2022年07月13日

老後のための資産形成で、いつどのようにリスクを落としたら良いのか?-DC、つみたてNISAの終わり方、ターゲットデート型とは何か

金融研究部 研究員 熊 紫云

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1――はじめに

「2,000万円問題」と話題になった金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書1で問題提起されたように、多くの人は公的年金だけでは老後を安心して生活するのが難しく、老後を見据えた資産形成が必要である。また、昨今の低金利環境下では、元本確保型の運用商品だけでは資産を十分に増やすことは難しいので、自己責任で適切にリスクをとって、効率良く資産形成していくことが望ましい。

老後のための資産形成では、残された投資期間が長い若い人は積極的にリターンを狙うべきである。外国株式型など中長期的リターンが高いと言われる資産に投資する運用商品(以下、株型商品)を長期保有すると、実際、最終的な運用成果が良い傾向があることについては、以前執筆したレポート2(以下、前レポート)で示した通りである。

どの運用商品にどのぐらい投資するかを決めるのは重要であるが、将来的には、いつどのように運用商品を売却するかも極めて重要である。なぜなら、長期・積立投資の場合、最終的な運用成果が売却タイミングに大きく依存するからである。株型商品は価格変動が激しいが、長期・積立投資の場合、購入が長期に渡って分散されているので、個々の購入タイミングの影響は限定的である。しかし、一度に売却すると、売却タイミングは分散されないので、売却タイミングの影響が極めて大きくなる。

コロナ・ショック以降、外国株式市場は大きく上昇したが、将来も上がり続けるとは限らない。株価が低い時期の売却は避けるべきなので、株価の回復を待って売却するべきだが、回復までに相当な時間がかかるかもしれない。資金的に余裕がなく回復を待っていられない場合は、そのままの低い時価で売却せざるを得ない。退職直前にリーマン・ショックのような誰も予測できない株価暴落が生じると、老後のために長年積み上げてきた資産が大きく毀損し、老後資金計画に支障をきたすかもしれない。

本レポートでは、前レポートで取り上げた単一指数型、バランス型だけでなく、ターゲットデート型も比較対象として加え、過去を遡って投資期間の違いによる投資結果に与える影響について明らかにしたい。投資期間を25年間とし、毎月前月末に2万円ずつ上述の商品を購入し、投資終了時である25年後の月末に全額を売却し、その時価残高をもって、投資結果を評価する。投資期間の違いによって投資終了時の時価残高がどれくらい異なるのかを確認する。
 
1 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
2 基礎研レポート「確定拠出年金では何に投資したら良いのか?-外国株式型、国内株式型、バランス型、外国債券型と国内債券型でパフォーマンスを比較してみた」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70490?site=nli 

2――過去のデータから

2――過去のデータから、たった数か月の違いで時価残高が大きく異なることが分かる

最初に、単一指数型に投資した場合に、投資終了時の時価残高が投資期間の違いによってどれくらい異なるかをまず確認したいと思う。「国内株式型」、「国内債券型」、「外国債券型」と「外国株式型」、「米国株式型」という単一指数型への積立投資(25年間、毎月末2万円ずつ)を、1984年12月末から開始した場合から1997年6月末から開始した場合まで1か月ずつずらした結果(全151パターン)を比較する。

過去のデータを遡ってみると、市場インデックス商品への投資の場合、リスクが高い運用商品に投資する方が、投資終了時の時価残高が高い傾向がある(図表1)。しかし、たった数か月の違いで、投資終了時の時価残高が大きく異なるケースもあった。1994年12月末から2019年12月末まで外国株式型へ投資をした場合の投資終了時の時価残高は1,884万円だが、1995年3月末から2020年3月末まで投資をした場合の投資終了時の時価残高は1,432万円と、たったの3か月の違いで452万円も異なる(図表1:黒丸で囲んだ部分)。投資期間はほぼ重複しているので、この差は投資終了時の価格でほぼ説明できる。
【図表1】単一指数型に投資した場合の投資終了時の時価残高と投資時期の関係(2022年6月末)
投資終了時の価格による影響の程度は、運用商品固有のリスクに比例する。全151パターンのうち、投資終了直前1年間の下落率は、リスクが低い国内債券型の場合最大3%に対して、リスクが高い外国株式型は最大17%である(図表2)。投資終了直前の株価急落による資産が毀損してしまう可能性を小さくしたい場合は、国内債券型などリスクが低く、投資終了時による時価残高の差も小さい商品を選べば良いが、リスクが低いので高い運用成果は期待できない。

投資終了時直前の株価急落による資産が毀損してしまう可能性の低減と高い運用成果を両立させたい場合、どうしたら良いだろうか?投資終了時が近くなったら、投資終了直前の株価急落による資産が毀損してしまうことを避けるため、リスクが高いがリターンが期待できる株型商品からリスクの低い商品に徐々に入れ替えるといった方法が良いように思える。
【図表2】単一指数型の最大下落率(2022年6月末)

3――年齢が高くなるにつれ

3――年齢が高くなるにつれ、どうしてリスクを落とさないといけないのか?

