2022年06月09日

ロシアの物価状況(22年5月)-インフレ率は減速に転じる

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:前年比、前月比ともに低下

6月8日、ロシア連邦統計局は消費者物価指数を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数(22年5月)】
前年同月比は17.10%、市場予想1(17.35%)を下回り、前月(17.83%)から低下(図表1)
前月比は0.12%、予想(0.20%)を下回り、前月(1.56%)から減速

【コア指数2(22年5月)】
前年同月比は19.87%、予想(20.00%)を下回り、前月(20.37%)から低下(図表2)
前月比は0.40%、予想(0.50%)を下回り、前月(2.01%)から減速

(図表1)ロシアの消費者物価上昇率/(図表2)ロシアのインフレ率
 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 生鮮食品など季節的要因による影響を受ける品目や管理品目を除いた指数。

2.結果の詳細:インフレはピークアウトの兆し

5月のロシアのインフレ率は前年比で17.10%となり、4月の17.83%から低下した。ただし、15年のピーク(15年3月の16.92%)を超える水準にある。

大分類別に見ると、食料品が前年比で3月17.99%→4月20.48%→5月20.05%、財(非食料品)が3月20.34%→4月20.19%→5月19.20%、サービスが3月9.94%→4月10.87%→5月10.03%となり、いずれも伸び率は低下している。

コア指数も前年比で3月18.69%→4月20.37%→19.87%となり伸び率が低下した。

5月のインフレ率を前月比で見ると0.12%と。2月(7.61%)、3月(1.56%)記録した伸び率から急減速し、ウクライナ侵攻前の伸び率(多くの月でゼロ%台)となっている(図表3)。

一方、別途、ロシア連邦統計局が公表している週次のインフレ率(消費者物価上昇率)で見ると、週次ペースでの上昇は5月下旬以降、マイナスもしくは横ばいで推移している。6月3日には前週比▲0.01%となった(図表4)。
(図表3)ロシアのインフレ率(前月比)/(図表4)ロシアのインフレ率(前週比)
ロシアのインフレ率と家計のインフレ期待 月次や週次上昇率の急減速からは、消費者物価の上昇がピークアウトした可能性がうかがえる。為替レートが増価したことも、物価のピークアウトに寄与したものと見られる。

なお、ロシア中央銀行が公表する家計のインフレ期待(1年先、実際のインフレ率よりも高めになる傾向がある)は5月で11.5%と10%程度まで低下しており、家計は物価上昇のピークアウトを予想している(図表5)。
次に、品目別の上昇率を見ると3(図表6)、前年比ではグラニュー糖(61.39%)、海外旅行サービス(49.41%)、穀物・豆(36.26%)、洗剤(33.27%)の上昇率が高い。

また、テレビ(15.14%)、電化製品(27.15%)は前年比伸び率は高いものの、前月比で見ると下落が続いている(前月比ではテレビ▲2.91%、電化製品▲0.53%)。

前月比では、5月は卵(▲11.62%)、その他サービス(▲8.22%)、海外旅行サービス(▲6.61%)の下落幅が大きかった。他方、前月比の上昇幅が大きかったのは健康増進サービス(3.59%)や洗剤(2.19%)である。ただし、前月比の上昇幅は総じて限定的だったと言える。
(図表6)ロシアの品目別インフレ率
各品目の消費ウエイトも考慮して、全体のインフレ率への寄与を品目別に見ると(図表7・8)、前年比上昇率への寄与が大きい品目は青果物(1.2%ポイント)、乳製品(0.8%ポイント)、肉(0.7%ポイント)、家庭サービス(0.5%ポイント)だった。前月比上昇率の寄与は、マイナス寄与の品目が目立っており、その他サービス(▲0.1%ポイント)、青果物(▲0.1%ポイント)、卵(▲0.1%ポイント)、海外旅行サービス(▲0.1%ポイント)のマイナス寄与が大きかった。
(図表7)ロシアの品目別インフレ率(前年比寄与度、抜粋)
(図表8)ロシアの品目別インフレ率(前月比寄与度、抜粋)
なお、現時点で統計局ウェブサイトでは乗用車の上昇率が公表されていないが、4月時点では、乗用車の前年比上昇率寄与(2.6%ポイント)が大きい状況であり、引き続き今後の動向が注目される(図表9)。
(図表9)ロシアの品目別インフレ率(前年比寄与度)
(図表10)ロシアの品目別インフレ率(前月比寄与度)
 
3 大分類である食料品、財(非食料品)、サービスをそれぞれ細目別に分類したもの(中分類)のうち、統計局のウェブサイトで公表しているものを記載。ウェブサイトで中分類が公表されていないものは、より細かい品目(小分類)のデータを記載。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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