2022年07月01日

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1. はじめに

コロナ禍以降、全国的にオフィス需要が停滞し空室率が上昇するなか、札幌市の空室率はコールセンター企業などによる新規開設ニーズに支えられ、全国主要都市の中で最も低い水準で推移している。一方、成約賃料には頭打ち感がみられる。本稿では、札幌のオフィスの現況を概観した上で、2026年までの賃料予測を行う。

2. 札幌オフィス市場の現況

2. 札幌オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2022年6月時点)は2.8%(前年同月比▲0.5%)となり、全国主要都市の中で最も低い水準となった(図表-1)。2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、多くの主要都市で、景気悪化やテレワーク普及などを受けて空室率が上昇するなか、札幌市では、コールセンターやIT関連企業の新規開設・拡張ニーズに支えられ、空室率が低下している。

空室率をビルの規模1別にみると、「小型4.6%(前年比+0.2%)」が上昇した一方、「大規模1.3%(同▲0.7%)」、「大型2.6%(同▲0.7%)」、「中型5.0%(同▲0.1%)」は低下した(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 札幌オフィスの規模別空室率
全国主要都市の成約賃料は、オフィスの解約や事業拠点の一部閉鎖などにより空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。札幌市の2021 年下期の成約賃料は、前期比+0.6%、前年同期比▲8.4%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2021 年の札幌市の空室率と成約賃料の動き(前年比)を他の主要都市と比較すると、他の主要都市では空室率が上昇したのに対して、札幌市は前年からわずかに低下した。一方、成約賃料は、他の主要都市では概ね横ばいとなったのに対して、札幌市では前年を下回った(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した札幌市の賃料サイクル2は、2013年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年上期以降、空室率は低位で推移し、賃料は一進一退の動きとなっている(図表-5)。
図表-4 2021年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 札幌オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、総ストックを表す「賃貸可能面積」は、「THE PEAK SAPPORO」や「THE PLACE SAPPORO」等が竣工した一方で、建替えに伴う大型ビル(「札幌第一生命ビル」)の閉鎖等があり、51.6万坪(2021年末)と横ばいとなった。一方、テナントによる「賃貸面積」は50.3万坪と前年から大きな増減がなく、2021年末の「空室面積」は1.3万坪となった(図表-6)。
図表-6 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2021年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.4%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(27.0%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.3%)」、「南1条以南地区(14.5%)」、「北口地区(13.6%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、建替えに伴う閉鎖等により「駅前通・大通公園地区」(前年比▲4.8千坪)で減少したが、新規供給のあった「北口地区」(同+5.2千坪)等で増加し、札幌ビジネス地区全体で+0.4千坪の増加となった(図表-9)。

一方、テナントによる賃貸面積は、「駅前通・大通公園地区」(前年比▲4.3千坪)で減少した一方、「北口地区」(同+3.5千坪)や「創成川東・西11丁目近辺地区」(同+0.7千坪)等で増加し、全体で+0.6千坪の増加となった。この結果、空室面積は全体で▲0.3千坪の減少となった。
図表-8 札幌ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2021年)/図表-9 札幌ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2021年)
エリア別の空室率(2022年5月時点)を確認すると、「南1条以南地区3.4%(前年比0.7%)」と「駅前東西地区2.3%(同+0.6%)」で上昇した一方、「駅前通・大通公園地区1.4%(同▲1.5%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区2.9%(前

エリア別の募集賃料(2022年5月時点)は、「駅前通・大通公園地区:前年比+0.5%」、「南1条以南地区:同+0.6%」、「駅前東西地区:同+0.7%」、「創成川東・西11丁目近辺地区:同+0.9%」、「北口地区:同1.4%」となり、いずれのエリアも底堅く推移している。(図表-10右図)。
図表-10 札幌ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 札幌オフィス市場の見通し

3. 札幌オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、札幌市の転入超過数は2008年を底に緩やかな拡大傾向にあり、2021年は+9,711人となった(図表-11)。

総務省「国勢調査」によれば、札幌市の就業者数は、2015年の84.4万人から2020年の100.9万人と、2015年比で+20%増加した。業種別にみると、オフィスワーカーの比率が高い「情報通信業」の就業者は、2015年の3.1万人から2020年の4.3万(2015年比+38%)に、「学術研究,専門・技術サービス業」の就業者は、2015年の3.2万人から2020年の4.4万(2015年比+38%)となり、大幅に増加している(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 札幌市の就業者数
一方、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、札幌市の生産年齢人口は減少が続いている(図表-13)。
図表-13 札幌市の生産年齢人口
以下では、札幌のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「北海道」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(北海道財務支局)は、2020年第2四半期に「▲41.8」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2022年第2四半期は「+8.3」とプラスに回復した(図表-14)。景況感の悪化幅は、全国平均と比べて、やや小さい傾向にある。

「従業員数判断BSI4」(北海道財務支局)は、人手不足を表わす「+36.1」(2020 年第1四半期)から「+12.3」(第2四半期)へ低下した。その後は回復に向かい、2022 年第2四半期は「+24.3」となり、全国平均(+15.8)を上回り、人手不足の状況が継続している(図表-15)。
図表-14 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-15 従業員数判断BSI(全産業)
北海道では、コロナ禍が「企業の経営環境」および「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べて限定的であった。また、札幌市の生産年齢人口は減少基調で推移しているものの、就業者数は、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」を中心に増加している。以上の状況を鑑みると、今後5年間では札幌市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと思われる。
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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