2022年07月12日

高齢者の生活ニーズのランキング首位は見守り、要介護者の首位は移動サービス(東京23区編)~各区の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

筆者の前稿「高齢者の生活ニーズのランキング首位は移動サービス(道府県都・政令市編)~市町村の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~」では、高齢者が地域で暮らしていく上で何に困っているか、とりわけ移動サービス(移動手段や乗降介助等)に関するニーズや優先度がどれぐらいであるかを確認するため、東京を除く道府県都と政令市を対象に、介護保険法関連の既存調査結果を活用して、高齢者の回答から、独自の方法でランキング調査を試みた。

東京都区部では、保険外サービスの供給量や住環境など、高齢者を取り巻く状況が地方とは異なる。そこで本稿では東京23区のみを対象に、ランキング調査を行う。ランキング調査に用いるデータは、前稿と同様、各区が「介護保険事業計画」作成のために、一般の高齢者等を対象に実施している「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」と、要介護認定者を対象に実施している「在宅介護実態調査」の回答結果である1
 
1 「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」と在宅介護実態調査」の詳細は前稿参照。

2――一般高齢者の生活ニーズランキング

2――一般高齢者の生活ニーズランキング~「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」結果の集計より~

(1)ランキング調査の目的と方法
まずは、要介護認定者を除く一般の高齢者のニーズについて、みていきたい。本稿のランキング調査は、23特別区が「第8期介護保険事業計画(2021~2023年)」用に実施した「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」(以下、ニーズ調査)や、同じ位置付けの調査を分析対象とする。ニーズ調査の対象は基本的に、要介護認定者を除く一般の高齢者である。区によっては、要支援認定者も除外している。

本稿のランキング調査の目的は、高齢者自身が日常生活を送る上で、何に最も大きな困難を感じているか、提供を希望するサービスは何かを把握することを目的としている2。そのため、ニーズ調査の中から「現在、日常生活でお困りのことはありますか」「高齢者福祉施策として、区に力を入れてもらいたいこと」など、本人が現状で困っていることや、今後、提供を希望するサービスに関する設問部分を抜粋し、その回答を集計した。

調査対象23特別区のうち、ニーズ調査や同じ位置付けの調査について、結果の一部または全部を公表し、かつそのような設問を設けていたのは17特別区だった3。いずれも回答は複数選択制だった。区によって設問と選択肢の文言は異なっているが、それぞれの選択肢を内容ごとにまとめると、「配食」「買い物、移動販売、薬の受け取り」「金銭管理、金融機関での手続き」など、大まかに43項目に分類できた。

各区の個別調査で、回答率が高かった順に選択肢を並べ、1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点、5位を6点、6位を5点、7位を4点、8位を3点、9位を2点、10位を1点として、筆者が分類した各項目に振り分けた。11位以下は0.5点とした。

また、選択肢の文言によって、複数の項目に分けられると考えられるものは、按分した。例えば「通院」という選択肢には、医療機関までの送迎を想定している可能性と、院内の付き添いまでを想定している可能性があるため、「送迎・公共交通の充実」と「外出同行、付き添い」」という2項目に按分した。また、選択肢が端的に「住まい」と書かれている場合は、回答者が高齢者住宅の整備確保を想定している可能性と、自宅の改修を希望している可能性があるため、「高齢者向け住宅の整備」と「自宅の改修・修繕、模様替え、その費用補助」に按分した。そのように17特別区の調査結果をスコア化し、筆者が分類した44項目に振り分け、各項目の得点をランキングした。
 
2 「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」で言う「ニーズ」には、調査によって把握した要介護リスク等を基に判断する「支援の必要性」という意味が含まれており、本稿で用いている利用者本人の意向という意味合いとはやや異なる。
3 千代田、中央、港、新宿、文京、台東、墨田、江東、目黒、大田、杉並、豊島、北、板橋、練馬、足立、江戸川の各区。
(2)ランキング調査の結果
ランキングの上位30位を図表1に示した。前稿の道府県都・政令市編に比べると、対象の自治体数が少ないため、各項目の得点も小さくなった。

トップは「見守り、安否確認、声掛け」(74点)で、2位と15点差だった。各区の個別調査で「見守り、安否確認、声掛け」が回答率1位だったところはなかったが、新宿、墨田、江東3区の個別調査で2位、豊島区の個別調査で3位、江戸川区の個別調査で4位となるなど、多くの区で上位に入ったため、合計得点が上昇した。

道府県都・政令市編で6位だった「見守り、安否確認、声掛け」が、東京都区部編でトップに立った要因の一つとしては、単身高齢世帯の多さが影響した可能性がある。2020年国勢調査に基づいて推計すると、高齢者人口のうち単身世帯(一人暮らし)が占める割合は、全国平均では19%であるのに対して、東京都区部は28.4%であり、10ポイント近く上回っている。

