数はプラス圏内を推移しており、東京一極集中が続いていたことが分かる。

ところが、コロナ禍に入った2020年度(黄色)と2021年度(水色)は、折れ線グラフが下方に移動し、年度半ばはマイナス圏を推移している。転出超過に転じた時期である。その後、2021年度(水色)は1月以降、プラス圏まで持ち上がり、2022年度(緑色)も、今のところ、プラス圏で推移している。ただし、コロナ前の折れ線の位置と比べると、まだ下方にあり、今後、転入超過のボリュームが元の水準まで戻るとは限らない。
図表1 東京都の過去5年間にわたる月ごと転入超過数の推移(単位:人)

3――地方や郊外への移住意向

3――地方や郊外への移住意向

次に、地方移住への関心についてみていきたい。内閣府の調査によると、東京圏在住で地方移住に対して「強い関心がある」と「関心がある」、「やや関心がある」と回答した人の合計は、コロナ禍前の2019年12月には25.1%だったが、コロナ禍に入った2020年5月には30%を超え、最新の2021年9-10月時点でも34%を維持している(図表2)。この傾向は、特に20歳代で多い(データは省略)。

地方移住に関心がある理由は「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」「感染症と関係ない理由」「ライフスタイルを都市部での仕事重視から、地方での生活重視に変えたいため」の順で多い。
図表2 東京圏在住者のうち地方移住に関心がある人の割合(単位:%)
また、ニッセイ基礎研究所が今年3月、全国の居住者を対象に行った調査では、「在宅勤務を利用したり、転職したりして、郊外や地方に居住したい」との設問に対し、「そう思う」と回答したのは5.4%、「ややそう思う」は15.9%であり、合わせて約2割の人が、地方・郊外移住への希望を持っていた(有効回答1,716)。

4――地方や郊外への移住希望者の特徴

4――地方や郊外への移住希望者の特徴

1|コロナ禍による暮らしや意識の変化と移住希望とのクロス分析
次に、移住意向を持っているのがどんな人か、どんな暮らしを希望しているのかを探るため、3でも述べたニッセイ基礎研究所の調査を用いて、「在宅勤務を利用したり、転職したりして、郊外や地方に居住したい」との設問と、本調査で設けている暮らしや働き方、消費行動の変化、意識などに関する様々な設問とのクロス分析を行った。主な結果は図表3の通りである。以下、図表の記載に沿って説明する。

まず回答者の基本属性と移住希望との関連を見ると、性別による移住希望の違いは見られなかった。次に年代による移住希望の違いを見ると、20歳代の「そう思う」、30歳代の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回る一方、70歳代では「あまりそう思わない」と「そう思わない」がいずれも全体を5ポイント以上、上回るなど、概して、年代が若い方が移住希望が強いことが分かった。これは、内閣府の調査とも矛盾しない結果である。

次に、居住エリアによる移住希望の違いを見ると、いずれの地方でもまんべんなく移住希望が見られた。従来、東京一極集中への注目から、東京圏や東京23区の在住者の動向に注目が集まりがちであるが、各地方でも、都市部から郊外部へと移住したい人がいることが分かった。

職業別では、専業主婦・主夫の「そう思う」と「ややそう思う」、会社員(事務系)の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回っていた。本調査における別の設問「コロナ前と比べて在宅勤務が増えたか」の回答結果を職業別に見ると、会社員(事務系)では、「増えた」と「やや増えた」の合計が35.7%と、全体平均(18.9%)を大きく上回っており、在宅勤務のしやすさが移住希望に影響していると考えられる。世帯年収別では、大きな差は見られなかった。

次に、回答者のライフステージ別では、子どもの成長段階と、移住希望との関連が見られた。まず「第一子誕生」の「そう思う」、「第一子小学校入学」の「ややそう思う」が全体を5ポイント以上、上回っていた。従来から言われるように、子どもの誕生や成長を機に、のびのびした子育て環境や広い住まいを求めて、移住を希望していると思われる。また、「第一子高校入学」と「第一子大学入学」の回答者も、「ややそう思う」が全体を上回った。上述したこととは逆に、子どもの独立が間近になってきて、夫婦だけでより快適な住環境、あるいは、より小さくて費用が安い住宅を求めている可能性がある。

次に、コロナ禍で生じたライフスタイルやビジネススタイルの変化が、移住希望と関連するかどうかをみていきたい。まず、買い物との関係では、コロナ前(2020年1月頃)に比べて、ネットショッピングの利用が「増加」したグループは、移住希望について「そう思う」が全体を5ポイント以上上回った。同様に、ネットショッピングの利用が「やや増加」したグループも、移住希望について「ややそう思う」の回答率が高かった。大きな百貨店や、お気に入りの店舗等が近くになくても、インターネットでいつでもどこでも欲しい商品を注文できたという経験により、居住地域へのこだわりが薄れていると考えられる。

移動手段については、コロナ前に比べて自家用車の利用が「増加」「やや増加」と回答したグループが、移住希望について「そう思う」や「ややそう思う」の回答率が高かった。同様に、自転車の利用についても「増加」「やや増加」したグループで、移住希望の「そう思う」や「ややそう思う」の回答率が高かった。「密」を避けて公共交通からマイカーや自転車移動に切り替えた人、つまり、感染リスク低減のために「疎」を求める人が、移住希望が強いと考えられる。

次に、家族生活の変化と、移住希望との関わりについてみていきたい。コロナ前に比べて、家族と過ごす時間が「増加」「やや増加」したグループは、移住についても「そう思う」や「ややそう思う」と回答した割合が高く、せっかく増えた家族との時間を、ゆったり快適に暮らしたいという住まいへの意識の変化が、移住希望につながっている可能性がある。

逆に、コロナ禍以降、「一人で過ごす時間」が「増加」、「やや増加」と回答したグループも、移住希望についてそれぞれ「そう思う」「ややそう思う」との回答率が高かった。つまり、上述したこととは逆に、コロナ禍になって一人で過ごす時間が増えたことで、より自分の好きなことをしたい、もっと趣味を楽しみたいという意識が高まった人が、それにふさわしい住環境を求めている可能性がある。

家庭生活の変化に対して、「家族と一緒に過ごす時間が増えることで、ストレスが溜まる」ことや、「家族と一緒に過ごす時間が増えることで、一人の時間が減る」ことを「非常に不安」「やや不安」と回答したグループが、移住希望について「そう思う」「ややそう思う」の回答率が高かったことからも、「移住して一人で好きなことを実現したい」という意識が生じていると見ることができるだろう。

次に、ワークスタイルとの関連では、在宅勤務が「増加」「やや増加」としたグループが、移住希望が全体より高く、「会社に通わなくても仕事ができる」という経験が、移住への関心を高めていると考えられる。

最後に、家計との関連についてみていきたい。コロナ禍に入って「勤務先の業績悪化による雇用の不安定化や収入減少」を「非常に不安」「やや不安」と回答しているグループ、「自分や家族の収入減少」を「やや不安」と感じているグループは、移住希望が全体よりも高かった。コロナ禍で雇用条件が悪化したり、収入が減ったりすることを不安に感じている人が、より住宅費や物価の安い郊外や地方への移住を希望していると考えられる。
図表3-1 属性やコロナ禍による暮らしの変化と地方・郊外移住希望との関連
図表3-2 属性やコロナ禍による暮らしの変化と地方・郊外移住希望との関連
図表3-3 属性やコロナ禍による暮らしの変化と地方・郊外移住希望との関連
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【地方・郊外移住を希望するのはどんな人か~「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

地方・郊外移住を希望するのはどんな人か~「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」よりのレポート Topへ