2022年07月07日

2022・2023年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.304]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―欧米に遅れる日本経済の回復

2022年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.1%(年率▲0.5%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった。まん延防止等重点措置の影響で民間消費が前期比0.1%の低い伸びにとどまる中、設備投資が前期比▲0.7%と2四半期ぶりに減少したことに加え、外需寄与度が前期比▲0.4%と成長率を大きく押し下げた。

日本経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4-6月期に前期比年率▲28.1%と過去最大のマイナス成長を記録した後、2020年後半は高成長となったが、2021年に入ってからはマイナス成長とプラス成長を繰り返している。実質GDPは、米国が2021年4-6月期、ユーロ圏が2021年10-12月期にコロナ前(2019年10-12月期)の水準を上回ったが、日本の実質GDPは2022年1-3月期時点でもコロナ前を▲0.6%下回っている[図表1]。
[図表1]日米欧の実質GDPの比較
また、日本は消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比年率▲10.9%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に経済活動の水準が大きく落ち込んでいた。直近のピークである2019年4-6月期と比較すると、2022年1-3月期の実質GDPは▲3.4%低い水準となっている。経済活動の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。

2―円安・原油高の影響

米国が高インフレに対処するために政策金利を引き上げる一方、日本が金融緩和政策を継続していることから、日米金利差が拡大し、大幅な円安・ドル高が進行している。円安にはメリットとデメリットの両面があるが、最近はデメリットが強調されることが多い。

円安による日本経済への影響をみるために、海外経済の実質GDP(所得要因)、実質実効為替レート(価格要因)を説明変数とした輸出関数(実質輸出)を推計すると、財輸出の価格弾性値は近年低下している一方、インバウンド需要の拡大などから、サービス輸出の価格弾性値は上昇している。

円安10%による対外収支への影響を試算すると、貿易収支は2010年度時点では3.5兆円の改善効果があったが、現在(2021年度) は0.8兆円と収支の改善幅が縮小する。内訳をみると、実質貿易収支の改善幅は4.0兆円から2.2兆円へと縮小し、交易条件(交易利得・損失)の悪化幅が▲0.6 兆円から▲1.5兆円へと拡大している。一方、サービス輸出は0.2兆円から0.8兆円へと改善幅が拡大している。ただし、新型コロナウイルスに関する水際対策として実施されている入国制限が大きく緩和されることがなければ、サービス輸出については円安の恩恵を受けることは期待できないだろう。

第一次所得収支の改善幅は1.4兆円から2.2兆円へと拡大している。これは、第一次所得収支の金額が増えており、円安の恩恵をより受けやすくなっているためである。

貿易収支、サービス収支、第一次所得収支の合計、すなわち経常収支への影響をまとめると、10%の円安による経常収支の改善効果は、10年度時点の5.1兆円に対し、現在では3.8兆円となる。円安による効果はかつてに比べれば小さくなっているが、対外収支全体で考えれば依然としてプラスであるという見方ができる[図表2]。
[図表2]円安10%による対外収支への影響
ただし、円安のメリット、デメリットは経済主体による差が大きいことには注意が必要だ。たとえば、輸出産業が最も大きな恩恵を受ける一方、国内需要中心の非製造業、価格転嫁が難しい中小企業ではマイナスの影響を受けやすい。また、一定の価格転嫁が可能な企業と違って家計は短期的には物価上昇による実質所得の目減りというマイナス面を大きく受けることになる。

3―実質GDP成長率の見通し

まん延防止等重点措置が3/21に終了したことを受けて、サービス消費との連動性が高い小売・娯楽施設の人出は持ち直しており、5月のGWにはコロナ前を明確に上回る水準まで回復した。GW終了後は減少に転じたものの、2020年、2021年の同時期の水準は大きく上回っている。

日本銀行の「消費活動指数」によれば、実質サービス消費は、2022年1-3月期に前期比▲3.1%と落ち込んだが、月次では2022年1月の前月比▲4.5%、2月の同▲3.0%の後、3月が同4.9%、4月が同2.0%の増加となった[図表3]。
[図表3]小売・娯楽施設の人出とサービス消費
2022年4-6月期は前期比年率3.9%のプラス成長を予想する。ロックダウンの影響で中国向けの輸出が急減し、外需が成長率の押し下げ要因となるものの、外食、旅行などの対面型サービスを中心に民間消費が高い伸びとなることが成長率を大きく押し上げるだろう。

2022年7-9月期以降も、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、これまで積み上がってきた貯蓄の取り崩しによる民間消費の高い伸びを主因として、潜在成長率を上回る成長が続くことが予想される。ただし、資源価格の一段の高騰、中国経済の低迷長期化、金融引き締めに伴う米国経済の減速、電力不足による経済活動の制限など、下振れリスクは大きい。また、新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、新規陽性者数は今後も増減を繰り返すことが見込まれる。感染拡大のたびにこれまでと同様に行動制限の強化を繰り返せば、消費の持続的な回復は実現しないだろう。

実質GDP成長率は2022年度が2.0%、2023年度が1.7%と予想する。実質GDPは2022年4-6月期にようやくコロナ前(2019年10-12月期)の水準を回復するだろう。実質GDPが直近のピークである2019年4-6月期の水準を回復するのは、2023年10-12月期になると予想する。

4―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2022年4月に前年比2.1%となり、消費税率引き上げの影響を除くと2008年9月(2.3%)以来の2%台となった。

これまでコアCPIを大きく押し上げてきたのは、原油高に伴うエネルギー価格の大幅上昇だったが、ここにきて上昇ペース加速の主因は食料品(除く生鮮食品)へと移りつつある。

食料品は2022年4月には前年比2.6%まで上昇率が高まったが、川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、2022年夏場には4%近くまで加速する可能性が高い。

原油価格は高止まりしているが、物価高対策(燃料油価格激変緩和措置)の影響で、エネルギー価格の上昇率は徐々に鈍化する公算が大きい。一方、円安による物価上昇圧力が高まる中で、食料品に加え、日用品や衣料品などでも価格転嫁の動きが広がることが見込まれる。

コアCPI上昇率は、エネルギー価格の上昇ペース鈍化を食料品の上昇ペース加速が打ち消すことにより、当面2%台前半の推移が続いた後、携帯電話通信料値下げの影響が一巡する秋頃には2%台半ばまで高まることが予想される。

ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。賃金の伸び悩みが続く中では、サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年度後半には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。

コアCPI上昇率は、2022年度が前年比2.2%、2023年度が同0.9%と予想する[図表4]。
[図表4]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年07月07日「基礎研マンスリー」)

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