ランキング2位は「買い物、移動販売、薬の受け取り」(59点)だった。この項目は、道府県都・政令市編でも同じく2位だった。食料品や日用品、医薬品など生活必需品の確保は、相対的に小売店が多いと思われる東京の都区部でも、高齢者にとっては切実な問題であることを示した。高齢者の食料品アクセスについては、都市部でも、大規模店が出店した影響で、徒歩圏内の食料品店が閉店したり、高級スーパーの立地が増えて手ごろな店が少ないなど、環境が悪いケースがあるためである。また、買い物した荷物が重くて持てない、という事情もある。

各区のニーズ調査の中にも、これらの問題点が示されていた。例えば、練馬区の個別調査では「日常生活の中での困りごと」という設問の回答率1位が「買い物(荷物を持って帰ることを含む)」であり、その理由は多い順に「荷物を運ぶことが難しい」、「買い物を手伝ってくれる人がいない」、「徒歩で行ける場所にお店がない」等となっていた4。また板橋区の個別調査では、高齢者の4割近くが食品や日用品の買い物が「大変不便」「すこし不便」だと回答し、不便を感じている点は、多い順に「重いものが持てないため、一度に少量しか購入できない」「歩いて(または自転車で)買い物に行くのが体力的にきつい」「店までの距離が遠い」――となっていた。ランキング調査で23位となった「購入品の宅配、御用聞き」も、同じ負担感の現れだろう。

ランキング3位には「話し相手、友人関係、通いの場など交流の場の充実」(53点)がランクインした。筆者は繰り返し、高齢者にとって社会参加が心身機能維持のために重要であることを述べているが5、高齢者自身も、張りのある生活を続けるために、他者との交流の充実を求めていることが示された。また、トップの「見守り、安否確認、声掛け」と合わせて考えれば、地域で安心して暮らし続けていくためには、緩やかなつながりや人的ネットワークを求めていると言えるだろう。

ランキング4位には「困りごとの相談窓口、情報収集」(47点)が入った。道府県都・政令市編では10位だったが、東京都区部では、より順位が高かった。

一方で、道府県都・政令市編では断トツ首位だった「送迎、公共交通の充実」は5位(42点)だった。地方に比べて、東京都区部では公共交通網が発達しているためだと考えられる。ただし、前述したように、2位の「買い物、移動販売、薬の受け取り」にも移動の要素は含まれており、移動手段へのニーズが小さいとは言えない。また、個別調査の設問の選択肢に、送迎や公共交通に関するものを設けていたのが、集計した17区のうち9区に留まった点も影響した可能性がある6,7

6位「居宅介護サービスの充実」(42点)には、デイサービスやショートステイなどの充実、訪問介護体制の充実などが含まれる。7位「調理」、9位「掃除」、15位「洗濯」など、日常的な家事支援に関するものも多かった。
図表1 一般高齢者の日常生活における困りごと・ニーズランキング(東京23区)
 
4 練馬区(2020)「練馬区高齢者基礎調査等報告書」。
5 坊美生子(2022)「コロナ禍における高齢者の移動の減少と健康悪化への懸念~先行研究のレビューとニッセイ基礎研究所のコロナ調査から~」(基礎研レポート、3月25日)など。
6 道府県都・政令市編では32市のうち約8割の25市が送迎や公共交通に関する選択肢を設けていた。
7 他にも、道府県都・政令市編で11位だった「緊急時の連絡手段」も、17区では選択肢に設けているところがほとんどなかったため、ランク外だった。
(3)ランキング調査結果の考察
このランキング調査では、設問や選択肢の内容と文言が区によって異なるため、各選択肢の優先度を正確に比較できるものではないが、東京都区部における高齢者ニーズの傾向を掴むことはできる。ニーズ調査の対象は、要介護認定を除く、一定の身体的自立度を維持している一般の高齢者であるが、そのような人たちの間でも、困りごとや、提供を希望するサービスとして「見守り、安否確認、声掛け」がランキングトップになったことは、普段は元気でも、いざという時に備えて、異変を察知したり、手を貸してくれたりする態勢の確保を求めていると言える。

また、東京都区部でも「買い物、移動販売、薬の受け取り」が道府県都・政令市編と同じ2位になった点も注意を引く。農林水産政策研究所が発表している、食料品アクセス困難人口の推計(2015年)でも、東京都区部は65歳以上人口の8~25%が「困難」と推計されており8、改めて東京都区部も、食料品アクセスが重大な問題であることが示された。

筆者の研究対象である「送迎、公共交通の充実」は、道府県都・政令市編に比べると順位が低い5位だったが、寧ろ、東京都区部でも高齢者向けの移動手段に対する一定のニーズがあると理解すべきだろう。例えば、個別調査に生活ニーズに関する設問が無かったため、本稿ではランキング調査の対象外とした渋谷区でも、「公共交通機関(鉄道・バス)を利用して区内の目的地まで移動する場合、不便と感じることはありますか」との設問に、24%が何らかの不便があると回答している9
 
8 農林水産政策研究所HP(https://www.maff.go.jp/primaff/seika/fsc/faccess/a_map.html#4)
9 渋谷区(2020)「高齢者保健福祉計画及び 介護保険事業計画に係る実態調査結果報告書」
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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