実は、このように、投資終了時が近くなる、もしくは年齢が高くなるにつれてリスクを落とすことが望ましいという考えは一般的で、様々な理論的根拠がある。中でも、「金融資産」だけでなく、「人的資本」も含めてポートフォリオを構築すべきだという理論的根拠が有力であるので紹介したい。人的資本とは将来得られる収入の現在価値総和である。将来の労働収入が見込める若い時は人的資本の割合が大きく、金融資産の割合が小さいが、年齢が高くなるにつれ、金融資産の割合が大きくなり、人的資本の割合が小さくなる。尚、単純化のため、公的年金等の収入は考慮しないこととする。

一般的に、株価の変動に比べて収入の変動は小さいので、人的資本のリスクは低いと考えられる。年齢に関係なく、金融資産の資産配分を一定に維持すると、若い時は人的資本も含めたリスクが、低すぎるし、年齢が高くなるとリスクが高すぎる(図表3:左)。  

年齢に関係なく、人的資本を含めたポートフォリオのリスクを一定に維持するためには、若いうちは金融資産の部分で積極的にリスクをとり、年齢が高くなるにつれ資産配分の調整をして金融資産のリスクを落としていく必要がある(図表3:右)。これにより、年齢に関係なく一定のリスクをとることができる。
【図表3】リスク配分のイメージ図
ところで、バランス型投資信託の中では、資産配分固定型の他に、ターゲットデート型という商品がある。ターゲットデート型は事前に設定した目標年月に向けて、各資産クラスの配分を段階的かつ自動的に変更するバランス型投資信託である。最初は国内株式、外国株式などを中心に積極的にリスクをとった運用を行うが、徐々に債券や短資を中心としたリスクを抑えた運用にシフトする商品である。つまり、ターゲットデート型は、「投資終了時が近くなる、もしくは年齢が高くなるにつれてリスクを落とすことが望ましい」という考えに沿った運用商品である。若い時には積極的にリスクをとって高い運用成果を目指しつつ、年齢が高くなるにつれ、株型商品から債券、短資などリスクの低い資産に入れ替えることで、­投資終了時直前の株価急落による資産が毀損してしまう可能性を小さくする。そこで、ターゲットデート型のように時間の経過に伴い、リスクを抑える運用戦略が最終的にどのような結果をもたらすかをシミュレーションで確認してみたい。具体的にリスクの落とし方は既存の商品を参考にする。

4――リスクの落とし方

4――リスクの落とし方は商品によって運用スタイルが異なる

ターゲットデート型と一括りにいっても商品ごとに運用スタイルはかなり違っており、特にリスクの落とし方は商品によって大きく異なる。本レポートでは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式が組み入れられている既存5社のターゲットデート型を参考にする。実際の投資期間が40年間を超える商品もあるが、ここでは目標年月に到達するまでの25年間の資産配分の推移を比較し、運用スタイルの違いについて説明したいと思う。
 
図表4からわかるように、ターゲットデート型は目標年月時点の資産配分によって大きく二分することができる。A社、B社とC社のようにリスクのある資産を保有する商品(以下、Through型)とD社、E社のように、全てリスクのない短資になっている商品に分類することができる(以下、To型)。
 
Through型とTo型を問わず、全期間を通してのリスク水準は各社ごとに異なる。A社とD社は株型商品の配分が大きい傾向があるのに対して、B社とC社とE社は株型商品の配分が小さい傾向がみられる。
 
A社は、目標年月の25年前、株型商品70%を組み入れており、目標年月時点でも、株型商品30%を組み入れる。

D社は、目標年月の25年前は株型商品に74%配分するが、To型のため、目標年月時点においては短資100%である。

B社は、目標年月の25年前でも、株型商品への配分は54%に止まり、目標年月時点においては株型商品への配分が7%と少ない。

C社も同様で、株型商品への配分は目標年月の25年前が53%、目標年月時点が12%である。但し、C社は外国債券への配分が大きい。目標年月の25年前は20%、目標年月時点において7%である。 

E社は、目標年月の25年前においては株型商品が65%とやや高いが、To型のため、目標年月時点は短資100%である。
【図表4】ターゲットデート型の資産配分の推移のイメージ図
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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