高齢者の生活ニーズのランキング首位は見守り、要介護者の首位は移動サービス(東京23区編)~各区の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~ | ニッセイ基礎研究所
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高齢者の生活ニーズのランキング首位は見守り、要介護者の首位は移動サービス(東京23区編)~各区の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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3――要介護高齢者の生活ニーズランキング~「在宅介護実態調査」結果の集計より~
次に、要介護認定を受けた高齢者らのニーズについてみていきたい。ニーズ調査と同様に、23特別区が「第8期介護保険事業計画(2021~2023年)」用に実施した「在宅介護実態調査」や、同じ位置付けの調査を分析対象とする。「在宅介護実態調査」については、厚生労働省が、全国の調査結果を集計、公表しているが、23特別区に限った集計はしていないため、本稿で集計とランキングを試みる。
在宅介護実態調査については、厚生労働省が例示している質問票に「今後の在宅生活の継続のために必要と感じる支援・サービス(複数選択)」という設問がある。その選択肢に「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」と「外出同行(通院、買い物等)」が含まれている。
23特別区のうち、「在宅介護実態調査」の一部または全部を公表し、厚労省の例示通りに「今後の在宅生活の継続のために必要と感じる支援・サービス(複数選択)」という設問を設けたり、本人が現状で困っていることに関する設問を設けたりしていたのは、品川、世田谷を除く21区だった。いずれも回答は複数選択制だった。厚労省の例示した設問を使用している区でも、独自の選択肢を追加しているケースが複数あった。そこで本稿では、21区が用いた全ての選択肢を内容ごとに大まかにまとめ、43項目に分類した。
ニーズ調査と同様に、各区の個別調査で、回答率が高かった順に選択肢を並べ、1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点、5位を6点、6位を5点、7位を4点、8位を3点、9位を2点、10位を1点、11位以下は全て0.5点とした。また、選択肢の文言によって、複数の項目に分類できると考えられるものは、按分した。このように、21区の調査のすべての選択肢を筆者が分類した43項目に振り分け、各項目の得点を合計し、ランキングした。
上位20位までの結果を図表2に示した。1位は「送迎、公共交通の充実」(144点)、2位は「外出同行、付き添い」(142点)で、移動に関する2項目がトップ2を占め、3位以下を40点前後引き離した。
全国では、前稿で紹介したように、全市区町村の合計でも、いずれの規模別集計でも、回答率1位は「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」、2位は「外出同行(通院、買い物など)」だったが、本稿のランキング調査により、東京都区部に限定してみても、ニーズの順位は同じであることが分かった。
東京都区部では公共交通が発達しているが、身体的自立度が低下したり、認知機能が低下したりして、要介護認定を受けた高齢者にとっては、在宅での生活を続けていく上で、利用しやすい移動手段や乗降介助等、移動サービスへのニーズが極めて高いということが明らかになった。
また、ランキング3位は「買い物、移動販売、薬の受け取り」(103点)であり、同じく移動に関わることだった。これは、前稿で紹介した全市区町村の合計(6位)よりも高かった。「見守り、安否確認、声掛け」(100点)は僅差で4位だった。5位から9位には、配食、掃除、調理、洗濯、ゴミ出しという日常の家事支援が並んだ。
東京都区部においても、要介護高齢者を対象とした在宅介護実態調査のランキング調査の結果、在宅生活を続ける上で必要とされている支援のトップは、「送迎や公共交通の充実」という移動手段の確保だった。道府県都・政令市編で説明したように、▽駅やバス停が近くにあっても、様々な気象条件のもとで乗降することが難しい、▽買い物した荷物を持ち運ぶことが難しい、▽認知機能低下により、公共交通の利用等が難しい――といった高齢者特有の事情は、東京都区部にも共通していることが分かった。2点差で2位となった「外出同行、付き添い」は、単に移動手段が整備されていればよいというだけではなく、介助や付き添いなどのサービスが必要であることを示している。3位に買い物がランクインしたことも、重ねて移動支援の重要性、優先度の高さを示しているだろう。
4――終わりに
本稿では東京23区をターゲットに絞り、高齢者が困っていることや、提供してほしいサービスについて、既存調査を活用してランキング調査を行い、一般高齢者にとっては「送迎、公共交通の充実」が5位にランクインし、東京都区部にも確実に移動手段確保のニーズがあることを明確にした。さらに、要介護高齢者対象のランキング調査では、「送迎、公共交通の充実」と「外出同行、付き添い」がトップ2を占め、全国同様に、東京都区部においても、要介護高齢者が利用できる移動手段と、乗降等のサポートが、極めて優先度の高い問題であることを示した。公共交通の発達した東京においても、高齢者が使いやすい介助や付き添い付きの移動サービスを、早急に拡充していく必要があることを明確にした。
ところで、自治体が新規の交通サービスを検討する際には、既に該当地域に公共交通サービスがあるかないかを軸に議論が進められることが多いが、仮に公共交通があったとしても、高齢者や障がい者、乳幼児連れなど、個人の属性によっては利用することが難しい。本稿で示したランキング調査の結果は、そのことを物語っている。そうした事実を前提として、各区には、高齢者が地域で暮らし続けていけるように、高齢者にとって本当に使いやすい移動サービスの整備確保策を検討してほしい。とりわけ、要介護の高齢者にとっては、安心して利用できる移動サービスの提供こそが、「在宅限界点」を引き上げる鍵になることを理解してもらいたい。
今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)では、「交通事業者と地域との官民共創等による持続可能性と利便性の高い地域公共交通ネットワークへの再構築」が盛り込まれ、「法整備等を通じ、国が中心となって交通事業者と自治体が参画する新たな協議の場を設けるほか、規制見直しや従来とは異なる実効性ある支援等を実施する」と明記された。前稿と本稿で示した高齢者自身のニーズに鑑みて、東京を含む全国の市区町村で、これまで以上に、移動サービス拡充や地域交通ネットワーク形成に向けた対策が進むことを期待したい。
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- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
(2022年07月12日「基礎研レポート」)
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